【映画】「恋するピアニスト フジコ・ヘミング」
今年92歳で亡くなられたピアニスト、フジコ・ヘミングさんのドキュメンタリー「恋するピアニスト フジコ・ヘミング」を観てきたので感想を綴ります。
今回の作品を監督された小松莊一良さんは6年前のドキュメンタリー「フジコ・ヘミングの時間」も撮られた監督さんでフジコさんのコンサートの演出なども手掛けていらっしゃるそうです。
今回の「恋するピアニスト」はフジコさんの素敵な表情が沢山映し出されているんですが、それがどれも自然できっと彼女と監督さんの長年の信頼関係があるからこそ成立したのだろうなと思いました。
なによりも彼女の秘めた恋を語る(でも多くは語らない)恥じらう少女のような表情と、演奏会でお相手に褒められた時の満足そうな表情が印象的でした。これは、NHKのドキュメンタリーでも見なかった表情ですよ。小松監督、本当にステキな瞬間を撮ってくださいましたね。
そう、NHKといえば、フジコさんが入院してなくなる直前の姿を番組で映していましたが、いくら本人が許可としたと言えあれは必要だったのかな。
今年(2024年)のコンサートに向けてリハビリをしている彼女が思わず「ピアノはもう弾きたくない」と言ってすぐに「(じぶんでも)わかんない」と言い直してた。
弾きたくない筈はないよね。
でも思い通りに動かない指やリハビリのしんどさに投げ出したくなったんだと思う。番組を観ていてこちらまで辛かったです。
「恋するピアニスト」の感想に戻りますが・・・
フジコさんのピアノ演奏に沿って映し出される様々な都市の光景や彼女の
お家も映像作品としても大変素晴らしかったです。
私は音楽ましてクラシックについては全くの素人ですが、彼女のピアノ演奏が好きです。感情が音に乗っていて聴いていて心地よいです。
実は・・・
10年少し前に今抱えている難病治療で2か月半ほど入院していたんですが、就寝時はいつもピアノ曲を聴いていました。
ドビュッシーやショパン
フジコさんの演奏もよく聴いていました。
彼女の演奏会に一度でも行っておけば良かったなと後悔しています。
今となっては叶わなくなってしまいました。
素晴らしい才能を持っていてもそれが世に知られる人は一握り。
若い時に名声を得た人で人生上手に生きていけてる人ってそうなかなかいない。
人生は大器晩成の方がいい気がします。
若い時にどん底の苦しみを味わった人は、他人の苦しみが分かる優しい大人になります。そして大変なことがあっても乗り越えられる精神が宿ります。
フジコさんがチャリティーに熱心なのは他人の苦しみが分かるからだと思いました。
フジコさんは過去にあまりに辛いことがありすぎて泣きすぎてもう涙が出なくなったのだそう。
「涙って本当に枯れるんですよ。」と言ってました。
そんな彼女がこの映画で一筋の涙を流していた場面があったんです。
東日本震災で沢山の犬や猫が死んだというのを聞いて心を痛めていたときでした。
フジコさんは以前のNHKの番組では東京の家でたしか24匹ぐらい保護猫さんを飼っててパリのアパルトマンでも複数の猫さんが居たと思うんですが、この映画ではほとんどその猫たちはいなくなっていたようです。
歳をとってあらたに保護猫さんを迎い入れるのを辞めたのかな。
サンタモニカの自宅でも愛犬が亡くなりそれを追うようにして愛猫もなくなった報告を彼女は電話で受けていました。
人生をどう締めくくるか。
私自身、癌手術後の母親の姿から自分の晩年について最近考えています。
全てをキレイに終わらすことなんて出来ないけれど、せめて残された人が困らないような形にしておかないといけない。
それから、人生も折り返しからだいぶ経ってしまっているので残された時間を自分が満足できることに費やしたい。
若い時は随分無駄な時間と労力を使ったなと思っていますが、その無駄なことや失敗経験がなければ今の自分がないわけです。
少し前までは過去の自分を振り返るのも嫌な時がありましたが、今は「私はそのときなりによく頑張ったんだ」と認めてあげるべきなんだろうなと思っています。
フジコさんは68歳で世に知られることになりそこからどこに行ってもリサイタルはソールドアウトの人気ピアニストになりました。
「もう少し早くこんな時がくれば良かったけど」
と彼女は言っていましたが、それまで苦労した分が全て糧となって返ってきたのが晩年の成功だったのだと思います。
誰しも他人の人生の良し悪しを量ることはできませんが、フジコさんが天国で自分の人生に満足されていることを心から祈っています。
今回の映画「恋するピアニスト フジコ・ヘミング」は彼女の晩年を映した本当に素敵な映画でした。