見えない敵と戦う術『エネルギーをめぐる旅――文明の歴史と私たちの未来』レビュー〜

「エネルギー」この誰もが知っている言葉。だがその概念を説明しろと言われて容易に答えられる人は少ないのではないだろうか?この本は、エネルギーに対する考え方とその未来をとても分かりやすく、しかも今までにはない新しい視座から教えてくれる。恐らく読んだ人の大半はエネルギーの概念を変えられるに違いない。

まず著者が考えるエネルギー革命は、一般に言われるエネルギー革命と全く違った切り口である。一般的なエネルギー革命がその時代のメインエネルギー資源の変革、つまり石炭から石油、原子力などに切り替わったことを指すのに対し、著者の言うエネルギー革命は、火の利用、稲作、森林、蒸気機関、電気、肥料といったエネルギーの爆発的増大やエネルギーの変換、その利用しやすさの大変化に注目したものだった。その視点は、石油業界に長年従事した著者ならではの視点であり、読めば納得の新しい概念だ。そして本の後半では、現在最大のエネルギー問題が語られる。それは、このままのペースでエネルギー消費続ければ、人類の生活を支えるだけのエネルギーが足りなくなるということだ。

エネルギーが枯渇する問題。また地球温暖化などのエネルギー利用が引き起こしす問題は日常的にニュースなどでも取り上げられる。しかし、このようなエネルギー問題に僕らは真剣に取り組めているのだろうか?一部の賢い人が言っているから取り組まなければならない。または国・法律などに強制的に取り組まされているという程度の認識の人が多いのではないだろうか?恥ずかしながら、僕はその程度の認識だったかもしれない。

なぜ僕らはエネルギー問題に対しての危機感が薄いのだろうか?それはエネルギーが分かり難いものだからだろう。そもそもエネルギーとは何なのか?それが非常に分かり難い。物理的にも時間的にも捉え難いその性質が、僕らにエネルギーをよく分からないものにしている。この分かり難さを解決しない限り、エネルギー問題を僕らの日常に引きつけて考えてることは難しいのではないだろうか。では、僕らがエネルギーを意識し理解するにはどうしたら良いのかを考えてみたい。

まず少し細かく考えてみる。僕らはエネルギーの何を意識出来て、何を意識出来ないのだろうか?意識出来ていることから考えてみよう。まずエネルギー源は意識出来る。太陽、ガソリン、石炭、電気(電池)は、人間の五感で感じることが出来る。

また人間は、様々な努力でエネルギーを意識出来るようにしてきた。それが単位による見える化だ。本書でも大発明と説明されているジェームズ・ワットによる「馬力(HP)」の発明は、何だか分からないエネルギーを馬の力に置き換えて表現することによってエネルギーを意識出来るようにした。他にも「ニュートン(N)」「ジュール(J)」「ワット(W)」「ボルト(V)」「パスカル(Pa)」など、単位を決めることで人類がエネルギーを意識しやすくしてきた。(※1)

しかし僕らはエネルギーの枯渇や二酸化炭素による温暖化は意識出来ていない。つまりこれは、エネルギーの「未来の危機」に関して僕らは全く意識出来ていないということだ。全くは言い過ぎかもしれないが、意識出来ていない人が多いと思われる。

このように考えるてみると、意識できないのはエネルギー固有の問題ではなく、人間の問題なのではないだろうかという思いが浮かんできた。僕らは、「未来の危機」全般を意識出来ていないのではないだろうか?

8歳のウチの子供は、「そんなに遅く準備していたら遅刻しちゃうよ」と言っても一向に早く支度をしない。そして遅刻をして初めて自分の支度が遅いことに気づく。大人だって大して変わらない。「部下には先に正解を言わない方が良い。実際に失敗を経験しないと成長しない。」と考えてい役職者も多いのではないだろうか?身近な例ばかりではなく、人類は過去の2度の大戦を経験しなければ国連すら作れていない。もちろんシュミレーションによって未来の危機を回避出来る賢い人も僅かにいるに違いない。しかし僕ら人類の大半は、基本的にシュミレーションでは理解出来ない愚か者ということだ。そんな絶望的な思考に陥ってしまったが、未来の危機に対するシュミレーションが多くの人間に機能している例もあったことを思い出した。

それは、避難訓練だ。

避難訓練は、確かに未来の危機に対して有効に働くことが実証されている。ただここで注意が必要だ。それは、避難訓練が、厳密に言うとシュミレーションで意識を高め未来の危機を回避しているわけではないということだ。このことに関しては、別の本を参照したい。それは、西條 剛央氏の著書『クライシスマネジメントの本質: 本質行動学による3.11 大川小学校事故の研究』だ。

この本の著者である西條氏の専門は本質行動学という学問だ。本質行動学とは、物事の本質を捉え、それによって行動を変える学問らしい。(※2)西條氏は、その研究を活かし東日本大震災の時日本最大級の支援組織「ふんばろう東日本支援プロジェクト」を立ち上げ、10万人規模のボランティアが自律的に参加できる仕組みをつくったことで有名な方でもある。 

この本は、3.11の津波により全校児童108人の7割に当たる74人が死亡という痛ましい大川小学校の事故原因を様々な角度から研究し、その本質を深く考察した本だ。大川小学校では、充分に避難する時間があったにも関わらず、間違った避難方法を選択してしまい多くの人命が失われた。なぜ間違った避難方法を採ってしまったのか?それは1つの要因ではなく、不幸にも様々な原因が複数重なった結果だ。だから、コレさえやらなかったらというような1つの事項があるわけではないという結論だ。しかしまさに本質的で重要な指摘が1つある。それは大川小学校で避難訓練が徹底されていなかったという点だ。これがなぜ重要なのか?それは、人間は混乱状況に陥ると正しい判断が出来ない。だから平時に緊急時の行動を決めておき、訓練を行っておく。そして緊急時にはそれを淡々と実行する。ということが本質的なことだからだ。だから、未来の危機を意識するということを目指すのではなく、意識することが出来ないからこそ、平時に対策しておこうという思考なのだ。そしてそのことが、結果的に危機に対する意識を高めるという順番だ。

この思考方法をエネルギーにも当て嵌めてみる。未来のエネルギー危機をシュミレーションによって意識することは難しい。だが、シュミレーションによって危機の際の行動をあらかじめ決めておくことは出来るし有効なようだ。

だから、エネルギーの枯渇や二酸化炭素による温暖化の問題を意識するためにはどうしたら良いのか?この問題に対する僕の考えは以下の通りだ。

僕らは未来のエネルギー問題を意識することは難しい。ただ、シュミレーションによって緊急時の対応を決めておき、行動することは出来る。例えば1年に数回「停電の日」や「ガソリンを買えない日」を作ってみる。これは集団で取り組むべきことなので個人でやっても意味がない。国の単位でやらなければならないだろう。そしてその時に僕らがどんな行動をとるのか?その行動の中に、未来のエネルギー危機に対するヒントが隠されているのではないだろうか?そして、未来のエネルギー問題に対する意識も少しづつ向上するのではないだろうか?

<参考>
※1
国際単位系(SI)
https://japanknowledge.com/contents/common/si.html

※2
本質行動学とは?
https://www.essential-management.jp/%E6%9C%AC%E8%B3%AA%E8%A1%8C%E5%8B%95%E5%AD%A6%E3%81%A8%E3%81%AF/


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