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ゴッホの見た星空(41) ゴッホの《星月夜》には月が描かれているので、星月夜の風景ではない この絵のタイトルはこれでいいんだろうか?
ゴッホの《星月夜》に描かれた夜空は星月夜の光景ではない
1889年6月のある日、ゴッホは一枚の夜の風景画を描いた。《星月夜》である(図1)。フランス南部の町、サン=レミの療養所で描かれた絵だ。
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この絵の英語名は「starry night」。これは、「星がたくさん見える夜」のことだ。英語の言葉には moon、つまり月は含まれていない。実のところ、星月夜には、月はいらない。星々の輝きだけで、あたかも月があるかの如く明るい夜空。その風情を星月夜と呼ぶからだ。
ゴッホの《星月夜》には、形は細いながら、月がある。これでは星月夜にならない。なぜ、この絵に《星月夜》という名称が与えられたのだろうか? ずっと、こう思っていたが。一方、この絵に限って言えば、それは些細な問題である。なぜなら《星月夜》には細い月が気にならないほど、巨大な渦巻が夜空に横たわっているからだ。この絵を見た人の目は、この渦巻に釘付けになる。ということで、私も《星月夜》という名前を受け入れてきた。皆さんも、そうだろう。
小林秀雄『ゴッホ』
小林秀雄とゴッホと言えば、『ゴッホの手紙』という作品が思い浮かぶ(図2)。
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私は小林秀雄の『ゴッホ』という本も持っている(図3)。非常に立派な単行本で、二重のダンボールケースに収められているものだ。この『ゴッホ』の本には注意書きとして次の文章がある。
本書は新潮社第五次『小林秀雄全集』および『小林秀雄全作品』(第六次全集)を定本とした。
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奥付を見ると、昭和33年(1958年)の出版だ(図4)。価格は1800円。結構高い本だったのだろう。限定2000部。よくぞ、古書店で巡り逢えたものだ。
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なお、この本は3年前に神田神保町の古書店で見つけ、3000円で買ったものだ。では、すぐに読んだかというと、答えはノーだ。何しろ、重い。また、本をダンボールの箱から取り出すのも面倒。結局、すぐ読むことはせず、本棚の下の段に置きっぱなしの状態が続いた。せっかく巡り逢えたのに、もったいない話だ。
『小林秀雄 美と出会う旅』
最近、もう一冊、小林秀雄の絵画論に関する本が書棚にあることに気づいた。『小林秀雄 美と出会う旅』という本だ(図5)。いつ買ったものかもわからないが、初版は2002年。私が持っているのは二刷りで、2003年発行。おそらく、20年ぐらい前に新刊書店で見かけて買い求めたのだろう。
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この本はゴッホの絵を含めた西洋絵画、そして日本画、さらには骨董に関して、小林の意見をまとめてくれている。図版もフルカラーで、非常に読みやすい。これを読んでいるうちに、小林の『ゴッホ』(図3)を紐解いてみる気になった。
《星の輝く夜》
小林の『ゴッホ』(図3)にはカラー・モノクロを合わせて数十枚のゴッホの絵が掲載されている。そこには《星月夜》もあった。ところが、である。絵の題名は《星月夜》ではない。なんと、《星の輝く夜》になっているではないか! (図6)
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《星の輝く夜》。これは英語名の「starry night」の日本語訳としては適切だ。小林は《星月夜》という名前を使っていなかったのだ。
なお、新潮文庫の小林の『ゴッホの手紙』には《星月夜》の絵は掲載されていないのが残念だ。小林の本意はわからないが、『ゴッホ』の原典は先ほど紹介したように、次のようになっている。
本書は新潮社第五次『小林秀雄全集』および『小林秀雄全作品』(第六次全集)を定本とした。
それはさておき、《星の輝く夜》は自然で、よい名称だ。私も小林を見習って、《星の輝く夜》を使うようにしようかと考えている。
問題は、あまりにも《星月夜》という名称が定着していることである。私ひとりが《星の輝く夜》を使っても、どうしようもないのかもしれない。
ちなみに、『ゴッホ』では《夜のカフェテラス》は《星の夜のキャフェ》と紹介されている。「星の夜の・・・」という表現も心地よい。
うーん、どうしたものか・・・。
小林秀雄にご助言いただきたいものだ。小林は何と言うだろうか?
「まあ、好きにしなさい」
そう言ってもらえるとありがたい(図7)。
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