見出し画像

『最後の喫煙者 自選ドタバタ傑作集1』 作者:筒井 康隆

非常に作品数が多い筒井康隆には、数多くの傑作集が存在するので、過去に読んだ作品と再び鉢合わせする機会も度々あるのだが、再録されるのはやはり面白いからであって、まぁどっちみち短編なんだから気にせずパーっともう一回読んでやってしまえということになる。そして、どれもこれもとんでもないパンチを雨あられとこちらに見舞ってくる。再読のものも勿論遠慮無しにバチバチやってくる。

さて、本書は自選したドタバタものを編んだものだ。
奇怪な状況の到来、狂った世界はエスカレートしていく一方でどんどん激しさを増していく。そこに言葉遊びも相俟って、もはや手が付けられない。
筒井氏のドタバタはクセがかなり強い。馬鹿ばかしくもクセが強いという様な作品はまだ良いのだが、こここ、これは非道い、と思わずにはいられない程、正に字の如く非道を極めたブラックなものも数多く、実に笑える。あ、い、いや、女子供には見せられない。更に、エロ・グロ・スプラッターも加わった「問題外科」は、どう考えてもイっちゃってる。ひひ、ひひひひ。
ヘビースモーカーの小説家と、暴走した健康ファシズムとの闘いを描く表題作「最後の喫煙者」は、ドタバタというよりも理路整然とした文章で、ぐぐぐと読ませてくれる。オチもキッチリついていて筒井氏の筆力のお手本の様な話だ。
「老境のターザン」では、会話主体のギャグが切れが良く、幾度か思わず吹き出した。
本能寺の変の直後の秀吉陣営の姿を描いた「ヤマザキ」は、途中迄は文献を元に推敲したかの様な、至って真っ当に秀吉の戦略を辿る展開を見せておいて、突如として電話機、新幹線ひかり号、電器剃刀やらトラック便、はたまた国道2号線といった現代のツールが登場しまくるといったナンセンスな展開となる。そうして散々好き放題書き散らかしておきながら、ラストは投げっぱなしで済ませるという快作である。
そう、同じ滅茶苦茶でも、筒井氏は作品によって作風を使い分ける。飽きのこない小説家なのである。

収録作品
「急流」
「問題外科」
「最後の喫煙者」
「老境のターザン」
「こぶ天才」
「ヤマザキ」
「喪失の日」
「平行世界」
「万延元年のラグビー」


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集