死人のおれとオニの指導者
生まれて初めて創作を書きました…。
NNさまの企画に参加させていただきます。
↓
約50時間ぶりに寮のドアを開けたとき、それはそこにあった。
小ぶりの植木鉢。
その中の土から、にょきにょきと何本も突き出た、ミイラのような指。
いや、指のような枯れ木のような…枝?
なんだこれは。
おれは働かない頭で考えた。
わからない。
とりあえず部屋の中へ移動させた。
こんな得体のしれないもの、ほかの研修医には見られたくない。
その植木鉢にはメモが貼りつけてあった。
" ユーフォルビア プラティクラダ "
と書かれたメモが。
なんの呪文だ。不気味すぎる。
ミイラの指に見えた茶色のその枝は、今にもざわざわと動きだしそうだ。
この春、医師免許を手にしたおれは意気揚々とこの病院に着任した。明るい未来しか見えなかった。
研修はもちろん緊張したし、怖いことも怒られたこともたくさんあった。
でも最近の病院は研修医を大事にするという噂どおり、おれはそこそこ可愛がられた。
明るい未来は、しかし内科研修のスタートとともに見えなくなった。
内科の指導医、オニ村。初日からおれは目をつけられた。
笑いも怒りもしない無表情で、重箱の隅をつつくようにおれを追いつめる。
手技もろくに教えてもらえず、雑用ばかりじゃないか。それなのに真夜中でも容赦なく呼び出される。もうクタクタだ。
おとといの朝。
一睡もできなかった当直が明け、おれはトイレに駆け込んで吐いた。
オニ村はそんなおれを見てこう言った。
「死人のような顔をして患者の前に出るな」
おれの中の何かがキレた。
「じゃあ帰ります。死人になりたくないんで」
そう告げて寮に帰った。
こんなパワハラ病院辞めてやる。
あいつの顔なんて見たくない。
それから3日目の今、おれの目の前に植木鉢がある。
困り果てたおれは無意識にスマホを見やり、メールが届いているのに気づいた。
送信元は「小田村先生」。
オニ村!
震える指でメールを開いた。
『ググったか?』
なんのことだ?
ああ、この前「この症例で第一選択の抗菌薬は?」ときかれて答えられなかったことか?
いやまさか?
おれはあのメモに書かれていた呪文を検索した。
植物名 ユーフォルビア プラティクラダ
英名 Zombie Plant
ゾンビ プラントだと?
ゾンビ植物?
おれがゾンビってか?
ふざけるな。オニのくせに。
死ねない死人、ゾンビか。
上等じゃねえか。
このメールに返事をするか、おれは迷った。
スルーしてやるか。
明日病院に行ったらオニがどんな顔をするか、見ものだな。
おれは、久しぶりに笑った。
(999字 ギリセーフ!)
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