【エッセイ】みみずく去来
馬屋の二階にみみずくがいた、と姉が興奮気味に話す。
どこから入り込んだものか、窓の枠の隅のほうでじっとしている。昼間でも暗がりの場所だ。
母が最初に見つけ、姉を呼んだ。二人でしばらく観察したが、人の声を聞いてもみみずくは微動だにせず、目を閉じたままだった。昼間なので寝ているのかもしれなかった。
そういえば、ときどき馬屋の二階に小鳥の骨みたいなのが落ちてるんだよね。ニャギの仕業かと思ってたけど、みみずくが食べたのかな。
戸を少し開けておいたら、みみずくはいつの間にか姿を消した。
それから2週間ほど経った夕方、姉から写真が送られてきた。
馬屋の空馬房に立てかけたハシゴに、みみずくが鎮座している。頭の羽根が角みたいに二本ぴょんと立ち上がっていて、想像したとおりのみみずくの姿だった。サイズは思ったよりも小さい。手のひらに乗るくらいの大きさだ。
人が近づいても、寝たふりして全然逃げないの。棲みつくつもりかな。
ニャギはちょうど外出しているらしい。帰ってきてみみずくを襲わないかが心配だった。
夜になって、みみずくは馬屋の廊下に移動した。ニャギが近くにくると素早く飛び上がって逃げたが、野生動物にしては動きが幾分鈍いようだった(野生のみみずくを見たことはない)。
けがでもしてるのかな。保護したほうがいいのかな。元気になっていなくなればいいんだけど。
姉が不安がるので、明日、役所に問い合わせてみることにした。
(ニャギはみみずくのことを見て見ないふりしているそうだ。初めて見るので鳥だと認識できないでいるのかもしれない)
翌朝、目が覚めると同時に姉から連絡がきた。
みみずくが目に見えて弱っている。ニャギが近くに来てももう飛び上がることはぜず、徒歩で距離をとろうとしたが、逃げ込んだ馬房の寝藁に足をとられて動けなくなってしまった。
グネグネしてて、死んじゃいそう。
できることはなかった。野鳥に触れるのもためらわれる。
役所が始まる時間を待って担当部署に問い合わせてみると、野鳥の保護をしてくれる獣医さんに連絡をとってくれた。
獣医さんはすぐに駆けつけてくれたが、案内したときにはみみずくはすでに息絶えていた。土がしばれて埋めてやることもできないので、そのまま獣医さんに連れて行ってもらった。
(獣医さんがあとで、鳥インフルエンザの心配はないと連絡をくれた)
みみずく、残念だったね。ニャギに襲われたんじゃなくてよかったけど。
ちっちゃくてかわいかったのに。なんでうちに来たんだか。
母と姉が言うので、猫も鳥も困るとうちに来るね、と言うとほんとにさ、と二人は疲れたように笑った。
やっぱり目の前で命がついえるのを見るのはつらい。
みみずくは去った。
残念ながら、相まみえることはできなかった。