【映画】「動物界」これは想像に難くない近未来の人間ドラマだ!
フランスのアニマライズ・スリラー「動物界」を観てきたので感想などを綴りたいと思います。
映画について(ネタバレなし)
メインキャストの父親役はロマン・デュラス。「彼は秘密の女ともだち」で女装した男性役をしていた俳優さん。最近だとカメ止めのフランスリメイク「キャメラを止めるな!」でも主演していましたねw
今回の映画ではなんだか普通のお父さんという感じの風貌であまり俳優オーラを感じなかったんですけどやっぱり演技は素敵でした。
「動物界」はフランスのアカデミー賞と言われるセザール賞で最多12部門のノミネートを果たした話題作です。その数は以前私もレビューした「落下の解剖学」を凌ぐ数だったそうです。
動物化してしまう奇病が発生したフランス。まだ原因も治療方法も解明されていない中で世間では未知なるものへの恐怖と偏見が起こります。
ロマン・デュラスもインタビューで言っていましたが、まるでコロナのパンデミックを連想させる状況です。
そして人々は患者を隔離しようとしたり、その見た目から「怪物」と呼んで排除しようとします。と、同時に人間も怪物も共存すべきだという考えのグループも発生します。
人間が突然変異するというSF的なストーリーでありながら、実は映画を観るとテーマは全く違うところにあることが分かります。
「アニマライズ・スリラー」とありますがほんとにスリラーなのかな?
上記予告動画はとても魅力的なんですがちょっとホラー要素を煽りすぎなような気がする。。。
ハリウッド映画とは一線を画した今回のフランス的アプローチな作品を楽しむのも良いかもしれません。
感想(ネタバレあり)
上記に書いたように、ハリウッド映画だったら変異する様子をVFXで驚くほどリアルに映像にしたり、凶暴化した患者と人間との戦いをダイナミックに描いたりするかもしれませんが、この映画は息子(エミール)の立場を通して未知なるものに直面した時の人間の心情や行動を表現した作品です。
動物化した患者は完全に動物になるわけではなく人間と動物のハイブリッドになっていて「新生物」と呼ばれるようになるんですが、その見た目がとても個性的です。
エミールは動物化する母親をどこか偏見の目で見ています。転向先の学校でも周りが新生物=怪物について話すのを動揺しながら聞いています。自分の母親が「怪物」なのを知られたくないので「母親は死んだ」と言ってしまいます。
そのうち、自分が奇病に罹患してしまいます。体に徐々に表れる変化にパニックになり泣き叫びます。
転校先で仲間になじめなず孤立するエミールは、一人森の中へ入り鳥に変化しているフィクスという青年患者に会います。
フィクスが鳥として飛べるように練習するのを助けるエミール。ふたりには友情が芽生えるんですが、フィクスの鳥化が進行し会話が出来なくなってしまいます。
当初、警察や住民は森へ逃げた新生物たちを捕獲して隔離しようとしていましたが、近隣の住民と騒ぎを起こした新生物が出て次第に人間のほうが新生物への恐怖と憎悪を募らせしまいには武器を向けるようになってしまいます。
新生物はフィクスのように動物化が進行し言葉が喋れなくなりますので、人間は新生物たちの本当の気持ちを伺い知ることが出来ないのです。
言語コミュニケーションって人間が進化して得た能力ですからね。それが出来なくなるのは新生物たちにとっては辛い。もし言葉が喋れたら、人間との衝突も避けられ凶暴化などしなかったのかもしれません。
息子の罹患を知った父親は、息子の先行きを案じすこしでも普通の人間としてとどめるために努力しようとします。
しかし最後は息子の本当の幸せを願い森へ逃がすのです。そして言います。
「エミール!生きろ!」
コロナが蔓延した時に感じたあの不安と恐怖。動物化という奇病は、まるであの時に人間が経験した感情や行動そのものです。
見た目などから自分とは異なるものへの偏見やヘイトをする人間もいるので新生物は人間から忌み嫌われてしまいます。
映画ではこうしたことが起こった時、私たちはどうあるべきなのかを考えさせられる内容になっていました。
奇病だからと言って、捕獲して隔離するのが本当に正解なのでしょうか?
また動物や自然を人間がどう折り合いをつけて生きていくべきなのかも考えさせられました
、、、と言いたいところだったんですがジブリの鈴木敏夫さんの公式サイトコメントを読んでハッとしました。
「みんな忘れている。人間が動物だったことを。この映画はそれを思い出させてくれる。」
そうだった、人間はもともと動物だったんだ。人間がどう折り合いをつけて生きていくべきかだなんておこがましいね。
私は山あいの街に住んでおり毎夜鹿の遠吠えを聞きます。
鹿は警戒心が高いので時々しか姿を見ませんが、それでも近所で遭遇する割合は多いです。
山道で車にぶつかって倒れてしまっていた鹿も見たことがあるのですが、あの時は本当にいたたまれない気持ちになりました。
山を切り開いて住み始めたのは人間ですからね、鹿や他の動物にしてみたら侵入者、破壊者の何物でもない訳です。
空気が澄んで緑が美しい環境があるのはこの山々とそこに住む生物たちのお陰です。日々感謝しながら過ごしています。
映画の中で森の中へ逃げ込んだ新生物たちが新しい生息の場を見つけて過ごしているようなシーンが出てきます。
父親は愛する妻と息子、新生物は人間に隔離されて生かされるべきでない。そう気づいたのかもしれません。
最後に息子を森へ逃がす父親のすがすがしい表情がとても印象的でした。
さてちょっとお話内容とは脱線しますが、、、
下記の各国の公開ポスターちょっと見て下さい。
ポスターによって、全然違う映画に見える!
国によって全然映画の捉え方が異なるのかな。
ヨーロッパでは人間と自然界との対比を表している気がしますね。とても面白いです。
日本で本来のこのテーマ性だったらどんな層に向けて宣伝したらいいのか難しいところ。。。
「映画について(ネタバレなし)」のところで書きましたがスリラー路線でアプローチした方が話題になりそうですし、私のようなSF好きホラー好きが飛びつきそうなので、日本版の宣伝の方向はこういうのもありだよねと思いました。
ただ生粋のSF好きやホラー好きさんは観た後にイメージと違ったという印象を持ってしまうかもしれないです。
でもこの映画、本当に深いテーマなので是非沢山の人に見て欲しいです。
それから、新生物のヴィジュアルデザインがけっこう好き!
特に目がね、目だけはどこか人間性を留めている形で新生物はしゃべれなくなっても自分が人間だったことをきっと覚えていて「目」で訴えかけている気がしました。(だから、ポスターにも使われているのかもしれませんね。)
私的にこの映画の評価は★★★★☆でした!