見出し画像

[推し本]スイマーズ(ジュリー・オオツカ著 小竹由美子訳)/娘は母を解剖する

夏にいい感じ〜なタイトルと表紙で読み始めたら、涼しくなる訳ではなく(ちょっとは泳ぎたくなりますが)、著者の母へのオマージュと言える作品でした。
10年に一作というペースだけあって、62歳にして第三作目となるこの一作に結実するまでには相当の習作、絵画なら下絵やデッサン的な、があったのではと想像します。

地下にある公営プールでは、重力からも、地上での病気や家庭や仕事の悩みからも解放されて、それぞれの決まったルーチンで泳ぐ人たちがゆるやかなコミュニティを築いていました。プールの底にひびが見つかるまでは。

そこから、認知症が進んでいく母と著者自身を投影する娘の視点になり、
かつてプールで泳いでいた母を、
覚えていないことが増えてくる母を、
娘の名前は忘れても日系移民として迫害された戦時下での記憶は覚えている母を、
言葉や表情がなくなってしまう母を、
ある意味標本のように観察し、最期を見届けます。
娘は、自己を知るためにも母を“解剖”せざるを得ない訳で(実際に死後の母の脳を脳培検もする)、愛情と同じくらい残酷な面があるともおもいます。娘は母に自身を見、数十年後の予行演習として見、知らなかった母の一面を「発見」して「認め」ます。他人であればそんなことはしなくてもいいのに。。。

著者の、日系アメリカ人という自身のアイデンティティと、それ故に常にうっすらと異邦人的な拠り所のなさを感じさせるのはカズオイシグロにも少し共通するように感じました。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集