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赤い衣装の奇跡

昔話ではないけど、ちょっと体がおかしい子を産んでしまった母親は、、そのとき、ちょうど町に来ていたサーカス団のテントの前に産んだ子を置き去りにした。



サーカス団の団員が見つけて、密かに育てることにした。寝間は団員の部屋、初めての子供に戸惑いつつ、愛情と、粉ミルクですくすく育った。普通ならば団長や他の団員に見つけられ、警察に届けられるか、そのまま放置しておけ!と怒鳴られるが見つけた彼女は、団長の内縁の妻だった。本妻は、子供達と、街の中で暮らしている。


だから、その捨てられた子供を育てることを黙認した。


子供は、りんと名付けた。

りんは、体がぐにゃぐにゃであまり歩けない。それが原因で他の団員や

子供達にバカにされ、ヘンテコな動きから「タコ」と言われていた。しかし、りんは特技があった。体がぐにゃぐにゃでも手先は器用だったのだ。密かにジャグリングの練習をしていたようだ。

「おい!タダ飯ぐらいのタコ、前座に出してやる。何もしなくていい!タコの格好をして、座ってさえいれば観客は喜ぶ。」

育ての母は反対したが、団長の命令には逆らえなかった。

5つになった娘が観客の前で笑われ姿を想像するだけで自分の練習に身が入らない。母は、サーカス団の花形である。空中ブランコ、キラキラの服に身を包み宙を飛ぶ。りんにとって憧れの的だった。いつか母のように宙を飛ぶことを夢見ていた。

「ごめんね。こんな変な格好させて!」母は、涙を流す。が、りん「お願いがあるの。ジャグリングの玉が欲しい。」母は、まじまじとりん見つめていたら、りんは手づくりのお手玉をいくつも持って手足を使い器用に回し始めた。これには、母は、もとより他の団員や団長を驚きの渦の中に引っ張った。

「みんなが練習中暇でしょ!だから、誰かのお手玉をかりて遊んでたら、いつの間にかできるようになったの。」たった5歳の子供である。しかも何も出来ない奴だとレッテルをはられていた。今娘は、自らレッテルを剥がす。

「タコさんの衣装可愛い」と無邪気にはしゃいでいる姿に皆唖然となる。すぐさまジャグリングの玉をてわたす。「ひー、ふー、みー、よー、いつ、むー、なな。」

団員達に拍手される、


圧倒され、声の出ない団員たちを前に10個の玉を手足で回す。


そして、りんは、ぐにゃぐにゃと体をくねらせながら、舞台に立つ。どっと笑う観客に、一礼した。「タコ娘!」と野次を飛ばす。それを笑顔で返す。

そして、秘密兵器を出す。笑っていた観衆は、いつの間にかごくんと唾を飲む。最後の玉を足でキャッチすると、拍手の渦に包まれた。あかいタコの衣装は今ドレスに見えた。そして、りんは奥に引っ込む。母は、思い切りりんを抱きしめた。


「あ〜楽しかった!」

りんは笑ってそう言った。


それからというもの、りんはタコの衣装でジャグリングをするようになった。

サーカス団は、地方を巡演する。

りんが捨てられた町にもまた、ポスターが貼られる。

りんを置き去りにした産みの母は、この街で普通に暮らす。

りんを産んだ事などなかったかのように、その後、2人の息子を産み育てた。当時、彼女は若かった。家族から責められたが、出生届を出すことなく、生まれてすぐ死んだことになっていた。大家族の中家族は、その真相をほとんど知らない。今なら犯罪である。

郵便局に、貼られたポスターに、産みの母はクギ付けになった。サーカス団の団員の前に若い娘がいた。タコのコスチュームで手足に玉を持っていた。笑ってる顔が息子達に似ていた。

満面の笑みには、自信さえ感じ取れた。日にちに即座に目がいく。偶然というのは恐ろしい。

その日は、産んで一日の娘を置き去りにした日だった。郵便局の窓口で泣き崩れる。が、窓口業務の職員に、「どこか具合でも悪いんですか?」と声をかけられ、ハッと我に戻る。

涙を何とか隠し、用事を済ませて外に出ると、小雨だった雨は大粒の雨になっていた。さっさと買い物を済ませ、息子達を、幼稚園に迎えに行く。年長と年中の年子の息子に、姑の世話。毎日が風の如く過ぎる。捨て去った娘がどうなったかなど、考える余裕がなかった。夫は、いつの間にかいなくなった娘について一言も言わなかった。もしも、少しでも、娘はどうした?と問いただしてくれたなら、起き去った場所へ連れ戻しに行っただろう。

