【32】意識の世界
川に着いて
ケイは、いつものケイだった。
私たちは、まだ、『ちゃん』の顔をしたケイが
(もともと、ケイの顔なんだけれど)
全然、悲しそうでもなく、いつもの通りはしゃいでいるのに
ついていけなかった。
「ね。いい加減、元気出してよ。せっかく川に来てんのにさ」
ケイがあきれていたので、
みんな今だけでも忘れようと、
気持ちを切り替えるようにした。
できるだけ、『ちゃん』のことを忘れようとしていた。
その夜。
川で、はしゃいだケイは早めに寝ていた。
ナッツとアカルンと私は、
ケイの寝顔を見ながら、
「やっぱり。ケイと『ちゃん』って全然違うんだね。」
「ケイは、『ちゃん』が来れなくなるのなんて平気みたいだったね。」
と、不思議な弟を眺めていた。
眠っているケイは、穏やかで、少し幼い顔になっていた。
それを見ていると…
みんな『ちゃん』のことを思い出して泣きたくなり、私たちは、ケイの部屋から出ようと立ち上がった。
するとー
!!??
「カシャクシュコショ#*クルルクシュ〇×□△」
と、久しぶりに小人語が、ケイの口からもれだした。
『ちゃん』が最近来るときは、
目を閉じて、二秒後に出てくるようになっていたし…
『ちゃん』とは、今日、もう来れないとお別れをしたばかりなのに!
久しぶりの小人語に、少し、私たちは警戒した。
少しの静寂のあと…
寝ているケイの唇だけ動いて…
「マーマー。聞こえますかー?」
と、すっとぼけた、いつもの声!
「え。『ちゃん』!?」と答えると
「どこにいる?ママ聞こえてる?」と。
「ママ。ここにいるよ?」と、
ケイの唇をそっとさわると、
「ママ!! 大好き♪」
と『ちゃん』は言った。
唇だけ動かして…。
というか、「唇しか」動かないのだ。
「ちゃん!危ないから来ちゃダメって言われたんでしょ?」
と心配してナッツが言った。
「門番に隠れて来たの?まさか?」
とアカルン。
こうして書いていると
ほんとに、はちゃめちゃなファンタジーでもふざけすぎ。
何それ、唇にむかって話すなんて。
でも、その時の私たちは真剣だった。
『ちゃん』が、危ないことまでして来たのでは?という怖さがあった。
その唇(『ちゃん』のこと)が言った。
「門番には、ちゃーんと言ってるよ。
ここに一緒にいるし。門番。ね🎵」
「というかね、そっちに行ってないんだよ。
門番に、どーしても、『やっぱりママたちに会いたい』
って話を、たっくさんしたの。」
(ちゃんのことだから、しつこかったんだろうなぁ)
「そしたら、危ないから行っちゃだめだけど…て言ってぇ。
そっちの電話みたいなことができるように、
エネルギーをすこーし繋がるようにしてくれたんだ☆」
「しゃべれるし~♪聞こえる♪」
と、ご機嫌だった。
私たちも、その声を聞いていたら嬉しくなった。
単純だけど。
やっぱり、『ちゃん』がいるって思うと嬉しかった。
でも、前よりもますます変な家族になった。
だって…
寝ているケイの、唇としゃべっていたのだから。
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