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#ビジネス書

今こそスタンフォードに学ぶべき多様な思考フレームと「できるよ感」世界との人材循環が日本の次世代を創る

※「前編」よりつづく  日本のスタートアップエコシステムは、ゆっくりとしか変われない大企業中心の日本経済に必要なダイナミズムやフレキシビリティーを注入するポテンシャルがあり、大企業を置き換えなくても大企業の方向性を変えるという重要な役割も担う。  ここ10年で、日本におけるスタートアップエコシステムのパーツは著しく発展し、それぞれのコンポーネントで好循環スパイラルができあがりつつある。VC業界の発展が進み、日本におけるVCの投資額は、2011年の824億円から2021年に

シリコンバレーのエコシステムが生み出す新しい「技術」と「経済」 今後の日本のスタートアップに期待大?

■カーネギー国際平和財団で日本の新しいストーリーを作る  スタンフォードのアジア太平洋研究所(APARC)にリサーチ・アソシエイト、リサーチ・スカラーという研究職の立場で10年ほど在職した後、2022年にアメリカ最古のシンクタンクで、政治的には完全に独立しているカーネギー国際平和財団(Carnegie Endowment for International Peace)にシニアフェローとして移籍した。  同財団はスタンフォードとのつながりが強いスタンフォードの元理事長で、

スタンフォード留学で知る「日本」 10年先を行っていた携帯事業で世界に負けた要因と未来に向けた取り組みとは

※「前篇」よりつづく  本書の大きなテーマである、「多様なバックグラウンドの人たちのなかに身を置くことで得られる刺激と思考の広がり」ということに触れたい。多様性というのは、「意図して含めないと阻害される人たち」を組織や社会のいろいろな場所で活躍できるようにする側面と同時に、「多様な人生経験をしてきた人々を集めて、さまざまな異なる思考フレームに触れることで新しいイノベーティブなことができる」という側面がある。  経営の場合、多様性が高いほうが既存の思考フレームの枠にとらわれ

パンデミックで一時鎖国状態となった日本に、今もっとも必要なのは「外の刺激を得る機会」だ 今こそスタンフォードに学ぶべき多様な思考フレームとは

■今の日本に必要な外の刺激を得る機会  著者が伝えたい一番のメッセージは、パンデミックでしばらく鎖国状態となってしまった日本に対して、「外の刺激を得る機会」を求めることの大切さである。これから日本が抱える数多くの課題に向き合い、新しい価値を作り出すには、「アウェー環境」で猛烈に刺激を受け、新しいことや、今とはまるで異なる世界観や人脈を作って次につなげていくことが必要だと考えている。  スタンフォードはトップ大学としての世界の人材の良いところ取りの好循環と、シリコンバレーの

「日本の遅れ」と「同調圧力」をスタンフォード現役教授が分析!日本の未来を切り拓くキーワード「バナキュラーライゼイション」とは

■バナキュラーライゼイションという発想 筒井:前回の記事で人材の循環性や流動性の話をしましたが、日本は敷かれたレールの上を歩いていくのがベストだと多くの人が考えている社会、アメリカは自分で新しいレールを敷いていくことに価値を見出す社会という違いがあります。その違いがスタートアップに人材が集まるかどうかに顕著に表れていると思います。  本書『未来を創造するスタンフォードのマインドセット イノベーション&社会変革の新実装』に登場するスタンフォード大学出身の日本人には、いくつか

日本とアメリカ「教育・研究・起業・リーダー育成」分野での驚くべき格差をスタンフォード現役教授が徹底分析

■日本の平等主義がイノベーションの足かせになっている 筒井:大学発のイノベーションという点で、中内先生の分野において、現在の日本の大学の研究レベルはどんな感じでしょうか。 中内:アメリカのVC(ベンチャーキャピタリスト)のなかには、少数ですが常に日本の大学に目を向けている人がいます。彼らは「日本は、シーズ(種)の数は少ないけれども、クオリティーは高い」といっています。つまり、日本の大学にいる研究者は、非常によくデータを蓄積していて、信頼性の高いデータに基づく特許やアイデア

欧米の名門大学の中でも異質 スタンフォードの凄さは「人材」と「資金」のエコシステムにあり

■欧米の名門大学のなかでも異質なスタンフォード大学 筒井:私は日本の学部・大学院で修士号を取ってから、スタンフォード大学で博士号を取りました。それで2002年からニューヨーク州立大学に勤め、2005年に客員助教授としてスタンフォードに戻ったのですが、1年後にミシガン大学に移って、2020年にスタンフォードに教授として戻ってきました。なので、まずアメリカの東海岸や中西部の大学との比較を中心にスタンフォードの特徴を話したいと思います。  一番の特徴はスタンフォード大学がシリコ

