
【映画】「オークション~盗まれたエゴン・シーレ」登場人物の人間性が良く描かれた作品!
フランス映画「オークション~盗まれたエゴン・シーレ」を観たので感想を綴ります。
映画について(ネタバレなし)
始まりは、競売人に届けられた一通の手紙
パリのオークション・ハウスで働く有能な競売人(オークショニア)、アンドレ・マッソンは、エゴン・シーレと思われる絵画の鑑定依頼を受ける。シーレほどの著名な作家の絵画はここ30年程、市場に出ていない。当初は贋作と疑ったアンドレだが、念のため、元妻で相棒のベルティナと共に、絵が見つかったフランス東部の工業都市ミュルーズを訪れる。絵があるのは化学工場で夜勤労働者として働く青年マルタンが父亡き後、母親とふたりで暮らす家だった。現物を見た2人は驚き、笑い出す。それは間違いなくシーレの傑作だったのだ。思いがけなく見つかったエゴン・シーレの絵画を巡って、さまざまな思惑を秘めたドラマが動き出す…
この映画は、2000年代初頭にナチスの略奪によって長年行方不明だったエゴン・シーレの名画がフランスの労働者階級の家で見つかった、という実際にあった事柄をベースに個性豊かな登場人物と軽快なテンポでストーリーを描いた作品です。
監督はフランス・ヌーヴェルヴァーグの巨匠ジャック・リヴェット作品の脚本を数多く手がけたパスカル・ボニゼールさん。
上映時間91分という現代の映画ではやや短く感じる尺の中で、ところどころにフランスらしい?厭味ったらしいセリフやら金持ちとそうでない者のキャラクターをしっかり表現していたところがさすが脚本家さんだなあと思いました。
一人一人の人物をもっと掘り下げては良かったのでは?と一旦は思ったのですが、でも観客に描かれなかった人物像を想像させる手法だからこそ中だるみがなくて最後まで飽きさせない作品になったのかなと思いなおしました。
さて、見つかった名作を描いた画家エゴン・シーレ。若くしてスペイン風邪で亡くなるまで生前非常に評価された方でありました。ウィーン分離派から表現主義まで時代を代表する画家です。表現主義という点でシーレの作品をみると非常に苦悩の末に生まれたようなイメージなんですが、山田五郎さんの下記の解説がとても面白かったので是非見てみて下さいw
次は映画の話に戻りまして観た感想を綴ります。
感想(ネタバレあり)
タイトルから想像するに、私はてっきり美術業界での騙し合いとオークションで起きるハプニング!みたいなストーリーをイメージしていたのですが良い意味で裏切られました。
上記の「映画について」で書きましたが、確かに美術業界での皮肉たっぷりなやりとりは「なんて嫌味な世界なんだろう」と思わせるんですが、メインの登場人物たちがけっこういいひとたちなんですよね。
主人公の競売人アンドレは、最初冷徹で嫌な上司に見えるんですが途中から詐欺話に引っ掛かりそうになってなんだか憎めない奴になり、最後には自分の昇進の話になったとき他人をリスペクトしない会社に嫌気がさして退職してしまいめっちゃいい奴になります。
競売会社の新人オロールは、父親との確執があってなかなか向き合うことができず嘘ばかりついています。でもアンドレに助言したことをきっかけに素直になり父親との関係も修復できました。最後アンドレのコーディネーター?(アシスタント?)的な存在になっているのが印象的です。
そしてなによりマルタンが最初から最後まで誠実な青年だったのがこのストーリーの中で一番美しい存在だったと思います。
たまたま住んでいる家に置かれていた名画から大金が手に入っても生活を変えず堅実に生きるだなんて、普通考えたら出来ませんよね?!
でも宝くじの高額当選をして不幸になった人の話を聞いたりすると、そういう事なのかなと思いますね。
お金って全然なかったら困るけど必要以上にはいらないかな。お金が沢山あることが幸福度を上げる事にはならないと思うんですよね。
美術やオークション業界は、巨額のお金が動くところでどうしたって欲深い人間が他人を蹴落とそうとする世界なんでしょうけれど、今回の映画はそういう世界よりも個人の人間性にフォーカスしたストーリーでした。そこがハリウッド映画とはまた違っていいんでしょうね。
それから実際にナチスがユダヤ人から略奪した美術品がきっと数多くあったと思うのですが、現存するそういった作品は今回の映画のような経緯で個人コレクターや美術館に渡ったのか、別の違ったストーリーがあるのか、そのあたりが非常に気になりました。
映画の中では、フランスの片田舎で元警察官の亡くなったフランス人がナチスから受け取った、というストーリーでした。それはナチスがフランス侵略の際にナチスに協力していた地元警察がいた(何かの便宜をナチスに図った報酬?)ということなんでしょうね。
映画の中ではそのいきさつを聞いたマルタンも「遺族に返してあげて。僕には貰う権利はない」と言います。
ナチスに略奪された現存する美術品は実際所有権っていったいどうなっているんでしょうね。
戦争をする国と人間は、生命も土地もモノもすべて奪うだけ奪って後先の事なんてなにも考えてないんですね。本当に戦争はいいことなんてないです。今回の映画を観て、思いがけずこうした思いを巡らせることができたのも予想外のなことでした。
「オークション~盗まれたエゴン・シーレ」
私的にこの映画の評価は★★★☆☆でした!
最後に監督のパスカル・ボニゼールさんのインタビュー記事を載せておきます。