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【映画】「PERFECT DAYS」 小さな喜びがあるささやかな毎日が美しい
役所広司さん主演ヴィム・ヴェンダース監督の「PERFECT DAYS」を観たので感想を綴ります。
映画について(ネタバレなし)
東京・渋谷でトイレ清掃員として働く平山(役所広司)は、静かに淡々とした日々を生きていた。同じ時間に目覚め、同じように支度をし、同じように働いた。 その毎日は同じことの繰り返しに見えるかもしれないが、同じ日は1日としてなく、男は毎日を新しい日として生きていた。 その生き方は美しくすらあった。男は木々を愛していた。木々がつくる木漏れ日に目を細めた。 そんな男の日々に思いがけない出来事がおきる。それが男の過去を小さく揺らした。
監督はヴィム・ヴェンダース。言わずと知れたドイツを代表する映画監督でありアーティストであります。70年代から現在に至るまでコンスタントに作品を世に送り出しているのが本当に素晴らしい。「アメリカの友人」「パリ、テキサス」「ベルリン・天使の詩」
ドキュメンタリーもいいですよ、「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」「Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち」「セバスチャン・サルガド/地球へのラブレター」・・・。
もうヴェンダース監督も79歳なんですね、なんだか全然お年を感じない創作パワーです。
昔から日本とは繋がりが深いようで、日本によく訪れていたとの事。
親日家だからこそ、外国人監督とは思えない繊細な人と東京の風景の描写ができたのでしょうか。そういえばヴェンダース監督は小津安二郎さんに影響を受けていたと語っていましたね。
今回の映画はもともとTHE TOKYO TOILETというプロジェクトから始まった企画だったそうです。
THE TOKYO TOILETは「汚い、臭い、暗い、怖い」といった公共トイレのイメージを変えるため渋谷区で実施されたプロジェクトで2020年から2023年にかけて17か所に順次設置が行われました。どのトイレも一風変わったデザインで映画でもそれが出てきます。ユニークなデザインかつきれいで明るい公共トイレなので利用してみたいですよね。結果的に映画はTHE TOKYO TOILETの良いPRになっているのではないでしょうか。
主演の役所広司さんはこの映画で第76回カンヌ映画祭で男優賞を受賞されました。またこの映画は翌年のアカデミー賞でも日本代表作品として国際長編映画賞にノミネートされました。
私は普段あまり日本映画やドラマを観ないのですが役所広司さんは知っています(笑)最近だとVIVANT観ていたので印象が残っています。
2023年後半の劇場公開だったかと思うんですが、観たいと思いつつ劇場にはいけませんでした。つい先日アマゾンプライムで無料になったのをきっかけにやっと観ることができました。プライム会員の方は是非みてみてください。
感想(ネタバレあり)
映画はSTORYにあるとおり、主人公平山の日常を映していきます。
朝目覚めてから一日が終わるまでの平山のルーティンは正確かつ同じように行われています。それを映す映像はまるでドキュメンタリーのようです。
ほとんど変化のない一日の中でも平山にとっては小さな喜びが沢山あります。
・神社で貰って大切に育てている実生に、朝目覚めてから霧吹きし成長を楽しみにしている。
・アパートから出勤の為に外へ出たとき空を見上げてすがすがしい気持ちになる
・公園でホームレスの老人とコトバもなくお互い目でささやかな交流をしている
・昼休憩でベンチに腰掛けサンドイッチを食べながら木々を見上げ笑顔になる
・仕事終わって銭湯での一番風呂でゆったりくつろぐ
・浅草の地下街一杯飲み屋で晩酌
・古本屋で100円で買った文庫本を寝る前に眠くなるまで読む
・休みの日は木々を撮影したモノクロフィルム写真の現像引き取りに行き出来栄えを吟味し良い写真をアルミ缶に保存する。
