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偏食外来を受診して

「あの人せっかく偏食外来を受診したなら言われたことやればいいのに。」

SNSで何度も言われた言葉。

耳が痛かった。
全くその通りだと思った。
私は先日、ご飯を食べない我が子と一緒に、偏食外来を受診した。
しかし受診したのにもかかわらず、アドバイスでもらったことは1つもできていなかった。

私は3歳と1歳の子どもがいる。
2人とも少食・偏食だ。
上の子は食べムラはあるものの、成長するにつれてかなり食べられるものも増えた。
問題は下の子。
食べることに全く興味がない。
食事の時は、毎回動画を見せながら少し口が空いたらその隙に私が食べ物を放り込む。
食べられるものはヨーグルト、特定のベビーフード、白米のみ。
調子がよかった時はうどんとハッシュドポテトは食べていたのにだんだん食べなくなった。
そしてせっかくたくさん食べさせられたという日でもその直後大量に吐く。
3日に1回は吐いていた。
吐く度に苦労が無駄にされた気分になって発狂して泣いた。
あまりにも食べない、顔を背ける、食事の時間になればぐずる、という様子で私は毎回イライラしていた。
食べない日は我慢できずに怒鳴りつけながらご飯をあげる日もあった。
子どもは大泣き、私も泣きながら食べさせるという日も少なくなかった。
そんな地獄のような時間が毎日3回も訪れる。
やがて子は食事の時間になると、顔をこわばらせて怯えるようになった。
だけどどんなに嫌がっても泣いても吐いても、

「栄養を取らせなきゃ」
「体重を増やさなきゃ」

それが親としての役目だと思っていた。

私も子も食事の時間になると辛い。
だけどどんなに辛くてもやらなきゃ。
3食のうち1食も抜いてはいけない。
ちゃんと決められた量をあげなきゃ。
そう信じて毎日ご飯をあげてはイライラし、泣き、発狂し、過ごしていた。

ある日突然1口も食べなくなった。
スプーンを見ただけで顔を背ける。
昨日まで食べていたヨーグルトもだめ、動画を見せてもだめ。
絶対に口を開けてくれない。
私は発狂した。
「ふざけんなよ!!!!!!!」
喉が枯れるくらい怒鳴って泣いた。

このままでは子どもに手が出てしまう。
最悪殺してしまうかもしれない。
普段は穏やかでいられるのに食事の時だけ人格が変わったようになってしまう。
自分が恐ろしくなった。

スマホで「偏食 病院」と調べた。
たまたま神奈川県立子ども医療センターの偏食外来が一番最初にヒットした。
遠方だったがオンライン診察もしている。
予約はかなり埋まっていて少し先にはなるが、すぐに受診を決めた。

受診当日。
事前にスマホで撮影して送った食事の様子をもとに診察が進められた。
まず床に座らせて食べさせていることを指摘された。
椅子に座らせると抜け出すので、いつも床に座らせて食べさせていたのだ。
ハイチェアに座らせるように言われ、椅子の高さを細かく調整された。
少しでも足が浮いていたらだめ。
調整してもどうしても数センチ足が浮くので、分厚い本を足場に差し込んで絶対に足が浮かないようにと言われた。
今後動画を見せるのをやめる、スプーンもやめる、完全手づかみ食べを推奨された。
スプーンで無理やりあげていた時に比べて、食べる量も体重も減るだろうけど信じてやってみてくださいと言われた。
必ず変わるから、と。

診察が終わった後、しばらく放心状態だった。
色々アドバイスをもらって情報が多かったのもあるが、どうしても1つ引っ掛かった。
手づかみ食べにしたら「体重が減る」ということ。
今まで一番大切にしてきたのは体重。
辛くても、どんなに泣いても、体重を増やすためだけに頑張ってきた。
それが減るなんて許せない。
受け入れられない。
そんな思いが残ってモヤモヤした。
結局その後のご飯も今日は別にいいか、なんて思いながらまたスプーンであげた。
口を無理やりこじ開けてその隙間にねじ込む。
吐くなよと祈り、冷や汗をかきながら過ごす食事の時間。
スプーンで少し食べたことに安堵し、もう床に座らせて動画見せながらスプーンでいいやと投げやりになる。
次の日も、その次の日も。
偏食外来で言われたことは頭にはチラつくけど、やっぱり怖くて踏み出せない。
しかし日が経つにつれてどんどん状況は悪くなった。

