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6月は愛のシャワー

6月は愛のシャワー

明け方、暗闇で火花が散るのを見た。
あれは君がカーブを曲がるところ。
目を閉じて耳をすます。
双眼鏡では届かないけど、見届けたいと思っている。

ベランダに光の音。
君が手放したものたちが水滴になって何か言っている。
たぶん祝福を
君が回している車輪に。
一つは過去のこと、もう一つは未来のこと。
君は今のこと。

君は切実に、たまにふざけながら
君はスマートに、だけどもつれながら
美しい涙を浴びて

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窓辺飛行

丘の上の産毛がさやさやと泳いでいるのを見て風が吹いていることを知った
私は小さな虫で
紙飛行機に乗って旅をする

簡単な紙飛行機は
スイスイと空気を割って進み
何を見ようかと手帳から顔を上げる

彼女の掌の中
瞬く火花の言葉や
朝露の中で
丸まって回る虹の目つき
蝶の舌に残る
淡い紫陽花色したジュース
ヤカンから出る湯気を
優しく形取る光

まばたきをしたすきに
消えてしまう美しさは
小さく
儚く

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インソムニアのともだち

身体が火照って眠れない夜
両側から顔の下へ手を入れて
一つ、二つ、三つ、四つ、冷たいつるりとした感触を弄ぶ

愛を知らない私の枕は
綿ではなく
羽でもなく
白い碁石がつめられている

碁石は清潔な硬さで
私の理想の死の姿

自分の歯の滑らかさを舌で確認しながら
碁石と碁石を噛み合わせ
朝になったら
私の身体は蒸発して
丸く研磨されていた歯は碁石と混ざり合い
明後日には質屋に売られて
いつか運が良け

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星の放流

こんばんは(こんばんは)
静かな夜ですね(月がいないんでね)
波も全然たっていないですしね(灯台守も今夜は熟睡しているでしょうね)
それはなんですか(これは星の子です)
獲りにきたの?(いえいえ、放しにきたのです)
お仕事ですか?(いえほんの道楽です)
ずいぶん数が減ってるみたいですものね(自然に消えたものも多いし、いまでは死ぬ人がほぼいないのでね)
死んだ人が星になるのですか?(人魚は違うのです

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人魚と水心

あなたの瞳の中で泳ぐ魚はなんですか
小さな波をたてて臆病そうに泳ぐそれは

故郷の海にそれは返せるものなのでしょうか
邪魔だといっているのではありません
そんな我儘は言いません

どうか目を伏せないでください
あなたの美しい虹彩のゆらめき

名前をつけているのですかそれに
誰にも発音できない名前を

故郷の家にはまだ電話は通じるのでしょうか
いえ何も用はないのですが
あなたと過ごしたテトラポッドの

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余暇のさらに余った暇に

取りこぼしたものたちを
ひとつ、ひとつ、拾って
あちらのはカラスに、
こちらのは野良猫に
突かれて、転がされて
欠けてしまって

無視しろよって言われて
それが大人なんだと思ってたから
ずいぶんと
待たせてしまった
こんなに黄色くなってしまって
部分的には茶色くなってしまって

それでも君たちは
僕だけのもの

あちらのはあの子に
こちらのは彼らに
あげてしまったと思っていた
あげることなど出来な

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朝飯は簡単

和尚さん
やさしく晴れた春の日に
お鈴にご飯をてんこ盛りにして
ひとりぼっちで食べてたわ

昨日な、ごっつぅごつい空飛ぶ円盤が
町中の皿ぎょうさん吸い込んで飛んでかはった

そんな話を花にして
ぽりりと素直に咀嚼された浅漬けに
野菊は白くて可愛い顔を
素知らぬ顔してむけていた

オフィスの窓

今日は、トーストを焦がしてしまった
コーヒーもあまり美味しくなくて

8回もエクセルがかたまり

10時にストッキングが伝線したけど
ロッカーに予備は入ってなかった

補充している最中に
コピー用紙で手を切り

ふと目を離したすきに
上司が部下と駆け落ちをして
3時のケーキには犬歯が入っていた

窓の外は夕陽で燃えていた
遠くで鐘が鳴っている
気がする

ホワイトボードが大きな音をたてて落ちる

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夢の話

夢の中でずっと、私は起きていました。
街灯の下でずっと、あなたが眠るのを待っていました。

白いものがちらちらと、光の輪郭を見せるので、
雪かな、と思ったのですが、
それは、まるく膨らんだ花がはらはらと、
散っていく姿でした。

細い枝は三羽のカナリアにゆらされ、
まるで手を伸ばせばあなたの髪に触れそうな香り。

カナリアたちは、
ほうしゃれいきゃく。
と、鳴いて、黄色い体を闇の中へ溶かしました。

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指の煙

指の煙

橋の上から眺めていた
弦を押さえている静かな力
タバコのような指
火をつけたら どんな香りで煙るだろうか

あおいあまい にがい

鴨川には誰もいない

橋の下は風が吹いていた
弦を滑る静かな力
かじかんでくる指
火がつくまで 歌い続けられれば

空が白んで来て あかあおきいろい

鴨川には誰もいないけど

このまま明日も