🟨 続･日本人の9割が知らないタイ飯 ⑥〜もう一つのあんかけ焼きそば〜 🟨

2024年11月2日 12:42

タイであんかけ焼きそばといえば

日本人にはあまり知られてないかもしれないけど､タイで有名なあんかけ焼きそばといえばラートナー(ราดหน้า)｡パリパリ揚げ麺やセンヤイやセンミーにとろみのついた餡をかけて食べる麺料理｡屋台や食堂やフードコートには大抵専門店がある人気メニュー｡

日本の｢長崎ちゃんぽん｣にそっくりって言われることが多いけどあんかけ麺だし､麺も揚げ麺と茹で麺を選べるポイントもかなりソックリ｡

でも今回取り上げるのはラートナーよりはかなりマイナーなあんかけ焼きそばのゴイシーミー(โกยซีหมี่)｡麺に餡をかけるってポイントは同じでぱっと見もかなり似てるけど麺の種類､餡の材料に違いがある｡

ラートナーが屋台､食堂､フードコートなどいろんなところで見かけるのに対してゴイシーミーはけっこうレア｡まず屋台で売ってるのは見たことないしフードコートでもほぼ見かけない｡
どこで見かけるかというと､エアコンがない大衆食堂､いわゆる｢町中華｣=タイ式中国料理店に多い｡あるいはやや高級な中国料理店､クックショップと呼ばれるタイ式ファミレスなどにもある｡
ラートナーがタイ化､大衆化してるのに対してゴイシーミーは中国料理カテゴリに留まってる印象｡

ラートナーのように専門店は滅多になくて数多くの中国料理メニューのひとつだったりする｡こういう中国系のお店は広州系中国人の経営が多くゴイシーミーを提供するお店も広東料理店が多い｡

ゴイシーミーの麺はバミー一択｡茹でたバミーを中華鍋で焦げ目がつくまで揚げ焼きにして外はパリ､中は柔らかな状態で上に餡をかける｡この揚げ焼き具合がゴイシーミーのポイントだけどそうじゃないお店もけっこうあったりする｡餡の材料は鶏肉とタケノコの細切り､キノコ､ニラなど｡餡の味付けはあっさり系で基本醤油､オイスターソース､砂糖など｡

ちなみにゴイシーミーに揚げ焼き麺じゃなくてラートナーに使うような揚げ麺(ミークロープ หมี่กรอบ)を使ってるお店はインチキ(個人の感想です)｡毎回毎回揚げ焼きするのは手間だけどこれじゃなきゃゴイシーミーじゃない｡

ゴイシーミーの起源

ゴイシーミーの名前は中国語の雞絲麵(鸡丝面)に由来すると言われてる｡意味は鶏肉細切り麺｡でもこれで検索しても出てくるのはゴイシーミーとはかなり違うもの｡そもそも茹でた後の麺が鶏胸肉の細切りに似てることから名付けられたので違って当然なんだけど｡出てきたのは伊麵という中国の揚げ麺が台湾に伝わって雞絲麵になったって話し｡レストランのメニューに初めて登場したのが1924年､その後台湾全土に広まったのは戦後らしい｡でも雞絲麵は日清チキンラーメンの原型のような保存用の麺の種類であって料理名じゃない｡

じゃあ麺の種類じゃなくてゴイシーミーのレシピはどこで始まったのかが気になって調べてみた｡例えば雞絲炒麵を検索してみたら単なる鶏肉焼きそばだった｡あんかけと言えば広東麺だろって安易な発想で広州x雞絲炒麵で検索してヒットしたのが肉絲炒麵ってメニュー｡日本語的には｢肉細切り焼きそば｣か｡これが見た目がゴイシーミーに完全一致でビックリ｡

じゃあこの肉絲炒麵はどうやって生まれたのかというと､1950年代の香港で主に上海からの移住者によってもたらされた兩面黃を広東料理に取り込んだものらしい｡兩面黃とはまさにゴイシーミーの麺のように外側の両面を揚げ焼きにした上海発祥の焼きそば｡
※とは言ってもリンク先の画像が揚げ麺(カタ焼きそば)にしか見えないのはなぜだろ｡

タイのゴイシーミー

いろいろ調べてみてもタイにゴイシーミーが伝わってきた時代や経緯の記録が見当たらない｡肉絲炒麵が1950年代の香港で生まれたらしいのでそれより後じゃないかとおぼろげながらに思ってた。そして今回の企画のためにいままで行ったことないお店､行ったことあるけどゴイシーミーを食べたことないお店巡りわしてたある日､意外な話を聞いた｡

