『装甲騎兵ボトムズ 孤影再び』 作者:高橋良輔
「例外のあるところに尊厳はない」
32年の眠りからの覚醒。しかしそれは、新たな戦いと、愛する者との別離を招いただけの、彼にとって辛く不幸な出来事であった。
その、「異能者」とも「神殺し」とも、或いは「触れ得ざる者」ともあだ名される男の目覚めの物語『赫奕たる異端』で起こした、後に「アレギュウムの赫い霍乱」と謳われた事変から三ヶ月後。振り出しに戻った様に、たった一人旅路に着くキリコ・キュービーは、大砂漠の中央に位置する自由交易都市グルフェーに来た。
千数百年に及ぶ自由交易都市としての尊厳を守り通してきたグルフェー。そこでは、あらゆる国籍、人種、身分を問わず、老弱男女、いや、法に追われる罪人さえもが受け入れられる自由を保障される。
だが、この街にも、きな臭さい風が迫っていた。
グレン・パッツラー中将配下の黒い稲妻旅団というメルキア軍正式部隊が道路を封鎖、グルフェーを孤立させる。その狙いは、街の権益を奪うことだった。
絶えず災いを誘う男であるキリコは、グルフェーに来たことで、その軍隊との衝突を起こしてしまったが、一方、懐かしいかつての仲間達との再会もあった。
ゴウト、バニラ、ココナ達は、このグルフェーで商売人として生きていたのだ。
32年が経った今、バニラとココナは三男三女の子を持ち、家庭を育んでいた。隠居したゴウトはすっかり子供達の面倒見役だ。
だが、キリコは彼らに会う為にこの街に来たのではなかった。
キリコの目的とは何なのか?
本書は、『日経キャラクターズ!』及び、『日経エンタテインメント!』で、2006年から2007年まで連載されたものだ。
その後OVA化され、2011年1月8日に先行イベント上映、2011年4月22日に発売された。
2010年3月より全6話で制作されたOVA作品『幻影篇』は、時系列的には本作の後の話になる。
さて、この『孤影再び』。
大枠のあらすじこそ同じだが、小説版とOVAでは全く違う。別物と思った方が良い。
OVAでは、キリコの異常性を際立てようとするあまりか、全体にハードな印象で見応えはあるのだが、どうも何か足りない。いや、何かが違う。
実は、OVA作品『ビッグバトル』という前例もあるのだが、どうもレギュラー陣ではない下手な人物に脚本を任せると碌なことにならないのだ。
何故、そうなったのだろう。
吉川惣司が脚本を書かなかった理由なら、薄ぼんやりとだが想像出来る。恐らく、『赫奕たる異端』での失敗があったからだ。きっと、もう続編に関しては二度と手を付けたくないのだろう。
小説版のキリコは、「あの」キリコだ。そのまんまキリコ。
それはそうだ。高橋良輔監督自らが書いているのだから当然だ。
正直に言おう。個人的には小説版の方が面白い。
ところで、サブキャラをも含め、オリジナルキャストの面々がドラマの中での時間自体もキッチリ30年以上を経てなお活躍するアニメ作品など、古今東西他に類を見ない。
更には、今以て高橋監督による最新作の小説がウェブ連載されているのである。
やはり異能の男、キリコ・キュービィー。
彼のオデッセイは未だ続いているのだ。