【映画】「陪審員2番」 イーストウッドの引退作?余韻が続く良質法廷ドラマ
御年94歳のクリント・イーストウッド監督の引退作と言われている「陪審員2番」をU-NEXTで観たので感想を綴ります。
映画について(ネタバレなし)
この映画は10月下旬のアメリカのAFI映画祭でのプレミア上映後、11月にアメリカやヨーロッパで劇場公開されたのが一部の地域のみという限られた中で6か国の公開初週で興行収入500万ドルを記録しました。またナショナル・ボード・オブ・レビュー(米国映画批評会議)が毎年発表する「今年の映画TOP10」にも選ばれており、非常に評価の高い映画です。
しかし、日本では劇場公開なしで早くもU-NEXTで配信が12月20日より始まりました。U-NEXTは10月からHBOやMax作品を独占配信しています。HBO、Maxはワーナー傘下です。
私はHBOのドラマが大好きなので、U-NEXTも普段からよく見ています。
「陪審員2番」も新着で発見していち早く観ることができました。
それにしても・・・
日本で劇場公開しても良かったような良質な映画!
出演俳優さん達が非常に豪華だし、あのイーストウッド監督の引退作と言われているのに何故劇場なしになっちゃったのかな??
色々なオトナの都合があるのか分かりませんがちょっともったいないような気がしました。
最近は邦画に比べて洋画の劇場上映が昔と比べると少なくなったような気がします。ましてこうした法廷サスペンスものは地味な印象なのかなあ。
まず主演のニコラス・ホルト。
「シングルマン」の美しい少年がこんなに大人になっちゃって。彼の作品はスーパーヒーローものを除いて結構見てます。相変わらず童顔できれいなお顔ですが演技も上手ですよね。今回の繊細な主人公の心情をとても丁寧に演じていました。
それから脇を固める役者さんたちがすごかった。J・K・シモンズ、トニ・コレット、そしてキーファ・サザーランド!みんな存在感があってどのキャラクターも魅力的でした。
イーストウッド監督はこれで本当に引退されるのかしら?
早撮りで有名なベテラン監督さんなので、まだ映画を撮れるんじゃないかなと思ったりもします。
さて次はネタバレありで映画の感想を書きます。
あらすじと感想(ネタバレあり)
主人公のジャスティンはあるとき陪審員として選ばれた裁判の評議の際、大多数の「有罪」意見に反論し始めます。
それは、事件当日ジャスティンは車で事故を起こしていましたが、自分が亡くなった被害者をひき逃げしたのではないか?と思い始めるのです。ジャスティンは鹿を当ててしまったと思い込んでいたのですが確証はありませんでした。でも、居合わせた時間や場所、状況を考えても今回の事件とすべて合致するのです。
被告の男性は元ギャングで悪党であり事件の前に被害者と喧嘩しているのを多くの人に目撃されていることから、陪審員の大半は犯人だと決めつけています。
ジャスティンが「有罪ではないのかも?」という意見を出してから一人の老人が賛同するんですが、この老人が元刑事だったため自分の経験上今回の捜査では「確証バイアス」が働いたのではないか、と言います。
事件を担当した誰もがあの男がやったに違いないと思い込み、他の可能性を考える事や他の容疑者を探すことなく被告の男性を逮捕してしまったのです。
でも、もし容疑者が無実となれば真犯人探しが始まりジャスティンは自分が逮捕されることになるかもしれません。妻との間に待望の赤ちゃんが生まれることになり、アルコール依存症からやっと脱却し始めているジャスティンにとって今家族を失うことは絶対あり得ないことなのでした。
被告を無実とし正義を貫くべきか、自分の家族を守るべきか
ジャスティンの葛藤と苦悩が映画の中で手に取るように分かりました。
この辺りのストーリーの運びはイーストウッド監督本当に素晴らしかったです!
自分がジャスティンの立場だったらどうするだろう。あまりに苦しすぎてすべてを投げ出したくなりそう。
結局ジャスティンは家族を守ることを選択し、容疑者を「有罪」にしてしまいます。
裁判を担当した検察官は、元刑事が調べた事件日以降に修理した車の特定リストからジャスティンが浮かび上がり真実を知ることとなりますが、彼女もまた昇進の為にこの裁判で勝たねばならなかったのです。
判決後、検察官とジャスティンは裁判所の外のベンチで会話をします。そこでお互い本当のことを知っていることがわかるのです。
もしこの事件を正そうとするならお互いの将来が破滅することが分かっています。
ジャスティンは「真実が正義とは限らない」といいます。
あれは偶然起きてしまった事故だったと自分で納得させたい彼ですが、心の奥では罪の意識にさいなまれていることが分かります。
全てが終わりましたが、検察官はやはり自分が下した判断に納得ができなかったのでしょうか。
しばらくして彼女はジャスティンの家を訪れます。
ジャスティンと検察官が玄関で対面した所で映画は終わります。
この終わり方。
イーストウッド監督が「あなたならどうしますか?」と観客に問いかけているような気がしました。
家族を守る為、罪の意識にさいまれながら生きていくのか。
告白して全てを受け入れるのか。
ジャスティンの「真実が正義とは限らない」という言葉が心に残ります。
私はなんとなく、
ジャスティンはやっぱり繊細な人間なので罪を背負って生きていけるとは思いません。奥さんと赤ちゃんにはかわいそうな結果になってしまいますが。。。。。でもやっぱり最後は正義を貫くような気がしました。
人間関係や社会生活の中で起こりうることはシンプルじゃないからこそ「善」と「悪」は表裏一体でできています。
正義の反対はまた別の正義であるってクレしんちゃんのコトバでしたっけ?
最近
自分の人生を一番大切にしたいけれど、気づかないうちに誰かを傷つけていることもあるかもしれない、と思うと本当に辛い時があります。
ああ、難しい。
西部劇を撮っているようなイーストウッド監督の引退作としては結構地味目な映画なのですが、優秀な俳優陣と主人公の心情を表現するストーリー展開が素晴らしくて、非常に見応えのある作品でした。
U-NEXT独占配信で終わってしまうのはもったいないので、日本でも期間限定で劇場上映したらよいのにな。
「陪審員2番」私的にこの映画の評価は★★★★☆でした!