神楽坂
何年ぶりだろう。
こんなに急だったかな、と思いながらのぼった。
坂の左右に並ぶ店々に目が泳ぐ。
毘沙門天に立ち寄り、手を合わせた。
いくつかの用事を足して、帰りにぜったい食べるぞと決めていたもの。
神楽坂「紀の善」の抹茶ババロア。
美味しいしか言葉が出ない。
一つ空けた隣の席では、スポーツをやっていそうな体格の男性が、豆かんを食べていた。
器からあふれ出そうな豆をむしゃむしゃと。
むかし、御茶ノ水や飯田橋に行くと、神楽坂に寄り道して帰った。
家族への土産に抹茶ババロアとあんみつ。
店内で食べたことは数えるほどしかないが、和の甘味に目がない長男と来たことがある。
彼が幼稚園児のとき。
赤ちゃんだった次男を母にお願いし「夏休みの思い出に」と、ふたりで抹茶ババロアを食べたのだった。
「お母さん、これは天国の味がするね」
熱い緑茶を注ぎにきてくれた店員さんが微笑んでくれた。
あの頃の表現力は何処に。
なんでもかんでも「ヤバい」って言わないでよね、中学生男子よ。