上司に一緒に怒られてもストレスに“感じる人”と“感じない人”の違い
一緒に上司に怒られた同僚はすぐに立ち直って生き生き働いているのに、自分はそれがストレスで夜もぐっすり眠れないし、会社に行くのもつらい……。この違いは、一言で言うと「認知」の仕方の違いです。ちょっとした心がけでその「認知」は修正することができます。
産業カウンセラーで職場のメンタルヘルスの専門家である見波利幸さんは、『やめる勇気――「やらねば!」をミニマムにして心を強くする21の習慣』(朝日新聞出版)の中で、「認知」の仕方の違いと、これを修正する方法を解説しています。ここでは、そのもっとも肝となる部分を紹介します。
同じ上司に同じことをされても、感じ方が違うのは、人によって「認知」の仕方が異なるからです。簡単に言うと、出来事が起こった時に「どう受け取るか」が違います。この認知はストレスの発生に大きく関わってきます。
たとえば、同じプロジェクトに携わっているAさんとBさんがミスをして、同時に上司に叱責されたとします。上司がミスに気付いたので大事には至りませんでしたが、顧客に多大な迷惑をかける一歩手前だったため、上司はカンカンに怒り、他のスタッフの前で二人を怒鳴り散らしました。
「お前ら、何をしたかわかってるのか? いいか、このまま進めていたら大変な問題になってたんだぞ! どうして確認もしないで進めたんだ? 中途半端な仕事をしてるからダメなんだよ!」
厳しい叱責を受けた二人のうち、Aさんは次のように感じました。
「大失敗をしてしまった……。怒られるのも当然だ。でも上司が気づいてくれて最悪の事態にならなくてすんだ。これで、どの時点で何を確認すればいいかわかったから、同じミスは絶対にしないぞ。自分は真面目に仕事をしていたんだから、努力はしていた。これは経験不足から生まれた失敗だ。この経験を忘れないようにしよう」
一方、もう一人のBさんはこのように感じました。
「これは大失敗だ。なんでこんなくだらないミスをしてしまったんだろう……。情けないな。自分はいつも大事な時に失敗してしまうんだ。でもだからと言って、皆の前であんなに否定的なことを言うことはないじゃないか。たった1回の失敗なのに、皆に仕事ができない奴だと思われてしまう。普通は別室で叱るもんだろう? 無神経な上司だ」
その後、Aさんは特に上司を嫌うことはなく、仕事にも前向きに取り組んでいます。Bさんは上司に嫌悪感を抱くようになり、仕事に身が入りません。
当然のことながら、上司はAさんを評価するようになります。Bさんは「上司はAさんをひいきしている」と感じてますます上司が嫌になり、やりとりをするたびに強いストレスを感じるようになりました。
■自分の「物事の受け取り方」を考えてみよう
AさんとBさんとでは、認知の仕方が異なるのがよくわかると思います。出来事が起こってから感情が生じるまでに、まずはこの認知があります。同じ出来事でも認知の仕方によって異なる感情が生まれるというわけです。
Aさんは、最終的に上司の叱責を肯定的に捉えています。他方、Bさんは自己否定感が生まれ、上司に対する嫌悪感にまで発展しました。その結果、大きなストレスを抱えることになってしまっています。
Bさんが感じるストレスの本質的な原因は、上司の無神経な言葉というよりは、Bさんの認知の仕方だということがわかるでしょう。
もちろん、上司の叱責内容に問題がないとはいえませんが、上司の振る舞いを変えるより、自分の認知を認識する方が、はるかに簡単です。「自分がどういう認知をしているか」という事実に気付くだけで、ストレスは軽減されます。
大きなストレスを感じる時は、大抵認知の仕方が極端な場合です。要は視野が狭くなり、柔軟性のないものの見方になってしまっているということです。ストレスを抱えている人は、このような認知が強化されている状態です。
■マイナス感情が膨れ上がるのを防ぐには
何か出来事が起こって感情が生まれた時は、まず自分がどういう認知をしているかを考えてみましょう。認知を客観視することで、マイナス感情に振り回されていない自分に戻ることができるのです。
自分の認知を認識しても、どうしても気持ちを切り替えられない時は、次の二つのことを試してみてください。
一つ目は「自分の感じていることを疑ってみる」です。「何もかも最悪だ」と感じるなら、本当にすべてのことが最悪なのかと考えてみる。「周りに無能だと思われている」と感じるなら、本当に全員がそう思っているのかを考えてみる。思っていない人を思いついたらノートにその人の名前と理由を書き出してみましょう。
感情的になっている時は、よくよく考えるとつじつまが合わないことなのに、そうに決まっていると思い込んでいることがあります。自問していくことで、自ら矛盾点に気づき、気持ちが落ち着いていくでしょう。
二つ目は、「同じ状況にいる人にアドバイスをするとしたら何と言うかを考える」です。
目の前の人が自分とまったく同じことを言っていると想像してみてください。「こんな失態をおかしたからにはもう出世は無理だ。頑張っても無意味だ」と言う人に、何とアドバイスするでしょうか。これも思いつくまま書き出してみてください。
「そんなわけないよ。たった1回の失敗だろう。頑張れば挽回(ばんかい)できるじゃないか」という言葉が浮かぶなら、それを自分に向ければいいのです。
他人が経験していることは客観的に見られるものです。当事者意識をなくして他人へのアドバイスを考えることで、自分にとって最も必要な言葉が出てくることがあります。
これらのことを習慣化していくと、元の自分に戻るまでの時間が短くなります。ストレスを感じる出来事が起こった後、1カ月間くらい落ち込んでいたのが、1週間になり、3日間になり、やがては1日経てばもうストレスを手放しているという状態になってくるのです。
最終的には、出来事が起こった瞬間に自分を客観視できるようになるでしょう。
(文:見波利幸/写真:Gettyimages)