スタンフォードで学んだ新たな「トラブル解決方法」 オンライン紛争解決(ODR)をデジタル社会のインフラに

 ODRは紛争解決のイノベーションになる――スタンフォードロースクールで在外研究をしていた筆者は、デジタル化によって司法制度が大きく変わるであろうこと、そして、パソコンやスマートフォンといった端末でトラブル解決ができる未来が訪れることを強く感じていた。2014年のことである。  ODRとはOnline Dispute Resolution(オンライン紛争解決)のこと。紛争解決手続といえば、裁判に代表されるように、対面で行うのが基本である。それを文字通り、ICT・AI技術を使

スタンフォードで学んだ東京電力社員が、保守的な大企業で社内ベンチャーを成功させるまで

※第3回よりつづく ■社内ベンチャーへの挑戦:MW2MHプロジェクトとアジャイルエナジーX  福島第一原子力発電所(1F=イチエフ)事故に関する事実関係と教訓について英語で発信するため、2011年9月から4年間務めた米国駐在を終え2015年に日本に帰国。本社で1Fの廃炉を安全に進めるためのフレームワークを構築する責任者となった。世界でもっとも過酷な現場ともいわれる1Fで、安全性や環境への影響等を考慮しながら、速やかに、かつ低コストで廃炉を進めるという、きわめて難解な多元方

スタンフォードで学んだ東電社員が3.11の緊急事態で発揮した「グローバル・リーダーシップ」とは

※第2回よりつづく ■東日本大震災:緊急事態でのグローバル・リーダーシップ  2011年3月11日は、STPプロジェクトに関する法律事務所との会議が15時から予定されていた。地下鉄銀座線の赤坂見附駅で降り、地下道を同僚と歩いていたところ、14時46分、激しい揺れに襲われた。会議はキャンセルとなり、電車は不通となっていたため歩いて内幸町の東京電力本社まで戻った。  福島第一原子力発電所(1F=イチエフ)では、運転中の原子炉は地震により、設計通りに自動停止した。外部電源は喪

スタンフォードで学んだ東電社員が、「夢物語」といわれたプロジェクトを成功に導いた交渉術

※第1回よりつづく ■社内ベンチャーへの挑戦その1:セグウェイ・シェアリング  社費留学でMBAを取得させてもらったので、卒業後は会社が自分に投資してくれた額の10倍以上のリターンを生み出すつもりだ、と人事部門との面談で伝えたところ、「そんな意気込みを語る社員ははじめて」と驚かれた。MBAの経験を最大限発揮できる新規事業を希望したものの、留学前と同じ原子力部門に戻ることとなった。  そこで、本業と並行してGSB2年目に考案したビジネスプランを、社内ベンチャーとして提案す

スタンフォード留学で自信を失った東電エリート社員が“絶対的自信”と“処世術”を手に入れるまで

■東京電力保守本流の原子力部門でMBAに目覚める  2000年、筆者は東京電力本社原子力技術部で、米国GE、東芝、日立と共同で次世代原子炉の開発に取り組んでいた。柏崎刈羽原子力発電所6/7号機(1996年/1997年運転開始)で採用された、最新の改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)をさらに進化させた、ABWR-2と称する、世界最高水準の安全性と経済性を誇る原子炉の開発計画である。  当時、東京電力は17基の原子炉を保有・運転する、世界第2位の原子力事業者であった(第1位は、フ

日本をダメにした楽で無自覚な「思考停止状態」。そこから脱するために、今、日本企業が最も必要としている力とは

■予定調和や前例踏襲が生む「枠内思考」  多くの日本の会社が安定優先の経営姿勢を長年続けてきたことが、安定重視の社会規範を私たちの意識の中に蔓延させています。その結果、「予定調和」であるとか「前例踏襲」といった思考姿勢が多くの伝統ある会社では当たり前の規範となっているのが現状です。  では具体的に、「予定調和」や「前例踏襲」で組織が運営されると、どういう状況で思考停止は生まれてしまうのでしょうか。 「予定調和」というのは、そもそも最初から確定している結論に向かって、そこ

柴田昌治さんが分析する「日本がダメになった理由」と「低迷脱出に必要なこと」

■個別の努力が全体の成果につながっていない  約30年前のバブル崩壊以降、日本の給料はまったく上がらず、世界の水準から取り残されてきている、という事実があります。今、そのことがようやく問題だと認識され始めています。  努力は必死に続けているにもかかわらず、給料の水準は伸びていない。この厳しい現実は、努力の方向性が間違っていることを示しています。  その前提にあるのは、高度経済成長期以来、日本の得意だった経済モデルが通用しなくなってしまったことです。すなわち、日本の代わり