マリッジ・ストーリー
2019年 Netflix配信映画
オススメ度 9.8/10点中
彼はもっと早くあのメモに出逢うべきだったし、私は今この映画に出逢えて本当に良かった。
以前、小津安二郎映画について触れた時に観る人間を取り巻く環境によって映画の評価は随分変わるという事を書いたと思う。
この映画はコメディとロマンス。ひと昔前なら手もつけなかった。しかし私の状況は変わり何故かふと観てみたくなった。そして泣いた。大号泣した。今これを書いている最中もスマホの画面が時折滲んでしまうし鼻水が垂れてくる。この映画にこのタイミングで出逢えて本当に良かった。
もしも夫婦の関係に行き詰まったりなんらかの問題を抱えている人がいたら是非この映画を観て欲しい。
主演はスカーレット・ヨハンソンとアダム・ドライヴァー。二人とも超有名な俳優だが今回演じているのは平凡な母親と父親。女と男。だがこれを観ればスカーレット・ヨハンソンが世界を股にかける凄腕女スパイだけの人ではなく、アダム・ドライヴァーが鉄仮面を信奉する暗黒卿だけの人ではないとよく分かる。二人とも売れてしまったキャラクターが有名なだけに知らない人は損をしてしまうがとても良い俳優たちだ。
舞台はニューヨークとロサンゼルス。だがほとんどは会話でシーンが構成されている。派手な音楽や映像美はない。ただ俳優たちの演技のみで構成されている。
劇団に所属する夫婦はお互いの関係に行き詰まり何処かで何とかしなければと思っている。そんな中で女優である妻にロサンゼルスで主演ドラマの話が持ち上がる。一方で夫が監督をする劇団は念願のブロードウェイへ挑むチャンスがやってくる。キャリア的な意味でそれぞれの道を選択し、まだ幼い息子と一緒に生まれ育ったロサンゼルスへ行く妻。夫はドラマの撮影が終わればまたニューヨークへ戻ってくると思っていたがなんと妻は弁護士を立て離婚後の親権について話し合いをしたいと言い出す。離婚するかどうか決めあぐねていた夫は突然のことに動揺しながらも妻の弁護士に煽られるままに自分も弁護士を雇い望まない争いを続けていく。やがて夫婦はもう取り返しのつかない段階にきてしまったという現実を身を投じたずっと後になって思い知る。お互い望んでもいない物の為に、お互いが一番大切だったものを削り落としながら。
夫婦にとって感情的になって行動に出ることがいかに愚かで軽率な事かを客観的に観れるとても優れた映画である。
アメリカの影響で一時期日本も離婚やそれに伴う裁判はもはや一般的である!という風潮があった。しかし両親が幼い頃に離婚し辛い思いをした私から言わせればそんなもん一般的になってたまるもんかと思う。子供にとって両親は死ぬまで両親なのだ。よほどの事がない限り一時の感情でそれを歪めてはいけない。
もちろん子供にとって害をなす親であったり、命の危険性があったりする場合は別である。しかし一度終わりを告げた家族はもう元には戻らない。永遠に。
劇中、夫の浮気が離婚のひとつの要因となっているがこれもまた軽率な行動のひとつであると言える。相手を裏切ることがバタフライエフェクト的にいずれ大きな波紋となってその関係に支障をきたす事を、欲望に負けそうになった時に人は思い出すべきである。
いつも一番好きなシーンを紹介して終わるが今回はネタバレというか私の三流な文章力では表現しきれない程の素晴らしい場面なので割愛させていただく。是非観て欲しい。
特に冒頭の10分と最後の10分はよくよく集中して観て欲しい。もしも貴方がこの夫婦の様に何かしら問題を抱えている場合。観終えたあと、問題の大小に限らず忘れていた大切な事をきっと思い出すはずである。自分が何故、その相手と一緒になったかという事を。それを思い出した後、自分の良くなかった部分を反省し、相手に優しい言葉を言えれば世界は少しだけ平和になってゆく。