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【エッセイ】春は名のみの

 同じ気温でも、やっぱり違うのだ。
 ある日、ある時、ふと理解する。もう、冬の空気ではない。
 土のやわらかさや、しっとりとした匂いや、光の様子がそれを知らせてくれる。雪が降っても地面が凍りついても、やはりもう冬とは違うのだ。
 しかし春と言うにはまだ早く、風は冷たくて、室内では相変わらずストーブを炊くし、手足は冬と同じように(あるいはそれ以上に)冷える。
 春は名のみの風の寒さや、という歌詞の意味が昔はわからなかった。ただ音で「ハルーワナーノミーノ」と歌っていた。今なら文字だけでなく、その意味も、感覚もよくわかる。
 ああ、大人になってわかることの多さよ。そして大人になってわからなくなることの多さよ。
 冬と春の境目で、寒暖だけでない季節のうつろいを想う。
 冬の終わりの暖かな日、春の初めの寒さ残る日。

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