・同じく休みの日に懇意にしている居酒屋に飲みに行く(ママに会いに行く)
こうした平山の日々が繰り返されます。
彼の日常は淡々としていますが、周りの人間が関わることによって平山の心情に小さな変化をもたらします。
身勝手な仕事の後輩タカシ
カセットの音楽が気に入ったアヤ
平山を慕っている姪のニコ
疎遠で裕福に暮らす妹のケイコ
気になる存在な居酒屋のママ
一緒に影踏みしたママの元夫
皆がもたらした小さな変化はやがて風のように流れて、平山はまた同じような日常を迎えることになります。
さきほどドキュメンタリーのようと言いましたが、普通の人の日常ってこういう感じなんじゃないかな。映画やドラマのように驚くほど変化にとんだ毎日なんて実はそんなにないです。
私たちには仕事があるし、時間どおりにこなさなくてはいけないこともあるので平山のように規則正しく行動することが求められます。
だからドラマチックなことなんてそうめったに起きないです。
でもあの古いアパートで一人で暮らしているということがどういうことなのかは、たぶん経験した人でないと分からない部分はあるかもしれないです。そして平山と世代が近ければもっと共感してしまうかもしれない。。。。
(もし私が若者だったらなんてつまらない毎日なんだろうって思ってしまったかもしれないです)
映画の感想で「あんな風に生きられたらいい」というのがありました。
たしかに、平凡な日常の中でささやかな喜びを見つけられるということは実は幸せなことなんだと思います。
平山が見せるいくたびの笑顔がそれを思い出させてくれました。
ただ
映画の最後で朝日が昇る中、平山が車を運転しながら浮かべた表情を見たときに私はハッとしてしまいました。
朝日の光を浴びると元気になります。平山もいつも笑顔でした。
でもその日は笑顔の中に今にも泣きだしそうな悲哀を感じる表情がありました。
あの場面を見たときに、私も同じような経験があったのを思い出しました。
東京で1人20年ほど暮らしてきて、幸せな時もあったしすごく辛いこともありました。でも圧倒的に多かったのは淡々とした日常でした。平山と同じように日常に小さな喜びもありました。誰にも邪魔されず自分の人生をちゃんと築いているという実感もありました。
でもふと孤独を感じてどうしようもなく泣きたい時があったんですよね。
自分でもよくわからない感情でした。
今でも時々同じような思いを感じることがあります。一人で生活しているわけではないけれどそれでも孤独を感じることはありますよね。
平山が今置かれている現状は全部父親との確執が原因なのか、または他になにか出来事があったのか、無口なところをみると昔から人とコミュニケーション取るのが苦手なのか。。。。私には平山の過去が辛いものだったような気がします。だから平山は他人に優しい。
傷ついた経験があると人に優しくできるんですよね。
映画の中では平山の過去についてほとんど語られていないので観る者が想像するしかありません。他の方は私とは全く違う見方をするかもしれませんね。
それもヴェンダース監督の狙いなのでしょうか。
日常を丁寧に生きて幸せに見える人でも、平山が最後に見せた表情のように完璧な人なんていないです。
何度となく映画の中で出てきた木々から差し込む木漏れ日のように人生光があるからこそ影もあります。そうやって人はバランスをとりながら生活しているんですよね。
平山のように日常を小さな喜びで満たすことは光を沢山増やすこと。
私たちも今日から真似できるかもしれません。
役所さんの役どころはほとんどセリフがないにもかかわらず表情と所作で主人公の光と影を完璧に演じていました。そしてヴェンダース監督の映像がほんとうに美しかったです。音楽も良かったですね。
舞台が東京で実在するお店や建物が出てきてリアルな日常が映し出されていたのが日本人として嬉しかったですし、またこの映画が外国で評価されたという事は海外でも平山のようなキャラクタ―に共感してくれたのでしょうからそれも素晴らしいことだと思いました。
とても素敵な映画でした。
「PERFECT DAYS」私的にこの映画の評価は★★★★☆でした!