推理ゲーム「虚飾で彩られたカラス」アートワークの制作過程
1.はじめに
2020年10月に、2人用推理ゲーム「虚飾で彩られたカラス」のアートワークを担当しました。今回は、アナログゲームのアートワークという視点から、このゲームがどのような過程を経て形になったかをご紹介したいと思います。ちなみに、推理ゲームという特性上ネタバレができないため、冊子や封筒の中身の内容は控えて書かせていただきます。
その前に、こちらがどんなゲームかを簡単にご紹介します。
2.プロトタイプの段階
ゲームシステムと物語は、ライターの田中佳祐さんとゲームデザイナーの新澤大樹さんが担当されました。このようなマーダーミステリーのゲームを担当するのは初めてだったので、お声掛けいただいたときはとてもワクワクしたのを覚えています。2019年11月に開催された「ゲームマーケット秋」でプロトタイプが実験的に発売され、最初に田中さんと新澤さんが作られたバージョンでは、市販の20枚の封筒に印刷した物語の紙やパズルが入っているという、なかなかの物量のものでした。
ゲームマーケットが終わり、プロトタイプが自宅に送られてきてから製品化に向けての現実的な仕様を考えはじめました。ちなみにお互い住んでいる県が異なるので、作業はオンライン通話を通して遠隔で行っています。打ち合わせを通して、「封筒20枚をパッケージ化して売るのは内職も含めて大変」という判断に至りました。紙を折って、封筒に入れるという作業が1セットにつき20回発生するからです…。
小さなチームで制作しているため、内職は自分たちでやることを前提にして仕様を考えます。負担を減らすため、封筒をやめて、本のような形にする案や、カードにするという案も出たのですが、「封筒を開けるワクワク感」は大事に残しておきたいと思い、最終的には冊子と封筒の組み合わせで制作を進めることになりました。方向性が決まったところで、田中さんと新澤さんに改めて製品用の仕様を考えてもらうことになりました。
3.仕様決めと見積もり
仕様を変更してもらい、決定後の内容物は以下のようになりました。
内容物が確定したら、自分が表現したいイメージをざっくりと思い描きながらそれぞれの仕様をつめていきます。今回はディレクターである田中さんから予算の上限を聞き、それに合わせて内容物の紙の素材や斤量を選び、さまざまな印刷所に見積もりを取ります。例えばボードゲーム印刷の場合、1ヶ所の印刷所にカードから箱まで一式お願いする場合が多いと思うのですが、今回は上記1〜5の内容物をそれぞれ異なる印刷所で生産することにしました。理由としては、冊子や封筒、厚紙が主となるので、ボードゲームで使われる規格よりも、ZINEや同人誌、フライヤー印刷が低価格で実現できる印刷所の方が現実的だったからです。
印刷所を分けることで入稿の形式が異なり、作業の手間が発生してしまうデメリットはありますが、紙の種類や箔押しなど、やってみたい仕様を実現できる幅は広がると感じました。(見積もり次第ですが、ひとつの印刷所で上記の仕様をすべて実現できる場合もあると思います。)
4.グラフィックデザイン
今回『虚飾で彩られたカラス』という物語の題材に合うように、パッケージのカラスには「見る角度で色が変わるオーロラ箔を使いたい」というのが一番実現したいことでした。また、アナログゲームで箔押しのデザインが全面に押されているのはあまり見たことがないので、新しい試みをしてみたかったという理由もあります。箔押しのため、結果的に紙箱は高価にはなりましたが、その分、他のアイテムの価格が抑えられるように調整していきました。
また、たくさんの鳥たちが登場するお話なので、17〜19世紀の博物図譜に描かれた写実的な鳥の版画を使用したいと考えました。作家ジョン・デリアンが古い印刷物を使って作ったプレートやオブジェのようなイメージです。そこで、博物図譜をパブリックドメインとして利用できるBiodiversity Heritage Libraryから物語に登場する鳥類の資料を探し、挿絵のようにレイアウトしていきました。また、謎解きのパズルで一部イラストが必要なところは、私が描いています。ゲームのネタバレのため中身は公開できませんが、ぜひ視覚的にも楽しんでいただけたら嬉しいです。
使用しているソフトですが、冊子のDTPはAdobe InDesignで組みました。カードやパッケージはIllustrator、イラストはiPad ProのProcreateというアプリで描き、画像処理をPhotoshopで行っています。
5.校正・入稿作業
デザインラフができた段階で、メンバーにチェックをしてもらい、それを何度も繰り返しながら修正作業と質のブラッシュアップを行います。ここが最も時間が掛かる作業です。データはGoogle Driveで共有し、LINE通話で打ち合わせをしていました。
最終的にすべての校正が完了した後、入稿データを整えます。データが完成したら各印刷所に提出するのですが、4ヶ所の印刷所への入稿作業が必要だったため、最終チェックや入金手続き等、諸々含めて数時間かかりました。入稿はディレクターの田中さんと間違いのないように集中して行ったのですが、ミスができない作業なのでやはり緊張感がありました。
6.商品撮影&補正
最近は商品撮影にとても気を遣うようになりました。SNS上でお客さんが一番はじめに目にするのが商品写真なので、このイメージで「欲しい!」と思ってもらえることが大事だと感じています。
全ての商品が刷り上がって自宅に届いたら、いつも早朝から商品撮影をはじめています。部屋の構造上、お昼になると日差しが強くなるので、光が安定している朝のうちに撮影を済ませてしまいます。できるだけ多くのカットを撮り、「商品が届いてから開けるまで」を想像してもらえるような写真を意識しています。今回のゲームは謎解き要素があるので、プレイイメージは撮影していませんが、例えばカードゲームであれば、プレイ中のカットを再現して入れるようにしています。
部屋の窓際で撮影しても、パソコンで写真データを開くと大体実際より暗く仕上がっています。商品の色味も陽の色によって左右されるので、なるべく実物に近づけるようにPhotoshopで補正していきます。内容物によって色味が異なる場合が多いので、ひとつひとつパスで抜きながら、個別で色味を補正しています。この補正に結構な時間がかかるので、気づけば夜になっていることもあります。撮影から補正は丸一日かかるので、いつもそのための時間を確保するようにしています。
7.告知
最後に、商品を知ってもらうためにSNS上で告知をします。告知をするときは、できるだけ色々な商品イメージを掲載し、専門用語を使わずに、わかりやすい文章を書くように心掛けています。また、最近はアートワークのこだわりを書くようにしています。今回の場合だと、オーロラ箔を強く推したかったので、それが綺麗に見える写真を選んで文章を書きました。Twitterには拡散機能があるので告知によく利用していますが、その他にもnoteやinstagram等を通してお知らせをしています。
8.さいごに
以上が、『虚飾で彩られたカラス』で私が関わったアートワークのお仕事になります。制作の仕方や告知など、人それぞれのやり方があると思うのですが、制作過程を含め、こだわりや意識していることを書いてみました。これからアナログゲームを制作される方に、少しでもお役に立てれば幸いです。
2023.6.17
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