眠れる森と眠れない夜
テレビ画面には、古本屋の店内が映っている。
本棚を見上げていた少女が本を選び、それを店主が包む。本の表紙が一瞬画面に映った。
なんの本だろう。
気になった私は録画を巻き戻し、もう一度再生する。
ここだ。再生を停止し凝視した。
それは、この本だった。
ミステリーの巨匠エラリー・クイーンの「エジプト十字架の謎」。
残念ながら私は読んでいないのだが、国名シリーズの中でも名作といわれている作品らしい。
しかし、年端もいかない少女が読むには少し猟奇的すぎる内容のようだ。
なぜ、このドラマの作り手はこの本をこの子に選ばせたのだろう。
話は数日前に遡る。
遠方に住む友人からLINEが届いた。
「『眠れる森』の再放送をやるみたいだから観るように!」
それに続いて
「ネタバレを決してみてはならぬ」
とのことだ。
「眠れる森」? 知らないなぁ。
ググってみると、1998年に放映された民放ドラマのようだ。中山美穂さんと木村拓哉さん主演。
当時とても話題になったそうだが、あの頃は今にもましてドラマを観ていなかった。タイトルもまったく記憶にない。
私は普段ネタバレを自ら探すタチなのだが、このドラマはミステリーであり衝撃的なラストであるゆえ、決して先取りしてはならぬと友は言う。
承知した、友よ。
高校からの長い付き合いのこの友はかなりの数のドラマや映画を観ていて、その目は確かだ。
私は録画予約をした。うっかりネタバレを検索しそうになる自分に喝を入れた。
そして今週、そのドラマの数話を観た。
面白えじゃないか。私は1998年なにをしていたのだ。
中山美穂さんも木村拓哉さんも若い。美しい。
我が推しである木村さんは、なにやら得体の知れないキャラのようだ。1、2話はほとんどヤバいストーカーだ。
まだ序盤なので先の見通しはまったくわからないが、すでに様々な伏線が散りばめられられているのはわかる。
ミステリードラマのキーポイントは初回にあるのではないか。そう思った私は第1話(再放送では1、2話)を夜遅くまで見直した。
初回のオープニングにいきなりドラマの核心となるような映像が流れるのだが、エンドロールにも同じ映像が使われている。
しかし、竹内まりやの主題歌に乗ったエンドロールのそれは、オープニングより長く映しているのに気がついた。
雨のクリスマスイヴ。
ミサをやっていたらしい教会が見える。カメラはそこからゆっくり左に動く。
教会のすぐ隣の民家はものものしい雰囲気だ。パトカーの赤色灯。大雨の中、警察官によって運び出されるビニールシートに包まれた人間のような物体。傘をさした大勢の野次馬。教会の入り口で怯えている聖歌隊の子どもたち。
ほんの何秒か、ひとりの男の姿がアップになる。手が震えているように見える。誰だろう。
カメラはさらに左へ動く。
人けがなくなった道に、あるものが映っている。珍しくもないものがポツンと置き去りにされているように見える。
それに焦点が当たったとき、主題歌の長調が不協和音に変わった。
ドラマを全部観終えたとき、これらが何を示唆していたのかわかるのだろう。
それが楽しみであり、少し怖くもある。
私の眠れない夜はしばらく続きそうだ。
※ドラマが終わったら答え合わせをしようと思います。このドラマをご存知のかたは、私の推理が当たるかどうか生温かく見守っていただければ幸甚です。