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ちょっと性別不明の友人がいます -4-

序章はこちら

前回のお話はこちら

4. 救世主サワ

サワと私は似ているところがあって
・考えすぎるところ
・落ち込みやすいところ
・そうなると塞ぎ込みがちなところ
などなど・・・
主に思考がよく似ている。

似ているからこそ一緒にいて居心地がいいが
似ているからこそ
共にどんどん闇へ転がり落ちる
というようなこともあった。

落ち込んでいる時
サワのようによく話がわかる人に聞いてほしい!
と思う時でも
落ち込んでいるから会うのはやめておこう
と思いとどまる時もあった。

実際には1、2回だけど。
思いとどまることはあった。

そんな私もサワも
まだ大学生で、10代で、
精神的に未熟だった頃。

私は大学に行けなくなった。

行けなくなったというよりは
朝、起きられず遅刻。
それなら次の時間に間に合えばいいや。
で、次の授業にも間に合わず。
まぁ今日はいいや。
なんてことを繰り返しつつ、も
夕方からのサークルや
夜のバイトは休まず行き
また起きられない朝へ・・・。
そんな風に怠惰を重ねた結果
大学2年生の間
ほとんど授業に出れなくなっていた。

今思えばなんと贅沢で
身の程知らずだったか。

実家から離れた私立大学に通い、
1人暮らしをさせてもらっている身でありながら、
大学に通うことができなくなっていた私。

だが、それを咎める者はいない。
朝、起きなさいと言う人もいない。
授業に来なさいと呼ぶ声もしない。

自立も自律もできておらず未熟な私。
あまり誰にも言いたくない虚無の1年間。

それなのに変な責任感で
バイトはやめることも休むこともしなかった。

でもある時、異変があらわれた。

ある日、バイト先の更衣室で
身支度をしようとロッカーを開けたが
そのまま何もできず固まってしまった。
気付けば涙が止まらなくなり
そっとロッカーを閉めた。
さすがにこの状態でバイトは無理だと思い
その日の責任者に頭を下げ
バイト先を後にした。

なんとなくそのまま家には帰れず
だだっ広い公園でブランコに乗ったのを覚えている。

どこまでも青い空を眺めながら
大きく深呼吸をした。
そして
心が少し軽くなった気がした。
たった一度バイトを休んだだけで。

授業は何回も休んでいるのに
バイトは休むこともサボることもできなかった。
その歪みから何かがおかしくなっていたのか。
でもおかしくなっていることにも気付かず
涙が流れて
そうしてやっと
自分がおかしいことに気が付いた。

どうにかしなきゃな、と思った。

まずは自分のやりたいことを探そうと思った。
自分と向き合い自問自答を繰り返した。
よくある自分探し的なやつだ。

けれど探しても探してもやりたいことがない。
それでもきっと自分の中に答えはあって
今はただそれを見つけられないだけだと
漠然と信じていた。

ある意味、心の底から
自分を信じていた。

その結果、ふとしたきっかけから
「看護師」になりたかったということを思い出した。
自分でも不思議な感覚だったが
その後はやりたいことがどんどん明確になった。

大学のサークルでボランティアをしていても
やりがいを感じることはすべて
「看護師」に繋がっている
という気すらした。

それと同時にもうひとつ
やりたいけど諦めていたことを思い出した。
英語圏への留学だ。


この頃の思い出で
忘れられない母とのエピソードがある。

「看護師になる」と
自分で自分を見つけるまで
実家に帰っても
親の顔を見ても
「やりたいことがない」と
ただひたすらに言っていた。
親不孝極まりない。

やりたいことがあって
大学に行かせてもらっているのに
「やりたいことがない」とは
一体何を大学で勉強しているのか。
親もさぞかし不審に思っただろう。
でもそれについは何も言わなかった。

それからしばらくして
私は「看護師」という夢を見つける。
実は幼い時から密かに抱いていた夢だ。
そっと大事にしまいすぎて
自分でも忘れていたし
親にもまわりの人にもほとんど知られていなかった。

