第96回アカデミー賞最終予想(3/10時点)
3月11日(月)8時、いよいよ第96回アカデミー賞が開催される。今年はとにかく『オッペンハイマー』一強。「何が獲るか」ではなく、「いくつ獲るか」だ。どこの予想を見ても似たような状況で、ノーラニスト以外には退屈な年かもしれない(ただ、『オッペンハイマー』が獲らない部門は接戦が多く、それなりに興味深いと考える)。
それでも前哨戦の結果や下馬評に抗うことはできないため、本記事でも『オッペンハイマー』のスイープをベースに予想をしていく。
◆作品賞
[I guessed 10/10]
オッペンハイマー(GG, CCA, DGA, BAFTA, SAG, PGA)
ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ
哀れなるものたち(GG)
バービー
キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン
落下の解剖学
アメリカン・フィクション
関心領域
パスト ライブス/再会
マエストロ:その音楽と愛と
『オッペンハイマー』が重要賞をコンプリートして独走状態。特にクリティクス・チョイス・アワード(CCA)とアメリカ製作者組合賞(PGA)を制しているのが大きい。これらの賞はアカデミー作品賞と同じ投票方式(Preferential Ballot)を採用しているのが特徴だ。この方式は一番良いと思った作品を一本だけ選ぶのではなく、候補作に順位をつけていくというもの。『オッペンハイマー』は現実的で厳しい物語ではあるものの、幅広い支持を獲得していることを示している。また、アメリカ俳優組合賞(SAG)を制しているのも心強い。投票者の中で最も割合が多いのは俳優だからだ。アカデミー賞は『オッペンハイマー』とクリストファー・ノーランに映画界最高の賞を与えることでコンセンサスが取れていると考えられる。
『タイタニック』、『グラディエーター』、『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』……
90年代から00年代のはじめまで、アカデミー作品賞がビッグバジェットの大ヒット作と一致していた時期があった。ところが2009年に『ダークナイト』が作品賞からノミネート漏れすると、完全に流れが変わってしまう。製作費5,000万ドルどころか、3,000万ドルもいかない小品ばかりが作品賞を獲り続けている。
2024年には懐かしい時代のアカデミー賞が帰ってくる。『オッペンハイマー』は全世界の興行収入で10億ドル近くを稼ぎ、批評家や映画ファンに広く支持された。多くの人に愛された作品が受賞する瞬間を祝う「祭り」が復活する時がやってきたのだ。
世界の在り方を変えてしまった男の物語が頂点に立つ瞬間を、アカデミー賞100年の歴史が見守っている。
◆監督賞
[I guessed 4/5]
クリストファー・ノーラン『オッペンハイマー』(GG, CCA, DGA, BAFTA)
ヨルゴス・ランティモス『哀れなるものたち』
マーティン・スコセッシ『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
ジョナサン・グレイザー『関心領域』
ジュスティーヌ・トリエ『落下の解剖学』
監督賞とは誰にも真似できない独自のスタイルを、妥協せずに作り上げた者が勝利する部門だ。そのためには製作を兼任する必要がある。ファイナルカット権を得なければならないからだ。また、作品の評価が高いことは勿論、大作であることが望ましい。
クリストファー・ノーランはこの条件にピタリと当てはまる。彼は1億ドル規模の「作家の映画」を作り上げた。3時間の長尺、R指定、難解なテーマと興行的に不利な要素を抱えているにもかかわらず、10億ドル近くを稼ぎ出す大ヒット。重要賞を全て手中に収め、残るは栄光のオスカーのみ。文句のつけようがない大本命だ。
◆主演男優賞
[I guessed 5/5]
キリアン・マーフィー『オッペンハイマー』(GG, BAFTA, SAG)
ポール・ジアマッティ『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』(GG, CCA)
ジェフリー・ライト『アメリカン・フィクション』
ブラッドリー・クーパー『マエストロ:その音楽と愛と』