そのお店はワンブラパーって言うエリアにある｡この辺りは映画館が並びセントラルデパートの1号店があったりと1960年代にはいまのサイアムスクエアのような街だったらしい｡そんなワンブラパーのど真ん中､閉館してけっこう経つ映画館跡地の前にある老舗バミー屋に入ってゴイシーミーを食べた｡

お店を出る時に店主のおばちゃんにこのお店はできて何年経つか聞いてみたら78年だと言う｡続けてゴイシーミーはいつからやってるか聞いたら創業からメニューは一切変わってないとのこと｡1946年からゴイシーミー？なんかちょっとが時系列的におかしい｡香港で肉絲炒麵が生まれるより前からバンコクでゴイシーミーを売ってたことになる｡

ちなみにここのお店のゴイシーミーは雞絲麵の名の通り極細の鶏肉が餡に混ざってて糸のような感じだった｡でも肉肉しさは皆無｡

気になる情報

そんなこんなでタイにゴイシーミー(あんかけ焼きそば)が伝わった経緯を調べてたら意外すぎる情報が出てきた｡一つは日本や海外の焼きそばを食べ歩いてるという塩崎省吾さんの『あんかけ焼きそばの謎』と言う著作｡もう一つは｢国境と辺域を愛するボーダーツーリスト｣の中村正人さんが書いたコラム『アメリカ由来の中華料理「チャプスイ」日本での現地化の歴史と現在』｡

塩崎さんは｢あんかけ焼きそば｣を､中村さんは｢チャプスイ｣を追っかけてるけどどっちも清朝に中国人移民がアメリカに渡りアメリカで現地化した｢アメリカ中華｣とのこと｡『あんかけ焼きそばの謎』はまだ入手できてないので試し読みで読める範囲しかわからないけど｡

どっちにしても上記の1950年代の香港で上海料理と広東料理融合みたいな話はどうなっちゃったんだろう｡｢アメリカ中華｣のあんかけ焼きそばの麺は揚げ麺なのか揚げ焼きなのか気になるポイントはいろいろある｡

#あんかけ焼きそばの謎焼きそば図鑑㉗
【高田馬場・タイコウ】ミー・クロップ・ラートナー
高田馬場駅にあるタイ料理店です。ミーは「麺」、クロップは「揚げ」、ラートナーは「あんかけ」という意味で、タイ風のあんかけカタ焼きそばですね。粘度が低めのサラサラ餡でした。https://t.co/GxCJ1Y1Pit pic.twitter.com/fhnup2G56O
— 塩崎省吾『あんかけ焼きそばの謎』発売中 (@SaltyDog_wow) August 15, 2024

🟧ゴイシーミーいろいろ

🔸Inter Restaurant

バンコク一の繁華街サイアムスクエアの真ん中にある1981年創業のタイ式ファミレス｡小綺麗な店内はまさにファミレス｡餡はいい感じで美味しかったけど麺が完全に揚げ麺でちょっと残念｡

🔸น่ำเทียน by khanta

オンヌット通り沿いにある広東料理のお店｡もともとはペブリ県にあって創業80年以上｡餡の具材も麺の揚げ焼き具合も完璧｡

🔸プーンラートルーム ห้องอาหารพูนเลิศ ข้าวหน้าไก่ เหลาะงาทิ้น

ヤワラー方面で100年以上続くタイチャイニーズの老舗｡カオナーガイが有名｡透明な餡はいい感じだけど麺の揚げ焼き具合がやや残念｡これじゃバミーナーガイ(บะหมี่น้าไก่)｡

🔸ライヘンポーチャナー ไล่เฮง โภชนา 來興餐室

ヤワラーのソンワット通りの1968年創業の海南式タイスキの老舗｡お店自体が化石のような存在｡とろみ強めの餡､パリパリ感のある麺がいい感じ｡

🔸Goi Si Mi โกยซีหมี่ กุ๊ก ก.จันทร์เพ๊ญ

店名がまんまゴイシーミーなお店みたいだけど正式店名は｢チャンペン(陳平酒楼)のコックのゴイシーミー｣｡つまりラマ4の有名中国料理店の元コックのお店｡ゴイシーミーの餡が白っぽくて優しいお味｡

🔸Gokjai Restaurant & Mooncake (ก๊กจี่)

広東料理店で月餅などの中国菓子も有名なお店｡ゴイシーミーは独特の香ばしさがあるのが特徴｡ごま油じゃない鶏油か豚脂使ってる印象｡