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元自衛隊メンタル教官直伝! “カチン”と来たら「DNA呼吸法」

 他人の一言に「カチン!」とくることは、誰にでもある。思わずムッとしたり、その場を立ち去ったり、ムキになって言い返したり……。そのせいで、トラブルに拡大することだってある。何とか感情的にならずに、上手に対処できないものだろうか。
「カチンときたときは、“DNA呼吸法”を覚えておくと、役立ちますよ」と話すのは、長年自衛隊員のメンタルトレーニングに教官として携わってきた下園壮太さん『自衛隊メンタル教官が教える 心の疲れをとる技術』(朝日新書)の著者であり、現在、一般向けに「感情のケアプログラム」を発表し、普及につとめている下園さんにお話を聞いた。

■お母さんの一言にカチン!をおさめた例

「DNA呼吸法」とは具体的にはどのようなものか。まずは、実際に私の「感情のケアプログラム」の講座に通い、実践している一人、都内の40歳女性、Aさんの体験談を紹介しましょう。

 Aさんはお母さんと二人暮らし。仲はいいが、母親の一言に“カチン!”は、日ごろからとても多かったといいます。

 ある日、母娘で連れ立って観劇へ。「その一日は楽しもうと思って、電車の中でも役者さんのことやランチのことをあれこれ、母と楽しく話していたんです。とてもワクワクしながら会話していたのに、母が突然“ところで、あの申請は出したの?”って、言ってきたんです」。

 その申請は、内心ではAさんも気にはなっていたこと。でもAさんはカチン、ときました。(お母さんって、いつもそう。何でこんなときにそんなこと言うの!)。いつもならそのまま口に出して、ケンカに突入するパターンです。

 しかしAさんは、そこで「感情のケアプログラム」で習ったことを思い出しました。

 怒りのピークは「6秒~11秒」で過ぎるもの。だから、まずは我慢。次に、自分の感情を認める。(私はムカついている。だって、お母さん、私の気持ちなんて考えていないんだもん)。

 次に「DNA呼吸法」を5回。すると、感情が落ち着き、(まあ、よくあることだ)と思うことができました。そして、そんな自分に少し自信がわきました。さらに、(例の申請は確かに大切。それを思い出させてくれたのはありがたいのかも)とまで感じることができたのです。

 このプロセスを経て、Aさんは「カチン!」を乗り越え、お母さんに普通に、別の話題で話しかけることができました。いつもならケンカになって、帰ってしまったかもしれないところを、楽しい一日とすることができたのです。

■「DNA呼吸法」とは

 Aさんも試した「DNA呼吸法」、実際の手順は次の通りです。

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1.呼吸姿勢を作る。
まず椅子に座る。骨盤から折るイメージで、上半身を前に倒す。背骨を気持ちよく伸ばしながら、上半身を元の位置に戻す。首、肩を上下左右に揺らして、脱力する。丹田(腰骨のお椀の中心)に重みを感じ、背骨に体重を乗せ、筋肉にはできるだけ力が入ってない状態を心がける。

2.胸の息を吐く(1秒)。ため息をつく感じ。ただし姿勢はあまり崩さない。安心したときのように、「ホーッ」と声を出してもいい。胸や背中の脱力を意識する。呼吸と同時に「大丈夫(D)」と心の中でつぶやく。

3.ため息に引き続いて、さらに呼吸を吐いていく(6秒)。下腹をへこませながら、胸はむしろ位置を上げていく感じ。ただし胸は脱力した状態で。息を吐きながら「何とかなる(N)」と連続でつぶやく。

4.吐ききったところで、「明らかにしよう、よく見よう(A)」とつぶやきながら、お尻の穴を締める。このときも再度、胸と背中の脱力を意識。

5.反動で吸う。軽く息継ぎを1回から2回した後、軽く吸って2に戻る。

以上のセットを5回行います。

「DNA呼吸法」とは、「大丈夫(D)」「何とかなる(N)」「明らかにしよう、よく見よう(A)」という言葉の頭文字をとったもの。学術的な深い意味はないので、あまり言葉の意味を意識しないで、呪文のように唱えてください。

 しかし、これがなぜ感情に“効く”のでしょうか。

 実は、この呼吸法は、わざと難しくしてあります。手順が多いので、呼吸や体に意識を向けなければならない。つまり、「感情」から気持ちがそれる。また、胸、背中の脱力も図るので、腹式呼吸をしているうちにある程度、全体的なリラックスもできるようになります。

 呼吸の時間はあくまでも目安です。自分のやりたいようにやって構いません。要は、自分に合う呼吸を見つければいいのです。結構疲れるので、連続してやらずに、1日3回ぐらいまでがちょうどいいでしょう。

 この呼吸法は、不安や怒りを、たちどころに解消するものではありません。けれども、少し、感情を下げることができる。感情では“少しだけ下げる”というのが、実はとても重要なポイント。

 例えば、水が、コップのふちまでいっぱいに満たされていたら、そのコップは動かせません。でも、ほんの少し水が減れば、ゆっくりでも持ち運ぶことはできます。少しの余裕さえあれば、人は、次の行動に向かうことができるんです。

 カチン!と来たら、ほんの少しだけ、感情を下げる。そのイメージで「DNA呼吸法」を試してみてください。

(構成・文:向山奈央子/写真:Gettyimages/図版:本書より)