ある日気持ちがプツンと切れた。
朝から一口も食べてくれない。
ミルクも一滴も飲まなくなった。
スプーンや哺乳瓶を見ただけで泣く。
こんなふうに食べた、食べないで一喜一憂する毎日。
なんかもう疲れたな、出口が見えない、いつまでこんなことをするんだろう。

SNSでつぶやいた。
みんな

「少々食べなくても大丈夫!」
「少食でも大きくなるから!」

と言ってくれるけど何一つ信じられない。
一方で、

「怒鳴るなんて子どもが可哀想。」
「あの人は子ども生むべきじゃなかった。」
「偏食外来に行ったのになぜ言われたことやらないんだ。」
「なんで自己流でやってるんだ。」

そんな意見もたくさんあり、耳が痛かった。

私は賭けてみることにした。
あれだけ固執していたけど、もういい。
体重計は捨てた。
きっと今がドン底。これ以上悪くなることはない。
そう信じることにした。

次の日から椅子に座らせて手づかみ食べをさせた。
初日は食べなかった。
作ったものをポイポイ投げられる。
次の日も。
まず椅子に座ってくれない。
あぁスプーンで食べさせていた時の方が量食べてたな、なんて思って落ち込む。

何日か続けてみたある日。
むさぼるように手づかみ食べでポテトを食べた。
くれくれとどんどん手を伸ばして次々と口に入れる。
口に詰め込みすぎて心配になるほどの食欲だった。
こんなこと初めてで驚いた。
初めて子の「好きな食べ物」が見つかって嬉しかった。

さらに次の日。
嫌いだと思っていた米を食べた。
米はドロドロの状態じゃないと食べないと思っていたのに。
小さな小さなおにぎりにしたら自ら口に運んで食べた。
食べないと思っていたものも意外と口に入れる。
もしかして「食べない」というのは私の思い込みの部分もあるのでは?
そんなことに気付いた。

手づかみ食べを続けていたある日。
保育園の給食を完食したという知らせが入った。
嬉しくて泣いた。
今までは多く食べても3口だった。
肉や野菜は絶対食べないと思っていたが、自らパクパク食べたらしい。
保育士さんも驚いていた。
着実に進歩している。

しかし手づかみ食べを始めて、1口も食べないことはザラにある。
せっかく作ったのに投げただけで終わったねという日。
だけどそんな時も、私が落ち込むことが少なくなっていることに気付いた。

食事への恐怖感、抵抗が親子共々少なくなってきている。
これが一番の進歩だ。
さらに子どもは手づかみ食べを始めて吐くことが全く無くなった。
偏食外来の先生に言われた、「食事を楽しく」の意味が少しずつ分かってきた。

そして子どもには本当に悪いことをしたなと反省した。
体重に固執して、スプーンで必死になってあげている母親はかなり怖かっただろうし、間違いなく食事の時間は苦痛だったと思う。

体重へのこだわりは完全に無くなったかと言われたらそうではなく、たまにやっぱり気にしてしまう時もある。
1口も食べずミルクも飲まなかった時は「あぁ体重減ってしまうな」と正直思う部分もある。
だけど総合的に見てかなり気が楽になった。
今までは食事前になるとイライラしたり、恐怖で動悸がしたりしていた。
それが完全に無くなり、食事時間を穏やかに過ごせるようになった。

今まで食べないと思っていたものも食卓に出せば意外と口に入れる。
決めつけずに「子どもを信じる」ということを学んだ。
そして今までは子どもをなんとか変えようと頑張っていたけど、一番変わらなきゃいけないのは私自身だと気付いた。

手づかみ食べに踏み出す前は本当に怖かった。
だけど踏み出せなかった自分の気持ちも今ではよく分かる。
今まで一番大事にしていた「体重」を手放せたことが大きな分岐点だったと思う。
一番大事にすべきものは子の体重じゃなかった。
大切なのは子どもの「食べたい」という気持ち。
このことを忘れずに、これからも子どものことを信じてやっていきたい。





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