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庭づくりの現場から 都会のビルに里山の自然を
総合建設会社の淺沼組は現在、築30年の名古屋支店をGOOD CYCLE BUILDINGとしてリニューアル中。その現場では「人にも自然にも良い循環を生む」というコンセプトのもと、様々なことに取り組んでいます。このnoteでは、プロジェクトに関わる人の思いや、現場の様子をリポートします!
オフィスで自然のサイクルを感じること
淺沼組名古屋支店の庭づくりがスタートしました。
築30年のビルのリニューアルでは、全階層にバルコニー空間が作られることになりました。
こちらが改修前と、完成後のイメージ。
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改修前は、カーテンウォールの全面ガラス張りのビルが、リニューアルで自然に覆われた姿へと生まれ変わります。
「人にも自然にも良い循環を生む」というコンセプトで考えられたのは、
働く環境の中で、できるだけ自然を感じることのできる空間を作り出すということ。そうすることで、オフィスでも、居住空間と近い快適さに近づくことができるのではないかと考えました。
「太陽の光や、自然の風、土や木、植物などの生命、といった自然とつながることによって得られる”歓び”、そして、資源を周辺や他者と分かち合うことができる」ことを目指すと、建築デザインパートナーの川島 範久さんは言います。
今回、庭づくりを行ってくださるのは、GREEN SPACE 代表の辰己耕造さん。関西を拠点に全国で庭プロデューサーとして活躍されています。
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庭師 辰己耕造 プロフィール
大阪府八尾市出身。GREEN SPACE 代表
三代目庭師。庭プロデューサー。庭ライター。庭スピーカー。
辰己兄弟の兄。趣味は映画と読書と食べること。
オルタナティブでオーセンティックでヒップな植木屋。
都会の真ん中にある、緑豊かなオフィスビル。
「人にも自然にも良い循環を生む」というコンセプトを、植栽計画でどのように実現するのか。
サステナブルな植栽の計画とは
川島さんと辰己さんが議論を進めていく中で浮かび上がったことは、
社員が育てていくことができる、そして植物の変化を楽しむことができる建築にしようということです。
外観のファサードには吉野杉が聳えるデザインがあり、外壁には土壁が塗られます。そこから辰己さんは、
「ビルを一つの山に見立て、ビルの中で自然の生態系を作り出す空間にする」というプランを立てました。
社員たちの手で育てていくことで、5年〜10年経って次第に形ができるように。自然の生態系を作り出すためには、多種混植であるということ。
各階層で違ったテーマを持つバルコニーとなり、移動するごとに違う景色がみえ、さらに経年で変化を楽しむことができます。
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ビルの中に里山を作るグリーン。
そこには、どのような植栽が入れられるのか。
今回は、「庭づくりの現場から」リポートいたします。
植栽がどこから来るのか
5月のとある日。植栽の植え込みがスタートする前に、淺沼組名古屋支店リニューアルのプロジェクトチームが、植える予定の植栽の確認に行きました。
訪れたのは、大阪の南河内郡富田林にある『古川庭樹園』。
こちらでは、20haという広大な山の中で、ナーサリーと言って、植物を育て、管理することが行われています。
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辰己さんが、古川庭樹園で選んだ植栽をご案内してくださいました。
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まずは、オリーブの林へ。
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選定された樹木の一つ一つに、リボンと札がつけられています。
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青々とした緑が気持ちの良い、山の中。
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松林へも。
日本の山に生息する赤松を、グリーンに加えて。
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一つ一つ案内していただきながら、植物の説明を受け、触れ、匂いをかぎ、時には実を口にしました。
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クロモジは楊枝として使われる樹木。枝を切るとほんのりと良い香りがします。
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花の香りを嗅ぎながら、
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6月、ちょうど今の時期に赤い実がなるジューンベリー。
エディブル(edible)食べられる植物を入れて、社員が収穫することを楽しめる。これも、川島さんと辰己さんが考えた仕掛けの一つ。
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「ハガキ」の木は、「ハガキ」の語源となる木。
葉に爪を当てると、葉に字を書くように黒く跡が残ります。
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庭師の後ろ姿と。
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こんな場所があるんだと感心する、川島さん。
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大阪平野を見下ろす広大な敷地から、選定された樹木が名古屋支店へ運び込まれます。
プロジェクトでは、100種類以上の植栽を選定したという辰己さんに、この山の木々の中から一体どのように木を選ぶのか聞いてみました。
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「木には、流れというものがあるんですよ。
大きさ、入れる場所、そして木の流れから、どのような木を使うのか選びます。」
自然にあるもので空間を作る。樹木を組み合わせて一つの自然の形にしていくと言います。
途中、この古川庭樹園を管理する古川さんも合流されました。
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「植物には生きるヒントがたくさんある。それを皆さんに知ってもらいたい。植物と人間は、生き方が似ていると思うんです。環境に合わせて強さを身につけていく。植物の力と、人間が手入れをしていくことで相乗効果が生まれます。植物をそのままの状態で放置するだけではいけないのです。
植物には毒もあり、良いこともあります。植物が大事だということを一人でも多くの人に知ってもらいたいです。」
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自然を知り、生業にする二人の姿から、私たちは身近にある自然について知るきっかけを頂きました。
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左から、川島範久建築設計事務所の國友拓郎さん、川島範久さん、古川さん、辰己耕造さん、淺沼組名古屋支店の長谷川清支店長、現場所長の水野さん、淺沼組技術研究所の今井琢海さん。
庭づくりの現場から
6月の初め。
現場で、辰己さんによる庭づくりがスタートしました。
選定された樹木100種類以上が、名古屋支店の敷地へ運び込まれました。
都会の真ん中で、人の手によって作り出される「里山」が形になっていきます。
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辰己さんに、庭師の皆さんが庭づくりをするところをご案内していただきました。
ー今後、植栽が成長することを見越してデザインされるのですね?
「そうですね。これから社員の方にも植物の名前を知ってもらうような仕掛けを作り、皆さんにも一緒にメンテナンスを行って育ててもらえればと思っています。あとは、軒もありますし、西側ですので日照の問題でどのように育つかですね。
ただ、この植物の100%が育つとは思っていなくて、環境によって自然淘汰され、80%位が残るのも自然に近い姿かなと思っています。」
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この日は、2階から7階までの庭づくりが行われました。
改修前のビルの8階部分には神社がありました。
辰己さんの計画では、その部分に「鎮守の森」を作るということです。
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翌日の植え込みを待つ木々たち。
そして、そこには神社で神事に使われる「サカキ」が植えられる予定です。
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サカキは常緑樹で、常に葉が緑の木。栄える木から「サカキ」と呼ばれるとも言われます。
今後、長く社員の手で育てられていき、都会の里山のようになるオフィスビル。庭師 辰己耕造さんの「庭づくり」は1期工事を終え、次回2期工事へと続きます。
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大阪 富田林 古川庭樹園にて
GOOD CYCLE BUILDINGインスタグラムでは、インスタライブにて、実際に庭師の皆さんの手で作られる様子「庭づくりの現場から」をアーカイブからご視聴いただけます。
リアルタイムで、建設現場のものづくりをリポートしますので、フォローをどうぞよろしくお願いします!@ GOOD_CYCLE_PROJECT
庭づくりから1週間後。
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大阪ではまだ蕾だった木々たちに、次々と花が咲きました。
photo , text by Michiko Sato