朝日 ね子

あさひ ねこ   週末エッセイスト。北海道在住。ときどき短い創作文章も。

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あさひ ねこ   週末エッセイスト。北海道在住。ときどき短い創作文章も。

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最近の記事

【エッセイ】便利

 季節の変わり目という便利な言葉がある。  まんまとじんましん期に入った。知らないうちにするりと入った。  滝のような鼻水が、間歇泉のように定期的に落ちてくる。  今日こそは早く寝ようと、もう一週間も思いつづけているのに。

    • 【エッセイ】自己陶酔

       このところ、愚痴としか言えないことを書き連ねているのはわかっている。  かといって、それ以外のことを書く余裕もなし。見返す気力もなし。  同じようなことが口からこぼれ出ていないことを祈る。そういうことはたいてい、自覚がないものだ。  愉快なことを書きたい。あるいは、ぼんやりしてふわっとした楽しげなことを書きたい。  報われないなどと思うのは、ただの自己陶酔なのか。  しゃがみこんで電話をする傍らに、懐いていないはずのねこが寄り添っていた。

      • 【エッセイ】良かれと思って

         人びとの事情の隙間を埋めるように、自分の予定を組んだ。休まなかった。そしてサボったわけでもないのに仕事が終わらなかった。  わざとではなく、休めなかった。  休めと言われた。私が悪いような言われようだった。  休まなかったことだけを切りとって、なぜそうなったのかは知らぬ顔だ。  たしかに頼まれたわけじゃないし、自分が勝手にやったわけだ。返す言葉もございません。  ああそうかい、と心のなかで吐き捨てる。  私だって休みたい。好きで休まないのではなく、良かれと思ってなのだ。

        • 【エッセイ】中途半端

           ロングスリーパーと言えばなんだかっこいいが、ロングスリーパーの目安は1日10時間寝ることなのだそうだ。  私は9時間が理想だけど、まあ平日は8時間台でもしゃーないよね、という程度なので、ただの「長めに寝る人」なわけだ。  なんとも中途半端。そして、社会生活を送りつつ充分に寝ることの難しさよ。  ここになにも犠牲にしない生活を切望す。 

        【エッセイ】便利

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        • ねこのこと②
          21本
        • エッセイ以外の読み物
          4本
        • 北海道のことば
          18本
        • 妄想1週間
          6本
        • ねこのこと
          18本

        記事

          【エッセイ】休みの条件

           休みなのに睡眠不足なんて最悪だ。  仕事がないだけでなく、深く長く満足するまで眠ってはじめて胸を張って休んだと言えるのだ。  反対に、休みなのにゆっくり寝られないときの疲れること疲れること。  平日だって心ゆくまで寝ればいい話なのだけど。なにを優先するんだか。なにを優先したいんだか。  睡眠が充足したら、次のことを求められるのかなあ。

          【エッセイ】休みの条件

          【エッセイ】新入部員

           ひとりで細々と活動しているフロ部に、新入部員が入った。彼にはこの部の存在を教えていないので、私が勝手に入部させたのだが。  ひょんなことから、25歳年上の紳士と温泉に行く事になった。  紳士も温泉が大好きで、方々の温泉に行きまくっているという。先日そんな話をしていたら、もっともオススメの温泉に連れていってやろう、となったわけだ。  詳細は割愛するが、なんとも快適で楽しい1日だった。  そして私は、ほとんど架空のフロ部なるものに勝手に彼を入部させたわけだ。  ところで、彼

          【エッセイ】新入部員

          【エッセイ】独り言

           自分だけが知る場所に足あとを残すような密やかな気分だ。  誰に見せるでもなく書いている。誰も見ないものとして書いている。いつもひとりで書いている。  私からこぼれた言葉を、私が綴った文章を、誰かが見てくれている。  しかし私にはそれがどこの誰だかわからない。読んでくれたひとにも、私がどこの誰だかわからないはずだ。  それなら同じだろう。  ここは自分しか知らない場所で、私は足あとのように言葉を置いてゆく。少し進んで振り返るとエッセイが横たわっている。  誰にも見つからず

          【エッセイ】独り言

          【エッセイ】アザラシビーバーラッコ

           日曜の朝にゼニガタアザラシのテレビ番組を見ていた。アザラシの濡れてヌメヌメした姿を見ながら、姉  「こないだテレビでビーバー見てたらさ、N(母のこと)が『あれ、腹の上で貝割るのって何だっけ』って言い出したから、それラッコだってソッコー言ったさ」  とても得意げだ。 「全然似てないのになんで思い出したんだか知らんけど」  アザラシに集中したい私の意識には突然ビーバーとラッコが現れ、手をつないでおよいでいった。アザラシとラッコは海で、ビーバーだけが川に棲んでいる。  みんな濡れ