だから大学も全く関係ない文系の大学で
「看護師」になるためには
また別の学校に入り直さなくてはいけない。

とんだ遠回りをしていた。
それでも決めたからには
何事も一直線な私。
帰省を待てず親に電話し
「看護師になりたい。なることにした。」
ほぼ事後報告だった。

大学を中退したいと父に言ったが
「どれだけ高い入学金を払ったと思っているんだ!」
「何か見つかるかもしれないから卒業しなさい!」
と真っ当なことを言われた。

母も同意見で
「ちゃんと卒業しなさい」
と言った。

中退した方が金銭的ダメージは少なかったと思うが
それでも卒業まで学費を援助し続けてくれた両親には
頭が上がらない。

ただ母には続きがあって
あれはたしか
看護学校を受験するために
実家に戻っていた時のことだったと思う。

独り言のようにボソっと
「やりたいことが見つかってよかった」
と言った。
少し安堵しているような表情に見えた。

そして
「やりたいことがないと言っていた時が
聞いていても1番辛かった」
とも続けた。

今でも思い出すと目頭が熱くなる。
そして
やりたいことをやっている姿を見せるのも
親孝行の1つなのかと学び、深く心に刻んだ。
「やりたいことをやろう」


「看護師」という大きな夢と
「英語圏への留学」という
大学在学中にやり残したことを
思い出した私。

しかし留学するには
あまりにお金がなかった。

それもそのはず
バイト代はほぼすべて
年に2回タイでのボランティアに
行くために使っていたし、
実は高校時代に
1年間フランスに留学経験があり
もうこれ以上親には頼れなかった。

どうしよう。
せっかくやりたいことが見つかったけどお金がない。
もう留学は諦めるか、、、
そんなことを思いながら私は大学の空きスペース(サークルのみんながいつも溜まり場にしていたテーブル)でぼーっとしていた。

そんな時、何気なくやってきたように見えたサワが手に持っていたのは、聞いたこともない留学プログラムのパンフレットだった。

話を聞くと大学が政府の支援を受け
特別にできた留学プログラムで
なんと自己負担ほぼゼロの
まさに私のための留学情報だった!

パンフレットを持ってきたサワは
神かと思った。
話を聴きながら後光がさしているかのように
あたりが明るくなる感じすらした。
そのくらい私には希望の光そのものだった。

目を輝かせ話を聞いていた私だが
説明会に参加してきたサワは
就活と被ってしまうため参加できない
と言った。悔しがっていた。
対して私は看護師になることを決めていたため
就活は不要だった。
留学に行けるかもしれない!

留学することを決めてからの私は
別人のようだった。

体が生き生きと動き
毎日が輝いているようだった。
嫌なことも苦手なことも
留学のためならとぐっと堪え
なんでもがんばれた。

やりたいことがあり
それに向かって進んでいる時ほど
人生が楽しい時はないと思う。

そうして私は留学プログラムに選ばれ
2ヶ月間アメリカへ留学することができた。

大学3年生になってから行ったこの留学は
人生でも忘れられない日々の連続であり
かけがえのないものとなった。

それだけではない。

私はこの留学で
今の夫に出会った。

サワが教えてくれた留学プログラムで
私はやりたかったことをやれただけではなく
人生を決める出会いまで手にした。

この留学がなければ
夫に出会えなかったどころか
子どもたちにも出会えなかった。

この留学を教えてくれたサワがいなければ・・・
サワがあの時私に教えてくれなければ・・・
私は今ここにいなかったと思う。
本当にそう思う。


大学に行けなかったあの暗黒の日々。
私は1人でじっと暗い部屋にいたと
思い込んでいたが
少し離れたところから
心配してくれていた人はたくさんいた。

サワもその1人だった。

だがそんなサワも大学時代
「暗黒の日々」があったように思う。

サワはサワで悩むことがあったのだろう。
当時は少し離れて見守っていたので
サワの悩みは詳しくは知らない。

詳しくは知らないが
何か私が役に立つことがあっただろうか。
少しでもサワの救いになることが
あっただろうか。

今度またサワに聞いてみることにする。

当時はあまり悩みを聞かなかったが、
今はそんなことはない。
話したいことは話すし
聞いてほしいことはとことん聞いてもらう。
不安定な10代をもがき苦しみ
社会に出て、精神が鍛えられるうちに
お互いそれなりに安定した。

今では気持ちをさらけ出すように相談しても
引っ張られて落ち込むことはない。
むしろどちらかが冷静に分析したり
悩みの根元がなんなのか追求したり
私たちでしかできない対話で
苦悩の海を自由に泳ぐ。

そうやって私たちは
絶妙な心の距離感で
お互いの心地よさを見つけることができた。

それがサワと私の関係。

私はサワに助けられ
今ここに立っている。
サワのことを心から信頼している。

サワわたを書きたくなったのは
こういうことを書きたかったからかもしれない。

なんだかおわりの雰囲気を見せつつ
もう少し書き続けます。
次回は
サワと子どもたち。


「サワと私の13年間」
愛を込めて「サワわた」!!!
ここまで読んでいただきありがとうございました。

今回は書き進めながら
なんだかうるうるする場面が
何回かありました。
読んでいるみなさんにも
何か伝わるものがあれば嬉しいです。
ぜひ次回もお楽しみに。

★☆★
創作大賞2023狙って全力を尽くします。
応援よろしくお願いします!
★☆★

たまにサイドストーリーも書けたらいいなと思っています。

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(サワへの直接の質問、コメントは嬉しいですが
サワからのお返事は難しいです。ごめんなさい。)

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