コールマン・ドミンゴ『ラスティン:ワシントンの「あの日」を作った男』
キリアン・マーフィーが本命。英国アカデミー賞(BAFTA)とSAGを立て続けに制し、失いかけた勢いを取り戻したのが大きい。オッペンハイマーの矛盾に満ちた生涯に、徹底的なリアリズム演技で説得力を持たせた。クリストファー・ノーラン作品を支え続けた名脇役が掴んだキャリア最高のハマリ役。このチャンスを逃したくない。
対抗はポール・ジアマッティ。嫌われ者の堅物教師が下した決断が、多くの観客の涙を絞った。重要賞であるゴールデングローブ賞(GG)やCCAを制し、ユーモアを交えたスピーチで投票者の心を掴んだことを忘れてはいけない。おそらく候補者の中で最も仲間からの尊敬を集めているのは彼だ。逆転の可能性は潰えていない。
◆主演女優賞
[I guessed 4/5]
リリー・グラッドストーン『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』(GG, SAG)
エマ・ストーン『哀れなるものたち』(GG, CCA, BAFTA)
ザンドラ・ヒュラー『落下の解剖学』
アネット・ベニング『ナイアド ~その決意は海を越える~』
キャリー・マリガン『マエストロ:その音楽と愛と』
リリー・グラッドストーンが僅差で本命。ディカプリオやデ・ニーロといった大物に囲まれながらも決して怯まない。オセージ族の魂、そして聖母マリアを象徴する役どころを眼差し一つで演じきった。BAFTAからノミネート漏れしたときはどうなることかと思ったものの、SAGを受賞して一安心。
『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』はここを落とすと受賞ゼロの可能性が高い。作品支持票を全て取り込み、意地でも受賞させにくるはずだ。
一方でエマ・ストーンは、主人公の学習レベルに応じた高度な演じ分けをしてみせた。演技自体には文句のつけようがないものの、彼女は『ラ・ラ・ランド』で一度受賞済み。今後もチャンスが多そうだ。二度目の受賞にはまだ早いと見る向きがある。
ストーン対決に待ったをかけるのは『落下の解剖学』のザンドラ・ヒュラーだ。きちんとした演技の見せ場がありながら、常に中立的。作品を体現する役どころを見事に務めた。
◆助演男優賞
[I guessed 3/5]
ロバート・ダウニー・Jr.『オッペンハイマー』(GG, CCA, BAFTA, SAG)
ライアン・ゴズリング『バービー』
マーク・ラファロ『哀れなるものたち』
ロバート・デ・ニーロ『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
スターリング・K・ブラウン『アメリカン・フィクション』
“天才”ロバート・ダウニー・Jr.の受賞を疑う声は少ない。『アイアンマン』のイメージを消し去り、ルイス・ストロースの屈辱や嫉妬、怒りを表現して見せ場をさらう。自分が取るに足りない存在であったと気付いてしまったときの彼の表情に同情せずにはいられない。
◆助演女優賞
[I guessed 4/5]
ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』(GG, CCA, BAFTA, SAG)
エミリー・ブラント『オッペンハイマー』
ジョディ・フォスター『ナイアド ~その決意は海を越える~』
アメリカ・フェレーラ『バービー』
ダニエル・ブルックス『カラーパープル』
ダヴァイン・ジョイ・ランドルフで決着。ベトナム戦争で息子を失った母親の悲しみを静かに表現。予想をするときに最も安全な部門を探しているとしたら、ここ以外にはありえない。彼女が獲るに決まっている。
◆脚本賞
[I guessed 5/5]
落下の解剖学(GG, BAFTA)
パスト ライブス/再会
ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ
May December
マエストロ:その音楽と愛と
脚本賞や脚色賞という部門は作品賞や監督賞の本命でない秀作に、代替品として贈られることがある。また、斬新な試みに挑戦し、それに打ち勝った者が有利だ。
本命は『落下の解剖学』。ジュスティーヌ・トリエが監督賞を受賞する線はないため、彼女の支持票はここに集まる。国際長編映画賞に投票できないフラストレーションを力に。