          【エッセイ】アザラシビーバーラッコ

          【エッセイ】薄暮

           大気に満ちていた何かが急にしぼんだように、北海道は数日のうちに涼しさを取り戻した。  日差しは熱く、風はカラリと冷たく、半袖ではときどき寒い。朝晩は上着が欲しいほどだ。  ほっとしながらも切ないような、忙しいだけで去った(去りつつある)夏が虚しいような、深追いしない方が良い気持ちが湧きあがる。  そういえば、きのうの仕事帰りに見上げた薄暮の空と雲がダイナミックで、妙にリアルだったなあ。そうして、家々がイラストのようにぼんやりと佇んでいた。  さて帰ろう、と思った。  帰りた

          【エッセイ】薄暮

          【エッセイ】願望

           ときどき、おみくじを引く。  引きたいときに引く。  世の中のたくさんのおみくじと同じで色々な運勢のくじを見てきたが、「願望」の欄はなぜか2つのパターンしか見たことがない。 「遅くともかなう」 または 「かなうが遅い」  願望は何かというのはさておいて、つまり今はまだかなわないってこと。  これしかないのかと思っていたが、他の人のを見せてもらったら別のことが書いてあったので、やはり自分のときだけこれが出るらしい。  なんだか不思議だが、それだけに信憑性がある気もする。  し

          【エッセイ】願望

          【エッセイ】ヘチマ

           突然、大きなヘチマをもらった。  食べ頃などとうに過ぎた、両手で抱えるほどの巨大なヘチマであった。  その人が当然のように「お前のぶんも持ってきたぞ」と言うものだから、うっかり「ありがとうございます」などと言いながらもらってしまった。  ところでヘチマって何に使うんですか?  もうそれ、食べられない大きさみたいだから、スポンジにでもする? 食べられるやつはオレがもらった。  平たく言うと、押し付けられただけなのかもしれなかった。  ということで、天日干しにして乾燥させ、皮

          【エッセイ】ヘチマ

          【エッセイ】落語風

           てえへんだ、てえへんだ!  おい、そんなに慌ててどうしたってんだい。  気付いちまった。近ごろ楽しいことがひとっつもねえのさ。  そりゃ、おめぇ、まあ仕方ねえよ。大人なんだからよ。  大人ってのはみんな楽しくないものなのかい。そのうえ、おれぁ頭の上にずっと鉛筆で書いたぐちゃぐちゃが浮かんでるんだぜ。  おめぇさん、ちょっと休んじゃどうだ。疲れてんだろうよ。  休みたいのはやまやまだが、なんだか知らねぇが、休んじゃいられねぇのさ。  他の奴らはもっと好き勝手にやってるようだぜ

          【エッセイ】落語風

          【エッセイ】炎症

           炎症が押し寄せてきた。  手荒れがひどく、かゆみで目を覚ます。日中も発作的にかゆみが出る。  無意識に小さな水疱をかきこわしてしまい、汁が止まらない。それが少し収まったと思ったら、そのあたりが乾燥してまたかゆい。そして皮膚が割れる。  これらが手のあちこちでタイミングを変えて繰り返す。  そのせいで、ひじのリンパがしこりになってしまった。痛い。まわりも腫れて赤みが出て、少しかゆい。  関係ないかもしれないが、目と目のまわりもかゆい。  手は絆創膏だらけでミイラ状態だ。  

          【エッセイ】炎症

          【エッセイ】まん丸

           がんばっているのだと思ってるうちはまだいい。  身を削っていると思い始めたら危険。  自分だけが身を削っていると気づいたらアウト。  自分だけなんて、うぬぼれもいいところだ。みんな多かれ少なかれ身を削っているんだろう。  ノーダメージに見えるあの人だって、こちらから見えないあっち側(あるいはそっち側)はげっそりと削れているかもしれない。  みんな削れているから自分も身を削ってしかるべきとか、自分が身を削っているからみんなもそうあれとか、思わない。思いたくない。  それ以

          【エッセイ】まん丸

          【エッセイ】分解

           このごろ、どうも疲れている。  たしか昨年も同じような感じで、原因は仕事が立て込むこと、それによる睡眠不足、休みがうまく取れないこと、方々に気を張るためだと思う。  さて、疲れているとは言っても現れる症状はひとそれぞれなわけなので、自分が今「疲れた」と感じる要素を分解しておこうと思う。  まず、集中力がない。頭がぼーっとする。なにをしても、情報が脳の表面をすべっていくようで、気がつくと目の焦点が合っていないことたびたび。  眠い。目が開けづらい。どっちが正しいのかわからな

          【エッセイ】分解

          【エッセイ】どっち

           前を歩くおじさんは、目を引く派手な柄シャツを着ていた。赤地に、たくさんの華やかな模様がプリントされている。  見るでもなくサスペンダーを目で追う。左右の肩から、背中で一度交差して腰まで下りている。  ああ、サスペンダーって懐かしいな。と思ったらそのおじさん、しっかりベルトもしているじゃないか。  え、どっちどっち。  心のなかで突っ込む。本人はべつになんとも思っていないにちがいない。  飛行機を降りる通路での出来事。

          【エッセイ】どっち