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元自衛隊メンタルヘルス教官に怒りのコントロール法を聞く 「現代人はスーツを着た原始人」と思え

「現代人はスーツを着た原始人」
その認識に立つと、イライラした感情の整理がつきやすくなると指摘するのは、元自衛隊メンタル教官で、『自衛隊メンタル教官が教える 心の疲れをとる技術』(朝日新書)の著者である下園壮太さんだ。感情、特に怒りをコントロールするための方法を、下園さんに伺った。(写真:Getttyimages/図版:本書より)

■「原始人」視点で、人間理解が深まる

 私は現代人を「スーツを着た原始人」であると表現している。原始人の一番の特徴は「エネルギーを大切にすること」だ。なぜなら、原始時代では、エネルギーを使い果たして動けなくなれば、即、死に直結するからだ。

 だから、うつ状態になることも、行動を抑制してエネルギーを回復させよという無意識からの指令だといえる。

 だからこそ、うつ状態に陥るまで疲れきらないように「疲労のコントロール」をすることが大事なのだが、現代人は24時間ネットを通して仕事や人、情報とつながることによって、ほんの20年前の人と比べても、多大なエネルギー消費を強いられていると自覚しないといけない。

 400万年の人類の歴史の中で、人間がスーツを着たのはごくごく、最近にすぎない。400万年のあいだ培われてきた原始人としての行動、思考パターンから人間を考えてみると、人間理解が深まる。

■「感情」は増幅される仕組みがある

「感情」は、原始時代に我々ヒトが身に着けた、命がけのプログラムだ。例えば怒りは、原始人が、自分がせっかくとった獲物を横取りされようとしたときなどに、すぐに100%の力を発揮し、相手をねじ伏せるためのプログラムだ。

「怒り」にしろ「嫌い」にしろ、感情は増幅されるという特徴がある。嫌いと思った人がいたら、その感情のボリュームを上げることで、確実にその人を避け、身の危険から遠ざかろうとするプログラムがあるのだ。

 しかし現代人が、例えば電車で隣人の肘が当たっただけで命がけの反応をしていては身が持たないし、不要なトラブルのもとだ。何より、大人気ない。

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 そこで、通常は理性でその怒りをコントロールする。ところが、高いレベルのストレスで疲労が蓄積してくると、無意識の反応として、弱っている自分を守ろうと、自然に被害者意識が大きくなる。

 すると、怒りの感情が思考まで乗っ取るようになってくる。ある程度のストレスまでは、明晰な頭脳で怒りをコントロールしてきた人が、今度はその明晰な頭脳をフルに使って、相手の悪意を検索し、相手をどう懲らしめようかを考え続けてしまう。

 どうしたらいいのだろうか。

 もちろん、まずは休息して、疲労回復に努めることである。疲れが取れてくれば、自分を守ろうとする感情の過剰反応も少しずつ収まっていく。

 もう一つは、このような場合は、感情を体からコントロールするほうがうまくいく。頭で考えるより、少しの運動、呼吸法、ヨガなどのほうが、ずっと冷静になれる。不安が減少して、「自分はまだまだ大丈夫」だという身体への自信から、自信が回復してくるのだ。

 過酷な環境で生活する兵士はそれをよく知っていて、隙を見つけては、ランニングや筋トレに励んでいる。

 ただ、この体から感情をケアする方法も、感情が抑えきれなくなってから急にやろうとしても難しい。日ごろから少しずつ訓練しておくといいだろう。