対抗は普通に考えれば批評家賞で最も勝ち星を上げた『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』だが、ここは敢えての『パスト ライブス/再会』。
アメリカ監督組合賞(DGA)で第ー回監督賞賞を受賞したことやインディペンデント・スピリット賞の結果などを鑑みて、サプライズがあるならセリーヌ・ソンと予想。
◆脚色賞
[I guessed 4/5]
アメリカン・フィクション(CCA, BAFTA, USC)
オッペンハイマー
バービー(CCA)
哀れなるものたち
関心領域
本命は『アメリカン・フィクション』。物語の完成度もさることながら、複雑な多重構造のメタファーをエンターテインメントとして昇華している。また、内容的に脚色賞を獲ったら「ウケる」と思っている投票者も多そうだ。
対抗は『オッペンハイマー』。脚色の複雑さで言えば圧勝。作品の勢いとともにこの部門まで持って行っても不思議ではない。
本来ここで賞を与えるべきは『バービー』なのだが、作品に対する好感度が低いので厳しい。
◆撮影賞
[I guessed 4/5]
オッペンハイマー(CCA, BAFTA, ASC)
哀れなるものたち
キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン
マエストロ:その音楽と愛と
伯爵
IMAXカメラによる撮影を次のステージへ進めたホイテ・ヴァン・ホイテマで決着。
◆編集賞
[I guessed 4/5]
オッペンハイマー(CCA, BAFTA, ACE)
落下の解剖学
ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ(ACE)
哀れなるものたち
キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン
『オッペンハイマー』のジェニファー・レイムが圧勝。時間軸を複雑かつ違和感なく交錯させ、オッペンハイマーの「頭の中」を観客に疑似体験させる。
◆美術賞
[I guessed 4/5]
哀れなるものたち(ADG, SDSA, BAFTA)
バービー(CCA, SDSA)
オッペンハイマー(ADG)
キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン
ナポレオン
『オッペンハイマー』が獲らない部門。
大きく流れが変わったのはアメリカ美術監督組合賞(ADG)だ。批評家賞で圧倒的に勝ち続けていた『バービー』を『哀れなるものたち』が破った。オモチャとして再現元がある前者よりも、ゼロからイメージを作り上げた後者に分があると予想。
◆衣装デザイン賞
[I guessed 5/5]
哀れなるものたち(BAFTA, CDG)
バービー(CCA, CDG)
キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン
オッペンハイマー
ナポレオン
この部門と美術賞はセットで贈られることが多い。『バービー』が勢いを失っていることを考慮すると、『哀れなるものたち』が最低でもどちらか一つは獲るはず。
◆メイクアップ&ヘアスタイリング賞
[I guessed 5/5]
マエストロ:その音楽と愛と(MUAHS x2)
哀れなるものたち(BAFTA)
オッペンハイマー
雪山の絆
Golda
本命は『マエストロ:その音楽と愛と』の「そっくりさんメイク」。「つけ鼻」がユダヤ人のステレオタイプだって? ……そんな話もありましたか。
◆視覚効果賞
[I guessed 3/5]
ゴジラ-1.0
ザ・クリエイター/創造者(VES)
ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3
ミッション:インポッシブル・デッドレコニング PART ONE
ナポレオン
視覚効果そのものの評価が高いのは『ザ・クリエイター/創造者』。アメリカ視覚効果監督組合賞(VES)で5冠。しかし、作品評価は伸び悩み、興行的にも失敗してしまう。
アメリカで大ヒットしたことや作品評価の高さ、ゴジラ自体の知名度・人気度を考慮して『ゴジラ-1.0』を本命に(「低予算」であることを中心にした評価だが、投票するのはハリウッドの労働者。彼らに「低賃金」であるとネガティブに捉えられなければ良いのだが)。
日本より彼方、ハリウッドの地に、ゴジラの雄叫びが響き渡る!
