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【エッセイ】くしゃみの奇跡
数日前から腰痛に苦しんでいた。
日常生活に支障が出るほどでもないけれど、腰や股関節がある角度を通過しようとすると、違和感とともに痛みがはしる。スジがずれているような感覚で、どこかがコキっとはまれば治るような気がしたが、その体勢を見つけられずにいた。
仕方ないので、気休めながら風呂に入って温め、ストレッチをし、悪化しないことを祈りながら布団に入る。
一日を終え、ようやく寝ようと仰向けになってうとうとしているとき、不意にくしゃみが出た。
そしてそのとき、何かが起こった。しかし、すでに半ば眠っていたために、その何かを確認しないまま睡眠に突入した。
さて、翌日。
腰が、治っていた。立ち座りや前かがみの姿勢がすっかり楽になった。
あの時、あのくしゃみによって、スジがはまったらしい。
あんなに温めて、ほぐして、伸ばして、ひねって、治ったきっかけは不意のくしゃみだった。
くしゃみひとつでぎっくり腰になる人もいるというから、くしゃみひとつで治る人がいても不思議ではないのだろう。
実はこれまで、私はくしゃみにあまり良い印象を持っていなかった。確かにすっきりするが、むずむずするし、鼻水や唾や涙が出るし、うるさい。だから、出そうになっても我慢することさえあった。
しかしこの一件で、私のくしゃみに対する好感度が急上昇した。まさに救世主のごときありがたさだと思った。もう、出そうになっても我慢するまい。
身体のどこにも痛いところがないというのは、とても幸せなことなのである。
余談だが、最近くしゃみのあとに「ちくしょう!」というオジサンがすっかりいなくなったと思う。私の身の回りだけなのだろうか。
小さい頃は、その「ちくしょう」こそがうるさいと思っていたのに、聞こえてこないとなると不思議とさみしく感じたりする。
絶滅してしまったちくしょうオジサンが、何に対して怒りを訴えていたのか、今となっては知る由もない。
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