Googleが解明した「優れたマネジャーの条件が“良いコーチである”」ことの理由
■マネジャーが最低限やるべき5つのこと
なぜマネジャーは良いコーチでなくてはならないのか?
それは、目まぐるしい現代のビジネス環境の変化に対応しながら、チームでより高い成果を上げていくには、チームのメンバー一人ひとりの成長が欠かせないからです。コーチとは、チームのメンバー一人ひとりの目標達成をサポートし、成長を促す存在(人)のことであり、それを実現するための手法がコーチングです。
マネジャーが最低限やるべきことは次の5つです。
(1)チームのミッション(ビジョンと戦略)を明確に決めること
(2)そのミッションに向かっていくプロセスを管理すること
(3)メンバーを育成すること
(4)チームのパフォーマンスを評価すること
(5)チームの「代表」として、必要なリソース(資源)を確保すること
これらのうち、(3)を実現するためによきコーチでなくてはならない、というのはわかりやすいでしょう。(2)も、単なる事務的なプロセス管理ではなく、チームのミッションに貢献しながら成長していってくれるように伴走することと捉えれば、コーチとしての側面がイメージできると思います。
(1)は、コーチが行うべき目標管理とも言えます。メンバーは、日々の業務に追われていると、長期的な目標でもあるミッションをつい忘れがちです。そこで、そのことを忘れないようサポートするのがマネジャー(コーチ)の仕事というわけです。
それに、どのようなミッションを掲げるかは、メンバーのモチベーションアップにも影響します。(3)を実現させるうえでも、コーチとして(1)は軽視できない重要な仕事と言えます。
(4)と(5)は、マネジャーはメンバー一人ひとりのコーチであると同時に、チーム全体の「監督」であり、経営メンバーの一人でもあるということ。
要するに、チームのミッション達成とメンバー個人の成長を両立させ、個人の成長をチームの成果につなげて、会社全体にいい影響をもたらしていくことが、コーチとしてのマネジャーの役割であり、コーチングの目的です。
■最高のコーチングセッションとは?
Googleの元コーチングディレクターで、デイビッド・ピーターソンさんという方がいます。僕が接してきた中では、「世界トップのコーチ」の一人と言っても過言ではない人です。
彼はミネソタ大学でPh.D.(博士号)を取ったのち、全米にコーチングを広めたPDIという会社でコーチングディレクターになりました。Googleに入る前に、ずっとアメリカ中を回って経営者のコーチングをしていたエグゼクティブコーチングのプロフェッショナルです。
僕がGoogleにいた時、彼がある研修会で面白いことを言いました。僕自身のコーチング経験を振り返ってみてもすごく納得できる言葉です。それは「今まで経験した最高のコーチングセッションは?」という質問への答えでした。
「ある社長が部屋に入ってきたので私は挨拶した。そしてセッションが始まると、私は最後まで一言もしゃべらなかった。それが最高のセッションだった」
では、なぜこれが、最高のコーチングセッションなのか?
それは、コーチが尋ねるまでもなく、コーチングの相手(クライアント)自身が「自分が何を目指すべきか(=ゴール)」を理解していて、「そのゴールの実現に向けて何を優先して行えばいいか」という答えを見出し、「そのことによる他人への影響(アウトカム:outcome)」まで認識できている状態だからです。
■誰にでも「コーチ」が必要な理由
そのような状態に至るまでのステップは次の4つに分けることができ、これらは「コーチのサポートによって起こしたいクライアントの変化」という捉え方もできます。
(1)自分と自分の状況を認識すること
(2)自分が置かれている環境を認識すること
(3)自分には選択肢があることを自覚すること
(4)選択したことに対する責任と自分が与える影響を考えること
さてここで、素朴な疑問がわいてくるはずです。
「自分で答えを出すことができるのであれば、コーチは必要ないのでは?」と。
コーチングの世界では、コーチングを受ける人がコーチのサポートを積極的に受け入れるだけでなく、より適切な答えにたどり着くようにコーチからのサポートを積極的に求め、変わることができる状態のことを「コーチャブル」と表現します。最高のコーチングセッションのクライアントは、まさにコーチャブル。要は、コーチャブルな人とのセッションであれば、必ずよいコーチングになります。
ただし、常にコーチャブルであり続けるというのは、口で言うほどには簡単ではありません。誰しも経験があることだと思いますが、調子がいい時もあれば、悪い時もある、というのが人間です。
それに私たち人間は、従来の習慣を維持しようとする側面を持ち合わせています。生物学の用語で、外部の環境が変化しても体温などを一定に保つ機能のことを「ホメオスタシス(homeostasis:恒常性)」と言いますが、心理的な安定を求める傾向も一種のホメオスタシスと言っていいと僕は思っています。
つまり、人間の「変わりたくない」という側面はあって当たり前なのです。変わってばかりでは不安定で、落ち着いた生活が送れなくなってしまいます。でも、だからといって、ずっと「変わりたくない」では、いつまでたっても成長しませんし、それこそ周りの環境の変化から取り残されてしまいます。
人間は、もともと「変わりたくない」存在でもあるけれども、生きていくには「変わらなくてはならない」存在でもある。人間はそんな矛盾した存在だからこそ、「コーチ」のような存在が必要なのです。