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第13回 We Are the Changeイベントレポート
去る8月20日、第13回We Are the Changeを開催しました。東京では4年ぶりとなったアショカ・ジャパン対面イベントの様子を、写真と動画と共にお届けいたします。(会場提供・開催協力:エッグフォワード株式会社 GOLDEN EGG)
このイベントがきっかけの場に
はじめに、今回の会場を提供してくださったエッグフォワード株式会社の三村様にご挨拶いただきました。
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人って、きっかけやターニングポイントひとつあればすごく変われるということを私自身も実感していますし、会社としてもそれを意義にして突き進んでいます。このイベントも一つの起点だと思うんですよね。そういうものを我々はどんどん作っていきたいと思っています。
また、司会を務めたユースベンチャラーの西村薫さんもイベントへの思いを話してくれました。
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このイベントのテーマをユースベンチャラーで考えて、「みんなで考えるチェンジメーカーの種」としました。
このイベントを通して、私たちの心の中に小さな変化が生まれたらいいなという思いと、それが今日だけで終わるのではなく、ずっと続いていくような、そういうきっかけの場になったらいいなと思っています。
第一部:ユースベンチャラーによる発表
5人のユースベンチャラーが3分ずつ発表した後、興味を持った人のところへ行き、少人数でより深く話を聞いていきました。
①中野実桜:多様性を感じるボードゲームIROIRO
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私は中学三年生の時に、ボードゲームIROIROというものを開発して、今はそれを使ってワークショップをしています。
なぜこの活動を始めたかというと、中学一年生の時に学校の研修でスウェーデンに行く機会があって。現地の幼稚園を訪問した時に、色んな家族の形の写真が貼ってあるポスターが貼ってありました。たとえば、「お父さんが二人と子どもたち」の写真とか、「お父さんが二人いて、お母さんがいて、子どもたち」の写真とか。
幼稚園の先生が「これは子どもたちに、家族の形は色々違うけど、それは間違いじゃないんだよ」って伝えるために作ったそうで、日本とは逆だなって思ったんです。日本では、differentとwrongってどちらも「違う」って言葉に集約されてしまうし。
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私自身、お母さんと二人で暮らしているんですけど、通っている私立の学校ではお父さんとお母さんがいることが当たり前で、あまり人には言えずにいて。その中で人と違うことになるというのは自分自身危ないことだなと思っていました。
それを変えたくて、私がスウェーデンで体感した違いをお祝いするような文化を作りたくてこのボードゲームを開発しました。
簡単に説明すると、「こまりびと」というキャラクターがこのゲームの中に出てきます。中にはLGBTQの子とか、車椅子ユーザーの子とか、色んなアイデンティティを持った子がいて、このこまりびとたちの困りごとをみんなで助け合って解決していくというゲームです。
ワークショップに参加したある女の子が「発達障害があって、友達に言いたいんだけど言えない」って言っていたんですけど、その子はこのボードゲームを使って、友達にニュートラルに話せたって言ってくれました。これからも子どもたちに、「ちがいって間違いじゃないんだよ」ってことを伝えていきたいと思っています。
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②原田伊織:ヤングケアラーが、ケアと人生のバランスを選べるように
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ヤングケアラーは、ここ2、3年ですごくブームになっているトピックです。ただ今の行政の支援や社会の認識というのは、どうしても「しんどい子」「かわいそうな子」というような偏りがあったり、支援や制度も、ケアを軽減することでしんどい部分を取り除こうとするものが多くあります。
ただ、僕自身や周りにいる当事者の話を聞くと、「家族のケアをしたいというのは誰でもそう思うし、それは仕方ないこと。それよりもみんながサッカーしている中で自分だけできなかったり、自分のやりたいことができない、学びたいことが学べない。そういうところに課題がある」と言っています。
自身のやりたいことと、家でのケアのバランスというのをサポートする支援を二つのアプローチで実現しようとしています。
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一つ目は地域の中での取り組みです。僕自身が家の中でしんどい状態になった時に、地域の人に助けられた経験があります。一週間家に泊めてくれたり、ずっと話を聞いてくれたり。そういう存在が周りにいたことで、自分のやりたいことを見つけて、今の活動を始めることができました。そういった地域の中の関わりを増やしたり取り戻したりするために、地域ユースコーディネーターと名付けて、地域の若者をサポートする成り手を増やそうとしています。
もう一つは政策への取り組みです。この春4月にこども家庭庁ができて、こども家庭審議会という、法律づくりの参考にする「こども大綱」の計画づくりが始まりました。僕はそこに大学生当事者として参加して、ヤングケアラーや大学生の視点で政策を作る前の段階から意見を出すことができています。これは大きな政策だけでなく、地域レベルでの政策でももっとヤングケアラーの声を聞くべきだと思っています。そのために「ヤングケアラーボイスアクション」と名付けて、行政には届いていない当事者の声を集めて、政策にしっかり反映していく、という活動を行っています。
③熊谷沙羅:「川の図書館」で人の交流を生み出す