◆音響賞
[I guessed 3/5]
オッペンハイマー(CAS, MPSE x2)
関心領域(BAFTA)
マエストロ:その音楽と愛と(MPSE)
ミッション:インポッシブル・デッドレコニング PART ONE
ザ・クリエイター/創造者
本命は『オッペンハイマー』。アメリカ人の歓声を、犠牲者たちの叫び声に感じさせる演出が秀逸。直接的に見世物にすることなく、観客に地獄絵図を想像させる。
対抗は『関心領域』。映像による情報を削ぎ落として語られる本作は、『オッペンハイマー』と並ぶ「音の映画」だった。
◆作曲賞
[I guessed 3/5]
オッペンハイマー(GG, CCA, SCL, BAFTA)
インディ・ジョーンズと運命のダイヤル(IFMCA)
『オッペンハイマー』で決着。『TENET』で多用していたパーカッションを封印し、オッペンハイマーの心理的葛藤を巧みに表現している。
ルドウィグ・ゴランソンによるエレクトロミュージックとオーケストレーションの融合は、重厚でありながら美しく儚げで時に聴く者を戦慄させる。
◆歌曲賞
[I guessed 4/5]
What Was I Made For?(バービー)(GG, HMMA, SCL, GMS)
I’m Just Ken(バービー)(CCA)
The Fire Inside(フレーミングホット! チートス物語)
Wahzhazhe (A Song For My People)(キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン)
It Never Went Away(ジョン・バティステ アメリカン・シンフォニー)
『バービー』が受賞確実なのはこの部門のみ。普通に考えれば本命の“What Was I Made for?”で決まりだ。
しかし、対抗の“I’m Just Ken”はオスカー会員の男性票や、助演男優賞でダウニー・Jr.に投票した人のゴズリング支持票を取り込むかもしれない。
「バービー対バービー」。実は面白い部門なのかもしれない。
◆長編アニメーション賞
[I guessed 5/5]
スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース(CCA, ANNIE, PGA)
君たちはどう生きるか(GG, BAFTA)
ニモーナ
ロボット・ドリームズ(ANNIE)
マイ・エレメント
アニー賞をスイープした『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』が本命。各組合賞でも存在感を見せ、総合的な評価の高さを感じさせる。
『君たちはどう生きるか』は英国アカデミー賞を獲っているので希望がないわけではないものの、アメリカでの公開から少し経ってBUZZが落ち着いてきた印象がある。
◆国際長編映画賞
[I guessed 3/5]
関心領域(BAFTA)
雪山の絆
ありふれた教室
PERFECT DAYS
Io capitano
『関心領域』で決着。ジョナサン・グレイザーは大胆に情報を葬り、観客に行間を読ませる。過去作にも見られた「引き算の美学」は、本作の演出にも活かされている。
◆長編ドキュメンタリー賞
[I guessed 2/5]
実録 マリウポリの20日間(BAFTA)
Four Daughters
ボビ・ワイン:ゲットー・プレジデント(IDA)
The Eternal Memory
虎を仕留めるために
『実録 マリウポリの20日間』が本命。侵攻下にあるマリウポリで過ごした命がけの20日間。ただ、あまりにもショッキングな内容なため、投票できない者もいるかもしれない。
◆短編ドキュメンタリー賞
ラスト・リペア・ショップ(CCDA)
禁書のイロハ
世界の人々:ふたりのおばあちゃん
The Barber of Little Rock
Island in Between
『禁書のイロハ』は観客にフレッシュな驚きを与え、現代社会への問題提起をしているものの、ドラマチックでエモーショナルに締めくくる『ラスト・リペア・ショップ』が栄光を掴むと予想。
◆短編映画賞
ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語
彼方に(HCA)
Red, White and Blue
Invincible
Knight of Fortune
最近は入れ子構造を用いた演出スタイルが尖りすぎて、やや賞受けしなくなってきたウェス・アンダーソン。『グランド・ブダペスト・ホテル』で脚本賞を獲り損ねた彼にオスカーを与える、いいタイミングだろう。
◆短編アニメーション賞
WAR IS OVER! Inspired by the Music of John & Yoko(ANNIE)
Letter to a Pig
Ninety-Five Senses
Our Uniform
Pachyderme
アニー賞を受賞した“WAR IS OVER! Inspired by the Music of John & Yoko”が本命。
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