ファミコンで泣いたあの頃の自分への懺悔と知ったかぶりからの卒業
新刊が出る度に、広告を作り、POPを作り、チラシを作る。宣伝課のしがないスタッフが、独断と偏見で選んだ本の感想文をつらつら書き散らす。おすすめしたい本、そうでもない本と、ひどく自由に展開する予定だ。今回は、アサヒオリジナル『スマホで困ったときに開く本 2021-2022』(ムック)を嗜む。
以前、籍を置いていた出版社の社長がこう話していた。
「実用書って、なにかについて本当に困った人が、悩みまくって、どうにもならなくて、最後の頼みに書店に行って、すがる思いで手にするものだ」
書籍には人を救える力がある。その力を、実用書の本懐を見事に達成した。それがアサヒオリジナル「スマホで困ったときに開く本2021-2022」だ。Paso編集部は25年以上、読者の「困った」に寄り添ってきた老舗。困ったシリーズ266万部という実績はその証だろう。
その新刊はスマホだが、昨年刊行された「パソコンで困ったときに開く本2021」も合わせて紹介しよう。
このシリーズの広告を担当、印象に残ったのは、広告掲載用に編集部からもらった「読者の声」だった。ご高齢な読者から届いた息づかいが聞こえるほどの熱い言葉が並ぶ。コロナ禍で世の中が急激にデジタル化へ舵をきり、行政手続きも対面を避けようとデジタルシフト、馬券までネットでしか買えなくなった。孫の顔もPCやスマホ越しでないと見られず、じいちゃん、ばあちゃんは慌てたにちがいない。
緩やかな流れであれば、それこそ子どもに教わるか、PC教室や携帯ショップに通いながら慣れることができた。いかんせん、コロナの感染拡大と同じく急激だった。そんなデジタル難民を困ったシリーズが救った。「読者の声」にはその感謝の言葉があふれており、広告を作りながら、実用書の力にしびれた。
さて、私はどうなのだろうか。ふと己を振り返った。デジタル難民ではないか。いやいや、会社では日がな一日PCを叩き、2年前にはiPhoneに買い替えた。難民じゃない。SNSをいじり倒し、ネット通販でポチっとする。お腹が減ったら出前館、馬券はコロナ禍以前からネット購入。なに不自由なくデジタル社会を生存中だ。
しかし、本当に自分はPCやスマホを使いこなせているのか。というか、目の前でパッカリと口を開くPCの真の力を引き出し、役立てているだろうか。人間は意識的に自分の脳領域のわずかな部分しか使えないように、私はPCがもつ機能をどれほど認識し、操っているのか。本当にPCやスマホで困っていないか。
子どものころ、父からファミコンソフトを買い与えられたとき、「まずは能書き(取扱説明書)を読め」とたしなめられた。私はそれを聞かず、包装を乱暴に解き、トリセツ(取扱説明書)を無視、ソフトをファミコン本体に突き立てた。荒くなる呼吸も心臓の高鳴りも制御できず、とにかくゲームを始めるしかなかった。だが、どのボタンを押せば、画面の自分がジャンプするのか、横スクロールなのか縦スクロールなのか、さっぱり分からないまま、画面の自分の命をムダに散らした。
あの頃の癖らしく、いまも新たに買った家電のトリセツを横にのけ、本体の電源を入れてしまう。なぜそうなるのか。まずはトリセツを読み、目の前のゲームソフトや家電について知ろうとしないのか。それは自分でも使いこなせるという自尊心があるからだ。この自尊心というヤツは損をさせる。ゲームを始める前にトリセツを読めば、最低でもジャンプはAボタン、画面は横スクロールであることぐらいは理解できるのだ。家電が持つ予想外の便利機能を知ることも可能だ。
いまだに私にまとわりつく自尊心が「スマホで困ったときに開く本2021-2022」を遠ざけた。あの頃の自分と同じように自分で自分に損をさせているのではないか。友達にゲームでコテンパンにされ、泣きながら攻略本を読んだ日を忘れたのか。広告制作中に平然とiPhoneのつづりも誤ってしまう、己はそれで大丈夫か。
私は一念発起し、本書を開いた。驚くほどに知らないことがたくさんあった。その一つ一つを本書は写真や図解で詳細に解説してくれる。あの頃、泣いてすがったゲームの攻略本と同じやさしさだ。整理され、見やすい誌面は実用書の鑑。どんな本でも開かないとわからないことがある。
そう、これはデジタル難民だけが読む本ではない。自尊心から解き放たれるためにも必要だった。自分はデジタルを一応は使いこなせているぐらいに考えている方、自分が普段愛用する機器の本当の力を知りたくないですか? なぜ、知ろうとしないのか、その裏側に潜む自尊心を見つめ、もう一度問いかけてみましょう。
まさかコピー&ペーストを右クリックしていませんよね。なんて、ちょっと偉そうなことを言いました。ショートカット(コントロール+C、コントロール+V)を知ったのはわずか2年ほど前です。ごめんなさい。そんなわけで、知らんかった機能もたくさん掲載され、本当に困った人は当然ながら、知ったつもりの方のお役にも立てるかと。長年にわたり重宝されているのはワケがある。自分がPCやスマホをどれほど把握できているのか、それを試すことも自己を分析するためにも悪くない。
(文:築地川のくらげ)