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【18】ちゃんとの合図

その後。
私は、ケイを学校に行かせないことにした。

ここ最近は、もう『学校に行かない選択』というのが
世の中的に、少しずつ受け入れられてきているけど
7年前は、まだまだそうはいかなかった。

担任の先生から何度も電話を頂いて

「ケイくんもいじめられていたんですか?」
とまで聞かれたけれど

「いえ。学校に行くと具合が悪くなるようで」
と答えた。

「朝だけでも来れたら登校させてみてください。」
という先生に

「すみません。それも無理で…」
と毎朝の電話が大変だった。

でも、私は覚悟を決めていたので、前よりも楽だった。

学校に行かなくてよくなったケイは、

昼間、必ず一回はお昼寝をして、
お昼、『ちゃん』が出てくることが多くなった。
そのかわり、家族迷惑にならないように、
夜は出てこないように『ちゃん』に交渉してくれていた。

『ちゃん』も、お昼の方がたくさん遊べて嬉しそうだった。

この頃、過敏性腸炎で中学校をお休みしていたアカルンが家にいて、
『ちゃん』の相手をしてくれて本当に助かった。

今思うと、アカルンのためにも、『ちゃん』がいたおかげで、
学校に行けないことに対する、
いろんな心配事を考えずに済んで良かった。

『ちゃん』は無邪気で、
生活の全てを遊びにして楽しんでいた。

もちろん、食べるものは、ひとつひとつ、口の中に入れるたびに
「ん!おいし!」と楽しんでいたし

食事のあと、口をゆすいで、水を吐き出すのも、
舌をまるめて、ぴゅーっと噴水のように出して、私たちを笑わせるのだった。
(歯磨きは、好奇心で泡を飲みこんでしまいそうで教えないでいた)

窓の外の景色を、ベランダから眺めるのも大好きだった。

少しでも、公園に行っているような気分が味わえるように、
アカルンが、子供の頃遊んでいた室内テントをベランダに広げてくれて、
ピンク色のサーカス小屋のようなテントの中で、
ずーっと外を見ている『ちゃん』はとてもかわいかった

そして
「面白いねぇ。瞬間移動できないから…
あんなのに乗って、遠いとこ行くんだねぇ…」

「歩けるのに。4つのタイヤのついたお部屋作って。
タイヤがコロコロ転がるのを利用して前に進むなんて!
面白いね~。ほんと。楽しいね~。」
と、道路を走る車を見て喜ぶのだった。

『ちゃん』は、地球になれていないので、
私たちは、小さい子に接するように優しく接したし、
とにかく、遊んでばかりいた。

それはもちろん、私たちにとって楽しい日々だったが、
やっぱり、時間が経つにつれ、また私は

(これって…ケイが現実逃避して…
『ちゃん』のふりして過ごしてるんじゃ)

などの、心配の虫がでてきたりしていた。
そして、『ちゃん』に聞いてみた。

「ね。ちゃん。ケイから、学校行かなくなったこととか聞いてる?」

『ちゃん』はある程度、ケイの【知識】は頭の中に入っている。
それを、少しずつ上手に使えるようになっていたが、
【体験】や【思い】まではわからない。

なので、ケイが寝て、『ちゃん』と入れ替わるとき、
二人は、少し【引き継ぎ】のような話をしてからくると、
ケイが前に言っていた。

「うん♪ 良かったねぇ~?
あんなとこ行かなくて良くなって♪
って、どんなとこか知らないけど♪ 」
と、にこにこ答える『ちゃん』。

「うん。ケイね。とっても嫌なことがあって。
だから…『ちゃん』みたいに…
ママたちに優しくしてほしくて…
『ちゃん』に…『ちゃん』のふりして、『ちゃん』になりすまして
こっちにいたりする時ないかな…なんて」

と、自分でも何を言ってるのかわからなくなってきた時、

『ちゃん』がピースサインをした。

「?」と思って見ていたら

「ママもして♪ 」というので、
私もピースサインをすると…

ピースサインをした、『ちゃん』の人差し指と中指を、
私の人差し指と中指の先っちょに、ピトッとくっつけてきた。

「これを合図にしよう!♪ 」と。

「これは、ケイにばれないように、【引き継ぎ】しないから♪」
と、ニヤリと笑った。

「これでチェックすれば~(ニヤリ)
ニセモノのちゃんは、すぐばれる!」

それが、とってもいたずらっぽい笑顔で、かわいくて。

そういう表情の、『ちゃん』を見ていたら
合図なんてなくても、表情、雰囲気、食べ物の好みなどで、
【ケイ】と【ちゃん】は見分けがつきやすいのに…と、
心配性の自分にあきれてしまった。

それからはたまに、
『ちゃん』がこっちに来た時わざと、

「本当のちゃんかなぁ~」
と聞いてみると

『ちゃん』は遠くでアカルンと遊んでいても、
あわてて私のもとに走ってきて、
ピースサインをくっつけるのだった。




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