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私は東京都調布市に住んでいます。多摩川の大きなケヤキの木の下で、毎週日曜日「川の図書館」というものをやっています。河原に1,000冊くらいの本を持って行って、来てくれた人が何冊でも持って帰っても良くて、もしお家に要らない本があれば持ち寄ってもらえる、という場所を作っています。持っていくのは1,000冊なんですけど、家には8,000冊ほど蔵書があります。
始めたきっかけは、2020年、当時13歳だった時に始まったコロナです。私と弟は本がすごく好きだったんですけど、図書館が閉まってしまって。その時に「私たちだけじゃ無くて地域の人もきっと困っているんだろうな。でも誰も動いてくれないから私たちがアクションしなきゃ」と思って、川の図書館を始めました。
それが次第に、私たちが想像していなかったことが起き始めて。川の図書館で知らない人たちが勝手に話し始めたんです。全然知らない人なのに!本が置いてあるだけで「この本いいですよ」とか「この本エンディング最高ですよ」とか、そういう小さいところから始まって、川の図書館は調布市の中でも大きいコミュニティになりました。
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④本田純平:歴史観の違いから批判的思考を学ぶ
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元々ものすごく学ぶのが好きで、小学校から自分で色んなことを学校や自分で学んだりしていました。ある日、中学校に上がった時に、この学びたいという欲求が暗記教育の枠組みの中じゃ抑えきれなくなってしまい、「自由登校」ということを経験しました。自由登校というのは、いわゆる不登校のようなネガティブなイメージとは全く違って、「これだけ学びたいのに学校では学ばせてくれない、だから自分で学ぶのでお願いだから時間をください」というものです。
高校はUWC ISAK JAPANという、世界84か国から生徒が集まって学べるようなところで勉強していて。僕は中学校での学びが面白いと感じられなかったので、そこを問いの起点にして、「どうやったら現在の教育がもっと良くなるだろうか」と探究していました。
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色んな国から来た学生たちと「あなたの教育はどうだったの?」と話していく中で、ある日韓国の女の子と話していた時に、日本と韓国の似たような受験勉強の構造に気づいたんですね。これって問題だよねと話して始めたのが、日韓青年会議という活動です。
具体的にやっていたこととしては、暗記教育になりがちな歴史という科目を、暗記としてでは無く批判的思考を学ぶ枠組みとしたプログラムを作りました。日本と韓国では教科書の事実が全く違っていて、たとえば「韓国併合」だったら、日本では単語として学ぶと思うんですけど、韓国だったら70ページ以上割いている教科書もあって。そこに僕たちは着目して、今までにない新しいプログラムを日本と韓国の中高生に届けてきました。
⑤西村薫:プレーパークと、教育をめぐる日本一周の旅
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私は人生のテーマを「主体性」と決めています。小学校や中学校の時は、相手が何を考えているのか、何を求めているのかが分かりすぎてしまうタイプだったので、先生やお母さんに喜んでもらおうとか、人のために自分の行動が決まっていました。義務教育の中では、指示に従える子が先生にとって都合が良く、褒められて育つという、いわゆる優等生の立場でずっと過ごしていました。
高校生になって、日本一を目指すようなすごく厳しい部活動に入って、そこで初めて「指示がなくても動け!」とか「自分の頭で考えてやるんだ」とか「1言われたら10やるのが当たり前だ、それが社会だぞ」っていう風に教えを受けまして、すごくビックリして、さらに自分から行動するという力が全く無い自分にとても落ち込んだ三年間を過ごしました。
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なんで私はこんなに主体性を失ってしまったのか、ということをずっと考えて過ごしていて。大学生になってスイスに一ヶ月ボランティアとして子どもたちと関わる機会があった時に、みんな堂々と自分の選択に迷いなく行動しているのがすごくカッコいいと思って、私もこんな子どもたちを育てられる教育があったらいいなという風に思いました。
千葉に戻ってきて、「禁止事項のない、そしてルールがない、なんでも自由に自分の責任で遊べる遊び場」であるプレーパークを立ち上げたというのが、私の一歩目だったのかなと思っています。
今はプレーパークはもちろんなんですけど、将来的には自分自身の教育の場を持ちたいと思っているので、大きいバックパックを背負って、日本全国をヒッチハイクで回って、全国のフリースクール、オルタナティブスクール、森のようちえんなどを見て学んでいます。今まで日本で築き上げられてきたものの成果を見つつ、そこにある課題を把握した上で、じゃあ自分に何ができるのか、ということを模索しています。
第二部:対話の時間
第二部では2つのグループに分かれて過ごしました。29歳以下の若者チームは、会場内を自由に動きながら、ユースベンチャラーたちと話す時間。
「今、こんなことを計画していて…」
「私もコミュニティを作りたいと思っているんですけど…」
「知り合いのヤングケアラーに対して、私にできることってありますか?」
実際に行動しているユースベンチャラーたちの経験や知見を聞きながら、真剣な話や楽しい話で盛り上がっていました。
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30歳以上の大人チームは、「子どもからチェンジメーカーの素質を引き出すのは、身近な大人の力」と称したセッションへ。ゲストは、登壇したユースベンチャラー熊谷沙羅さんのお母さん、スサナさん。
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「社会の問題の多くは、家庭で起きている」と語るスサナさん。社会の最小単位の一つである家庭の重要さを話してくれました。
小学生くらいの女の子が「パパくさい」って言い出しますよね。そこでママも子どもたちと一緒になって仲間はずれにしてしまうということ、よくあると思います。これは絶対ダメなんです!
