憎しみの昇華、「懐かしい」という感情
酷暑の狭間、朝の涼やかな空気、柔らかな陽光。
蒸し暑く、息を吸うのも億劫になるような重たい空気だった夏の合間。
胸の内の重苦しささえ掬い取ってくれるような軽やかな空気を吸った。
ふと、快い思い出の断片が頭をよぎった。
「全てを憎まなくてもいいんじゃないか、よかったんじゃないか。」
一瞬、自分の中に渦巻いていた憎しみが全て消えたような気がした。
ずっと、過去の記憶には後悔や罪悪感、怒り、憎しみといった悪感情が不随していた。もうそれ無しには過去を思い起こすことなどできないのだと諦めていた。
「楽しかった。ありがたかった。」
そういった感情が100%の純度で思い出されたことに驚き、そして泣きたくなった。
過去の記憶を慈しむことが出来る日が来るとは、想像もしなかった。
これが「懐かしい」という感情なのかもしれない、と思った。