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ナラティブセラピー人生の物語を書き換える心理療法

はじめに


皆さんは、自分の人生を「物語」として捉えたことはありますか?私たちは日々、自分や周囲の出来事について「物語」を作り上げています。その「物語」が、私たちの思考や行動、感情に大きな影響を与えているのです。

ナラティブセラピーは、この「人生の物語」に注目した心理療法です。今回は、このユニークな心理療法について、わかりやすく解説していきます。

ナラティブセラピーとは?


ナラティブセラピーは、1980年代にオーストラリアの社会福祉士マイケル・ホワイトとニュージーランドの家族療法士デイビッド・エプストンによって開発されました。

この療法の核心は、「問題は人ではなく、問題そのものが問題である」という考え方です。つまり、クライアントを問題から切り離し、問題に対する新しい見方や解決策を見出すことを目指します。

ナラティブセラピーの主要な概念


1. 外在化
問題をクライアントから切り離し、別の存在として扱います。例えば「私は怒りっぽい人間だ」ではなく、「怒りが私の生活に入り込んでいる」と表現します。

2. オルタナティブ・ストーリー
問題のある現在の「ドミナント・ストーリー」に対して、新しい視点や可能性を持つ「オルタナティブ・ストーリー」を作り出します。

3. ユニーク・アウトカム
問題が支配的でない例外的な場面や経験を見つけ出し、それを新しいストーリーの基礎とします。

4. 再著述
クライアントの経験を新しい文脈で捉え直し、新たな意味を見出します。

ナラティブセラピーの進め方


1. 問題の外在化
クライアントと問題を切り離し、問題に名前をつけます。
例:「不安くん」「自信のなさちゃん」

2. 問題の影響を探る
問題がクライアントの人生にどのような影響を与えているか、詳しく聞いていきます。

3. ユニーク・アウトカムを見つける
問題が支配的でない場面や経験を探します。「不安くんが静かだった時はありますか?」

4. オルタナティブ・ストーリーの構築
ユニーク・アウトカムを基に、新しい物語を作り上げていきます。

5. 新しいストーリーの強化
新しい物語を支持する経験や証拠を集め、強化していきます。

ナラティブセラピーの利点


1. クライアントを問題と切り離すことで、自己批判を減らし、問題に立ち向かう力を与えます。

2. クライアント自身が専門家として扱われ、主体的に療法に参加できます。

3. 文化や社会的文脈を考慮に入れた、より包括的なアプローチが可能です。

4. 創造的で柔軟な問題解決方法を見出すことができます。

ナラティブセラピーの具体的な活用方法


ナラティブセラピーは、様々な問題や状況に適用できる柔軟な心理療法です。以下に、具体的な活用方法をいくつか紹介します。

1. 自己批判への対処


多くの人が自己批判の声に悩まされています。ナラティブセラピーを使って、この問題に取り組む方法を見てみましょう。

手順
1. 自己批判を外在化する
「内なる批評家」と名付ける。

2. その影響を探る「内なる批評家はあなたの生活にどのような影響を与えていますか?」

3. 例外を見つける
「内なる批評家」が静かだった瞬間を探す。

4. 新しいストーリーを作る
「自己肯定的な声」を育てる。

具体例
「私はいつも失敗ばかりしている」という思考から、「時々、内なる批評家が大きな声で話しかけてくることがある。でも、それは私の一部ではなく、私には対処する力がある」という新しい物語に書き換えていきます。

2. 人間関係の改善


ナラティブセラピーは、人間関係の問題解決にも効果的です。

手順
1. 問題を外在化する
「対立」や「誤解」に名前をつける。

2. 関係性の歴史を探る
良好だった時期や協力できた経験を思い出す。

3. preferred future(望ましい未来)を描く。

4. その未来に向けての小さな一歩を考える。

具体例
夫婦間の「コミュニケーション不足」を「沈黙の壁」と名付け、それが二人の関係にどのような影響を与えているかを探ります。そして、「沈黙の壁」が薄かった瞬間を見つけ、そこから新しい関係性のストーリーを紡いでいきます。

3. トラウマや喪失への対処


ナラティブセラピーは、トラウマや喪失体験の克服にも活用できます。

手順
1. トラウマ体験を外在化する。

2. 生存者としての強さを見出す。

3. トラウマにもかかわらず生き延びた自分の力を認識する。

4. 新しいアイデンティティのストーリーを構築する。

具体例
事故のトラウマを「恐怖の影」と名付け、それと共に生きてきた自分の勇気や強さを見出します。そして、「トラウマを乗り越えた勇者」という新しいアイデンティティのストーリーを作り上げていきます。

4. キャリアの再定義


職場での問題や転職の悩みにもナラティブセラピーは効果的です。

手順
1. 現在の仕事の物語を探る。

2. 理想の仕事のストーリーを描く。

3. 過去の成功体験を見つける。

4. 新しいキャリアストーリーを構築する。

具体例
「仕事がつまらない」という感覚を「モチベーション低下くん」と名付け、過去に仕事で情熱を感じた瞬間を思い出します。そこから、自分の強みや価値観に基づいた新しいキャリアストーリーを作っていきます。

日常生活での活用


ナラティブセラピーの考え方は、専門家のセッションだけでなく、日常生活でも活用できます。

1. 日記を書く
問題を外在化し、その日の出来事を新しい視点で書き留めます。

2. 友人との対話
問題について話す際、それを外在化して表現してみます。

3. 自己対話
内なる批評家の声に気づいたら、それを外在化し、別の視点から自分に語りかけてみます。

4. 家族との会話
家族間の問題を外在化し、皆で協力してその問題と向き合う方法を考えます。

まとめ


ナラティブセラピーは、私たちの人生を「書き換え可能な物語」として捉える革新的な心理療法です。問題を外在化し、新しい物語を紡ぎ出すことで、クライアントに希望と力を与えます。
自分の人生の物語を見直してみませんか?きっと、新しい可能性が見えてくるはずです。

おわりに


ナラティブセラピーは、私たちの人生の物語を新しい視点で捉え直す力を与えてくれます。問題を外在化し、新しいストーリーを紡ぎ出すことで、困難な状況にも創造的に対処できるようになります。

自分の人生の物語を見直し、書き換えてみることで、新たな可能性が開けるかもしれません。ぜひ、日常生活の中でナラティブセラピーの考え方を取り入れてみてください。きっと、あなたの人生に新しい展開が訪れるはずです。

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