あれから、5年いやもっと経つ。サーカス団の誰かが娘を育てたのだろう。あの満面の笑みは、幸せに暮らしている証拠ではないか!自分自身に言い聞かせた。

その日の夕方、夫がご機嫌で、帰ってきた。

「営業回りをしていたら、お得意さんからサーカス団のチケット貰ったぞ。4枚。子供らと、ばあちゃんで行ってこいや。」テーブルにチケットをぽんと置く。

「私はこういうの好きじゃないの。あなたとお母さんと子供たちでどうぞ!」

「そういうと思ってた。でも、俺この日休日出勤なんだ。行けば楽しいって!」

息子達は大喜びで目を輝かせる。

彼女は、仕方ない!と自分に言い聞かせ行くことにした。


りんが育ての母の娘になって、8年の月日が経つ。今では、りんはアイドル的な存在だ。育てたことは後悔はしてない。しかし、彼女は、もう四十路を迎え、体力に限界を感じていた。この今度の公演を最後に、サーカス団から、引退を決意していた。最後にりんと共に空中を舞いたい。りんは、空中ブランコはもう無理だと悟り始めた。巧みなジャグリングと、バトンをこなす。団になくてはならない存在になっていた。

「りんに相談があるの。」

「母さん何?」輝く瞳を向けられ、なかなか言葉が続かない。

しかし、彼女は、一言一言噛み締めながら、りんに話した。

「母さんも、体が大変になってきてね、空中を舞うのは今度で最後にしようと思うの。」りんは驚きを隠せない。その後の言葉に耳を傾ける。

「りんは宙を舞いたいんだよね。上手くいくか、分からないけれど、私と一緒に宙を舞おう。公演まで少ししかないから、りんは私の背中にくっつけて、」

りんは宙を舞いたい気持ちはあるが、少し不安気だった。

「母さん、大丈夫?りん重くない?」心配しているのはを何なのか分からないけれど、りんは笑って、

「母さんと一緒なら、大丈夫だよね。」

問題は、団長だった。私の引退は、致し方ないと了承する。この時には、彼女への愛情は、薄れていた彼女の代わりに若き団員に夢中になっていた。

「しかし、りんを背中にくっつけて宙を舞おうなどもってのほか。りんは、今やサーカス団のアイドル的存在になった。怪我でもしたら責任取れるのか?

「大丈夫です。りんはまだ軽くてひょいと下げられます。ロープで固定すれば、行けます。」彼女は、言い切った。




公演当日は、小雨だった。

義母と子供たちを連れて行くので、うちまでタクシーを呼んだ。

「わたしゃ別に行かなくてもいいんだよ。」足の悪い姑は、遠慮がちに言う。

「何言ってるんですか。健一さんに怒られます。今日は、楽しみましょう。」

息子達が今か今かと玄関先でタクシーを待つ。数分後タクシーが来た。途中、花屋に寄って、花束を作って貰った。

会場に着くと、もう既に人が並んで開場を待っている。5分前だった。受付でチケットと共に花束を渡す。

「赤い衣装の可愛い娘さんに渡してください。」

受付のおばさんは、

「りんさんだね!」

と、快諾してくれた。

開演5分前、心が痛む。


家族達は、今か今かとその時を待った。

会場内が一瞬暗くなり、舞台の真ん中に座る少女。あかいタコの衣装に身を包み、手足を使いこなしジャグリング。その後玉はバトンへと変わる。どよめきと拍手。終わると彼女は一礼した。満面の笑みを浮かべながら、会場は、また暗闇になる。次は動物達の演技。調教が素晴らしい。

最後は、花形空中ブランコ。

素晴らしい演技に拍手は、止まらない。

その後、また、舞台は暗くなった。

りんを背中にくくりつけ、一歩ずつブランコへの階段を昇る。

「検討を祈る。」団員達に見守られつつ、ブランコへの階段を昇る。

頂点に立つと、パッと明るくなった、りん行くよ、2人はブランコにぶら下がり、宙を舞う。りんは赤いドレスに着替えていた。ブランコが動く度に、ドレスのすそが花が咲いたように動く。そしてもうひとつのブランコに体が移る。大喝采の拍手。「2人はひとつ」

そしてフィニッシュを迎えた。下でかたづを飲んで見守っていたみんなに拍手された。

やり遂げたのだ。

 りんの思いを叶えられて良かった。


最後に舞台に団員全員が立ち一礼する。その時団員のひとりが「あれ?」

「りんがたってる。」

体はぐにゃぐにゃだが、しっかり自分の足で立つ。

「独り立ち」育ての母は、ニコッと微笑む。しかし彼女は、寂しそうだった。

「本当に今日で辞めちゃうの?」

りんは小声で聞く。

彼女は、またニコッと微笑む。

「あんたと宙を舞うのに力使い果たしちゃった。」

しかし、彼女の顔は、晴れ晴れしていた。


宙を舞うりんを見守った。育ての母なのだろうと、実の母は、思った。

涙が自然と流れた。姑が一言「あの子は今幸せだよ。」と、ハンカチを手渡す。

心が痛む。自分のした事はもう取り返しが効かない。

「どうか、この先ずっと笑顔でいられますように。」実の母は、切に願った。

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ゆず愛
今はまだ修行中の身ですが、いつの日か本にしたいという夢を持っています。まだまだ未熟な文章ですがサポートして頂けたら嬉しいです。

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