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携帯食と行儀。

その人は大きな、大きなリュックを背負っていた。
典型的なバックパッカーの格好をした外国人。

彼は駅のホームで電車を待っている。
片手にスマホを持ち、指をスイスイ滑らせている。

反対の手にはコンビニのおにぎり。
スマホをいじったり、おにぎりをパクついたり、なかなかに忙しい。

おにぎりは忙しくても片手で食べられる。
サンドイッチやハンバーガーのように、気をつけないとバラバラになってしまうような心配もいらない。

最近のおにぎりは具材もバラエティ豊かで、毎日食べても飽きない。
考えてみれば最高の携帯食だ。

バックパッカーが電車を待つあいだ、調べものをしながら軽食をとる。
そのシチュエーションにぴったりなのは、もはやおにぎり以外に考えられない!

とは思えない。

なぜだろう。

ここはやはりカロリーメイトあたりがよいのではないか。
しかし彼の立場になれば、それはちょっと味気ないものだ。

たまのことならカロリーメイトは間違いなく最高の携帯食だ。
しかし彼は(たぶん)バックパッカーである。

今まで、そしてこれから。
何日もかけて日本を旅するのだ。
毎日カロリーメイトではやってられない。

そのうえ日本には、便利なコンビニで、日本を感じられる携帯食「おにぎり」を、種類豊富に売っている。
安くて、飽きない。

彼は日本を旅するのにふさわしい食糧を知っているのだ。

おぬし、なかなかやるな!
彼に向かって心の中で「ぐっ!」と親指を立てた。

ところで最高の携帯食のはずのおにぎりを、このシチュエーションにぴったりだと思えなかった理由はなんだろう。
理屈で考えれば最高のはずなのに。

その答えは「習慣」だった。

私たちは立って食事することや、何かをしながら食事することを、「行儀が悪い」とする。

彼は「立って」「スマホをいじりながら」おにぎりを食べていた。
せめてベンチに座っていたら。
あるいはスマホがポケットにしまわれていたら。

携帯食の正しい利用法を実行しているが、とても行儀が悪い。
携帯食であっても、座って食べるか、もしくは食べることに専念することが求められる。

しかし、彼がただのバックパッカーなら、日本の行儀を知らなくても仕方がない。
ただ、私の心がなんとなく釈然としないだけのことである。


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あさのしずく
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