家庭でそういうことがOKだと思ったら、子どもは学校で他の子に「くさい」って言ったり、いじめたりしてしまいます。まずは自分の家庭でコミュニケーションをしっかりして、起きている問題を解決すること。それが、地域の問題、社会の問題を解決することにつながると思います。
議論は白熱し、家庭の話から夫婦の話、仕事の話、エンパシーの話へと、参加者が思い思いに話し、あっという間に一時間が過ぎてしまいました。
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アショカ・フェロー渡辺周さんのお話
イベントもそろそろ終わりに近づいてきた頃、ASHOKA基準の社会起業家として認定されたTansa編集長の渡辺周さんからお話ししていただきました。
アショカに出会って、「エンパシー」という言葉を良く聞くようになって、いい言葉だなと思うんですけど、同時に、ジャーナリズムと非常に相性がいいと思ったんですよね。つまり他者に対して思いを馳せるとか、自分を重ね合わせるかということですね。でも単なる他者じゃないんですよね。ジャーナリズムもそうですけど、やっぱり虐げられている人とか、弱い立場で傷ついている人とか、そういう人への思いですよね。
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生涯一記者、ジャーナリストとして終わりたいと思っていたんですけど、あまりにも(ジャーナリズム界が)大変な状況になっていて、もっとジャーナリズムのマインド、エンパシーを教育に取り入れられないかということで、10代や若者を対象にやっています。
実際にTansa Schoolや10代向けのプログラムをやっているんですけど、あるフリースクールの中学生の女の子は、ペットショップで自分のフンを食べている犬が売られているのを見て、「保護犬とか殺処分とか言われているのに何で売られているんだろう?」と彼女なりのピコピコレーダーを働かせて取材していくんですね。店長に直撃取材してインタビューしたり、外国ではペットの売買を禁止しているところもあるということも調べて、これって当たり前じゃないんだと裏のカラクリを明らかにしていくんですね。自分の感性から始まって、足を動かして、取材して、自分なりの結論を出す。そして発信する、というプログラムをやっています。
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今日のユースベンチャラーの皆さんもそうですけど、自分なりの何かひっかかったことに納得しないで突き進めていく。それを繰り返していくことで学校現場が変わっていかないといけないと思っています。
全体的に見ると、明治以来の教育システムだと思うんですよね。富国強兵で始まって、とにかく大人とか上の人が言うことを、正確にしっかり再現しろ、と。富国強兵の「強兵」のところは戦争に負けて一回無くなったけれど、「富国」は続いて、その金儲けでずっと走ってきて、それも過渡期にある。この150年続いてきたシステムがガラリと変わろうとしている時に、まさにユースベンチャラーのような人が活躍する場面だと思うので、ぜひ頑張っていただきたいです。
やっぱりユースベンチャラーのような子は、親の理解がある子たちだと思います。だけど、学校とか色々なところで、本当はいい感性を持っているけれど、日々潰されている人がいると思うんですよね。だから、次回は自分の友達や、我々大人もそういう子達に声をかけて連れてくる、という循環を作って、こういう場所を繰り返していくことで、社会は変わっていくんじゃないかと思います。諦めずに一緒に頑張っていきましょう!
終わりに
最後は、「チェンジメーカーの種」というトピックで感想をシェアしました。
「自分の行動したいという気持ちに火がついた」
「話を聞きながら、私自身はどう思うんだろう?って考え始めたことがいくつもある」
「帰って自分の子どもと同僚に今日の話をしたい!」
と、イベントを通してそれぞれの内側で起きた変化を話していました。
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熱気に包まれたまま閉会した今回のWe Are the Change。終わった後も、まだまだ話したいことがたくさんある人たちが、エネルギーたっぷりで言葉を交わしていました。
次回のイベントは来年の3月に開催する予定です!今回登壇したユースベンチャラーの半年後の姿も楽しみにしていてください!
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