「才能がない」のではない「見つけていない」だけ 自分でできる“才能のタネ”の探し方
「才能」という言葉からは、ごく一握りの人にしかないものをイメージしがちです。でも、たとえば、「この人と話すとホッとする」と感じさせる話の聴き方ができたり、チームで進めている仕事の“穴”に気づけたり、レシピを見なくてもいい塩梅で料理の味付けができたりするのも、才能です。
ただ、そうしたことは、能力がある人には努力しなくても当たり前にできてしまいますし、特に仕事に目に見える形で生かされていなければ、周囲も意識していないかもしれません。この段階のものを、僕は「才能のタネ」と呼んでいます。自分の強みに育つ可能性のある特性です。
この、才能のタネを見落とさず、すくいあげていくこと。つまり、自己認識の精度を高めていくこと。それが、これからのあなたの人生を、きっと変えてくれます。そこで、まずは、自己認識の精度を高めるための6つのマインドセットをお伝えしていきます。
(1)人はみな、才能のタネを持っている
誰もがみな、何らかの才能のタネを持っている――。まず、この基本的な事実をおさえておかなければなりません。ただ、当たり前に使えているせいで気づいていないだけなのです。あなたは生まれ変わる必要はありません。ほんとうの自分を「知る」だけでいいのです。
(2)自分を過小評価しない
「私には強みと呼べるものがない」「どこにでもいる、なんの変哲もない人間だから……」――こんな言葉を発するのは、今日で終わりにしましょう。
過小評価も過大評価も、正確に自分を把握していないがゆえに起こることです。就職活動でつらくなっている学生さんを見かけますが、自己分析の名のもとに、自分を責めるのはやめましょう。
(3)誰も「ひとり」では生きられない
ビジネスの世界では、誰もひとりでは成功できません。すべての成果は助け合いのシステムのなかで生まれています。ひとりで行っているように見える仕事も、自分の立ち位置から一歩ひいて全体像を見れば、たくさんの人が有機的にかかわりあっていることに気づくでしょう。
仕事で、あるいは人生で成功をおさめるには、数多くの協力者の力が必要です。それはあなたの会社の上司や同僚、部下かもしれませんし、顧客かもしれません。パートナーや友人、子どもたちの手を借りることもあるでしょう。他者の協力を得られれば、発揮できる能力は何倍にもなります。
(4)私の常識とあなたの常識は違う
「私とあなたは違う人物。これまで生きてきた道のりも、考え方や価値観も、生まれ持った気質も」―─この考えに異論を唱える人はいないはずです。
しかし、頭ではわかっていても、人は無意識に「自分にとっての“あたりまえ”が、世の中の“あたりまえ”」だと考えがちです。でも、「あたりまえ」や「常識」なんて実はどこにもないのです。
チームを統括するようになってから、僕は「常識」という言葉を使うのをやめました。常識とは、自分の才能の組み合わせでつくられるものです。「自分が“あたりまえ”に行っている(でも、他の人にとっては必ずしもあたりまえではない)こと」「一般常識だと感じている“ものさし”に気づくこと」が、自身の才能のタネを発見するコツです。
(5)ありのままでいる勇気を持つ
才能のタネを見つける上で大切なのは次の3つです。
自己認識、つまり本当の自分を把握する過程では、さまざまな思いが交錯するものです。ときには耳の痛い話を聞かなければならないかもしれません。見たくない真実に、向き合わなければならないかもしれません。
自己認識を妨げる恐怖や虚栄心、自分の心に正直になれない障害物にぶちあたったときは、自分を知りたいと思った「目的」に立ちかえってください。自己認識がどれだけあなたの人生を助けてくれるかという「効用」を思い出してください。
ありのままの自分でいると、まわりから嫌われたり、やっかまれたりすることもあるでしょう。しかし、はっきり言います。嫌われてください。すべての人に好かれるなんて無理です。
