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いい加減『怪怪怪怪物!』の話しようぜ
皆様はギデンズ・コーという人物をご存知だろうか。
『あの頃、君を追いかけた』という青春映画を撮った台湾の映画監督である。
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個性あるキャラクター、テンポの良い作劇、パワフルな下ネタ、瑞々しさ溢れる描写、切なさと幸福感の両方を味わえる物語など、良いところが沢山ある快作青春映画である。
さて、本日ご紹介するのはそんな青春描写に定評のあるギデンズ・コー監督作品の一つ
『怪怪怪怪物!』である
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さて、これ見た方は最初に「なんじゃこのとんちきなビジュアルとタイトルは!?」と驚き、次に「いやでも、よくあるモンスターパニックものだろう」と思うだろう。
確かにモンスターが出てくるし流血シーンも多い。パニックものの要素があることは否定しないが、ところがぎっちょん、この映画は先に紹介した『あの頃、君を追いかけた』と同じく紛うことなき”青春映画”である。
違いと言えば人が死ぬか死なないかくらいである。
この映画の面白いところは登場するモンスター(作中では”吸血鬼”という扱い)は飽くまで演出上の装置に過ぎないということだ。要はモンスターをどうこうする物語ではなく、モンスターとの交流(?)を通じて高校生たちの残忍性・加虐心・凶暴性といった負の要素を浮き彫りにする構成となっている。
『あの頃、君を追いかけた』が青春の”陽”を描いた作品であるなら、本『怪怪怪怪物!』は青春の”陰”を描いた作品であると言えるだろう。私は本二作を勝手に「ギデンズ・コーの青春二部作」と呼んでいる。
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簡単なあらすじを紹介する。
舞台となるいじめが蔓延る(という表現は生ぬるいくらいの地獄)高等学校でいつも虐められている主人公は、いじめっ子たち(という表現も当然生ぬるく、今すぐ刑事罰を受けるべきロクデナシ連中)と行動中に”吸血鬼”の姉妹に遭遇。偶然にもその”妹”を捕獲することに成功したいじめっ子達は、その残虐心と遊び心からその吸血鬼を幽閉し”拷問”を始める。主人公もその行為に加担させられるが…。
さて、「吸血鬼の妹を拷問」するというどう考えてもロクな結末が想像できない導入である。当然、姉吸血鬼によるジェノサイド的見せ場もしっかり用意されているのでホラー映画ファンは安心してほしい。
本作の主人公はひどいいじめられっ子である。暴力・恐喝行為を振るわれるのは当たり前でいつもいじめっ子たちの言いなり。彼らから命令されれば「吸血鬼の拷問」行為も断ることができず、残虐な行為に加担せざるを得ない。
一方、妹を監禁・拷問されることとなった吸血鬼姉は悲しみと怒りに震え、高校生たちへの逆襲を試みる…。
いじめっ子⇒主人公⇒吸血鬼⇒高校生たち…というターゲットの移り変わりが自然だし、登場人物の誰にでも感情移入できる構成である。もっとも、私は早く全員死なないかなと思いながら見ていたが。
本作ではそんな高校生たちの残酷な青春模様と、モンスターパニック要素が、互いを一切阻害せずにミックスされた一粒で二度美味しい快作である。
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学校生活の様子は目を覆いたくなるほど残酷だし、拷問される吸血鬼妹はあまりにも可哀想だ。どこを見ても地獄。この学校の生徒たちには心が無いのか!?
生徒だけではなく、教師もひどい。担任の女教師は風水オタクで風水にしか興味がなく、いじめ行為も知らんぷり。普通に人として終わっているのでいじめっ子の主犯に「父親がロクデナシだからお前もロクデナシ」発言をして恨みを買ってしまう始末である。この女教師も当然、これ以上ないくらいひどい目に会う。ホラー青春映画では全員が恐怖から逃れられないのだ。
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途中までも大変面白い映画だが、本作を特別たらしめているのはラストシーンである。何が起きるのかは勿論ここでは説明しないが、ポイントは主人公が己のことさえも許せず、嫌いだったということである。
いじめっ子の言いなりで、対抗すら満足にできず、取り返しのつかない悪事に加担させられ、吸血鬼へは申し訳なさは抱きつつも拷問行為は止められない。とにかく”自分”が無く、流されるがまま。自分一人では何ひとつ終わらせることができない中途半端でグズグズな人間。そんな主人公が”一線”を超えた時に何をするのか。
正直言って、この結末はあまりにも胸がすくものだった。極めて爽快で、残酷で、狂気的で、カタルシスに溢れる。衝撃的な結末ではありつつも、これ以上の結末が考えられないとも同時に思える。ホラー映画史に残る名シーンであると思う。
まとめるが、『怪怪怪怪物!』はホラー/青春という異なる要素をミキサーでぐちゃぐちゃになるまで混ぜ合わせた快作にして怪作である。
本作は一風変わった作風を好む人、青春モノが好きな人、モンスターパニックものが好きな人、自分の世界を変えたいと思っている人など、幅広い層に薦められる作品になっている。こんなに人が死ぬ青春映画はまずないという意味では極めて奇抜だし、残酷な”いじめ”の物語はマスにも刺さるだろう。
普段このようなジャンルを見ない人も一旦色眼鏡を外し、異色の体験に身を任せてほしいと切に願う。
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以上。