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トイレの世界地図から次への到達点に最適?  わが人生の悔恨と未来ある子どもたちに伝えたい、知識の身につけ方

 新刊が出る度に、広告を作り、POPを作り、チラシを作る。宣伝課のしがないスタッフである築地川のくらげが、独断と偏見で選んだ本の感想文をつらつら書き散らす。おすすめしたい本、そうでもない本と、ひどく自由に展開する予定だ。今回は、朝日ジュニア学習年鑑別冊『絵で見てわかる!世界の国ぐに』(山口正監修/朝日新聞出版編)を嗜む。

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 はい、地球儀があります。世界には、約200の国があります。すべて言えるという方、連絡してください。日本も世界から見れば、そうとう不思議な国のようですが、世界だって負けていません。そこで問題です。牛の数が、人口の4倍もいる国といえば? はい、ウルグアイです。では、ウルグアイの首都といえば――(※)

 生まれてこのかた四十数年間、日本を出国したことがなく、ひとり鎖国状態。運転免許証はゴールドでも、パスポートはございません。申請すれば、きっともらえる、はず。そんな小さな世界をウロウロする人生、母なる大海を漂うくらげのクセに東京湾の外にすら滅多に出ない。これは正直、世界を教える資格はない。五輪閉幕、世界中のアスリートが集い、世界がぐっと近づいてきた昨今、小さなくらげ(愚息)にはもっと広い世界を見てもらおうと、『絵で見てわかる!世界の国ぐに』を渡してみた。

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 ただ、子どもに書籍を与えるときは注意してください。ほぼ間違いなく、カバーは秒ではがされます。品質保持に欠かせないカバーも子どもにとっては読みにくさを感じるものでしかないよう。残酷です。もう少しカバーを眺めてくれても……。父は仕事でカバーイラストのビスケットの色まで丹念にチェックしているのに 。さらにこの本のカバーは、裏側に世界地図が載っているのに。せめて本からはがしてしまっても、どこかに貼ってくれれば嬉しいのに。と心の声が止まらない。

 話は変わるが、我が家のトイレには世界地図と日本地図が壁一面に張ってある。なんとも昭和なトイレだが、これがなにげに実用的。なにせ、トイレはヒマだ。ぼんやり見つめる先に地図が貼ってあれば、自然と目に入る。で、地図というのは不思議なもので、目に入るとついつい色々なものが気になりはじめる。世界を知らぬ私は、夢中になって中央アフリカの国名やアジアの複雑な起伏、オセアニアの島々まで便意を忘れ、見ふけってしまう。トイレでなんとなく地理教育を施してみたものの、世界を教えるには不十分。

 だからこそ、本書に頼ってみる。197の国を大陸ごとに1ページずつ、いくつかの国は半ページで紹介 。気になったらもっと専門的な方向へ行けばいい。まずはざっとでいいから世界を知ろう。そんな内容。トイレの世界地図から次の到達点に最適だ。

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 いいか、専門的な勉学は非常に大事だ。狭く深く掘り下げていくと、世界はさらに広がるものだ。だが、どの専門分野を学ぶのかを決めるにあたり、まずは浅く広く多くの知識を身につけるのだ。小学生のうちから、日本史にしか興味がないなんてイキってしまうと、デザイン比率を無視した無茶なラフコンテを書いて、デザイナーに静かに直されるぞ。とにかく世界をざっと理解しよう。サッカーワールドカップでパラグアイはアフリカ代表だねなんてトンチンカンなことのたまって、冷めた視線を浴びるのは避けよう。

 ざっとでいいとは言いながら、1ページに各国の概要から名所、名産品、文化の特徴、独自の習慣から日本とのつながりまで、なんともてんこ盛り。おおそうか、こんなに一気に覚えられないか。いや、違う。違うぞ。暗記なんてしなくていい。勘違いするな、暗記は勉強じゃないぞ。詰め込み式の勉強は昭和の遺物なのだ。そもそも詰め込んだって、必ずどこかから漏れて、消えていくんだ。消えた記憶を拾うことはできない。父さんは元素記号も元号も一生懸命暗記したのはいいが、それを役立てる方法を知らないんだ。どう使っていいか分からないから、悲しくなって、夜中に「泣くよウグイス、平安京」「一味散々、幕府の滅亡」なんて月に向かって意味もなくつぶやくしかないんだ。こんな無意味なことは止めるんだ。

 だから、いいんだ、覚えてなくて。1日1ページ、世界の国のひとつだけでいいから、目を通すことだ。かわいいイラストを眺めながら、なんとなくでいいから、読むんだ。楽しむんだ。勉学に限らず、あらゆる物事のはじまりは、楽しいという快楽からはじまる。その高揚感がいつしか進むべき専門分野を教えてくれる。そうなったとき、君が進む道が開けてくる。気になった国はどこだ。ベラルーシ? ヨーロッパバイソンが暮らすビャウォビエジャの森に行きたい? そうかそうか、マニアだなぁ。血は争えんなぁ。で、ベラルーシってどこだ。

(文/築地川のくらげ)

(※)クイズの答え:モンテビデオ


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