みんなに好かれようと努力すればするほど、どんどん自分を見失っていきます。まわりの人の目を気にしすぎて、自分の幸せを犠牲にする必要はありません。
(6)才能のタネを育てていくために努力する
「ありのままの自分でいる」ことは、決して努力や工夫をしなくていい、現状に甘んじていればいいということではありません。
背伸びせず、見栄をはらず、謙遜しすぎず、あなたがすでに持っている才能のタネをまずは把握する。その上で、それを強みとして発揮できるところまで持って行きたいのです。すぐに成果が見えなくても、根気よく、試行錯誤を繰り返しながら、才能のタネを育てていきましょう。手を掛ければ、必ず開花するからです。
■才能のタネを「強み」に育てる
才能のタネを見つけて育てるには、どうすればいいのでしょうか。その方法はとても単純です。
たとえば、僕は、一旦目標を決めたら、その達成のために全力で突き進む傾向があります。これは、操縦の仕方次第で良い方向にも悪い方向にも働きますが、僕の才能のタネの一つだと考えています。
実際に僕は、「これを実現したい」という明確な目標が定まると、意欲がみなぎり、集中力が高まります。反対に、目指すべきものが曖昧だと、物事に取り組むエンジンがなかなかかかりません。
この才能のタネを強みに育てるために僕が意識して行っているのは、職場で僕のチームメンバーに「この仕事における◯◯さんの目標は何ですか? それを達成するための戦略は?」と質問することです。もちろん、目標と戦略は話し合ってわかっていますが、それでもあえて相手の口から言ってもらうことに意味があるのです。
メンバーの戦略と目標を毎回確認することで、最短コースで成果をあげられるように支援することができますし、僕自身も安心できます。「週1回、必ずチームメンバーに問いかける」という行動をとることで、僕は才能のタネを育てるために時間を投資しているわけです。
また、大きな目標に向かって仕事をする際に、中間目標を設けることも僕にとっては有効です。毎朝、自らの目標と計画を確認することで、才能を自覚的に使うことができます。
しかし、目標の達成に邁進するという才能のタネを持っていない人が、僕と同じことをしても、おそらく成果は期待できないでしょう。そもそも目標を設定して達成を目指すこと自体に興味を見出だせない。この過程をつらく感じて、継続できなくなってしまうこともあります。自分とは異なる才能を持つ人を真似しても意味がないのはこのためです。
才能を正しく自覚的に使うことができると、その行為自体を楽しめます。物事に没頭したり、わくわくしたり。意欲高く取り組めるのは、自分の才能に時間を投資できている証拠ともいえます。
■それでも「弱み」の克服に時間を使いますか
才能に時間を投資すべき理由が明確にわかる研究結果があります。ネブラスカ大学では、速読の効果的な教授法を見つけるために、3年間で10000人以上の学生を対象に速読と理解力の調査を行いました。
「読むことが苦手」な学生を対象に速読法を教えた場合、1分間で読める語数が90から150にアップしました。一方、「読むことが得意」な学生に、同じ速読法を教えた場合、語数はどのくらい向上したでしょうか。なんと1分間で読める語数が350から2900に向上したのです。「読むことが苦手」な学生の語数の増え幅が2倍にも満たないのに対して、もともと「読むことが得意」な学生は、約8倍も語数を増やしています。
弱みを克服しようと努力するよりも、強みを伸ばす努力をしたほうが、はるかに大きな成果を得られることが実感できるのではないでしょうか。
ちなみに、まだまだ若造の僕が言うのもなんですが、年を取るほどに強くなる「自分のことを一番わかっているのは自分」という考えは、錯覚だと思いましょう。むしろ年齢を重ねれば重ねるほど、自分の外にある情報や選択肢は増え、自分が蓄積してきた体験や経験の多様性にも気づき、自己認識に揺れが生じてくるものです。
年齢は関係ありません。今日から、「才能のタネ」探しをはじめてみませんか。
(構成/猪俣奈央子)