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考古学の存在価値

現代社会のジェンダーに関する問題点を一人考えているとき

かれこれ5年近く考えている考古学(注1)の存在価値に関して、突然新たな考えを得られた。

というより、諸先生方が論文の中で述べている

「縄文時代の○○(例えばジェンダー)を明らかにすることはジェンダー論が活発になっている現代社会において大変意義がある」

といったニュアンスの文章がやっと腑に落ちた。

なんで歴史的な事象を明らかにすることが現代社会の内包する問題を考えるのに役立つのかずっと「?」が浮かんでいた。

過去の反省点や経験を現在に活かすという点では歴史学は役に立ちそうだけれど、

土器の紋様といったマニアックな事象を調査しているように見える考古学は、本当に現代社会の内包する問題を考えるのに役立つのだろうか?

考古学の存在価値とは?

考古学や歴史学は、正直緊急性は低い。
行政も真っ先に予算カットしている。

日本考古学は、土地を開拓するときに発掘調査を行っている点で、特にたくさんの費用が投入されて成り立っている学問。

家を建てるときに発掘調査するから時間と費用がかかる。
もし、遺物が出土して更なる調査が必要になれば、さらに完成が遅れる。
重要な遺跡だから保存しよう!という流れになったら、そこに家を建てられなくなるかもしれない。

そこまでして発掘調査をする必要があるのか?考古学を専門にしている身でありながら、自信を持って「必要です!」と言えずにいた。

でも、今なら「必要です」と言えるかもしれない。

考古学で明らかにした知見は、現代社会を考える上で役にたつ。

土器を研究することは、一見マニアックで、特に生産性がないことのように感じる。

しかし、そのようなことはない。

日本考古学において、土器は文字記録がない時代の時間軸を把握するカレンダーの役割をしている(注2)。

土器の紋様や形の変遷から、どちらが古くどちらが新しいかを考え、かつ遺物包含層の年代測定と照らし合わせ、

この土器が出土するのはおよそ○○年前と推定する。

そして、紋様や形を吟味した結果こちらの方が古いよね!
という議論をひたすら繰り返し、
土器カレンダーをより確かなものにしていく。

土器の研究をすることは、研究をする上で欠かすことのできない文字がない時代の時間軸を把握することに役立っているのだ。

土器カレンダーを手に入れた考古学者は、さらに研究を進めていく。

例えば、土器と一緒に出土した人骨の埋葬状況やデータ分析、DNA分析等から、
○○年前頃のこの地域では、男性が女性の村に嫁ぐ傾向があるんだね!と明らかにしたとしよう。

私たちは、○○年前の○○地域における結婚制度やジェンダーのあり方を知ることができる。

そして、私たちが今、
現在の結婚制度やジェンダーのあり方を考える際の参考にすることができる。

どうして今の日本は一夫一妻制度を取り入れているのだろう?

社会にはこんなに素敵な人が多いんだから多夫多妻でもいいんじゃないの?

嫉妬とか相続とかいった問題が出てくるから、
一夫一妻に落ち着いたのかな?

それはいつからだろう?

あ、○○年前の○○地域では、すでに一夫一妻制度だったんだね。

じゃあ、もっと昔はどうだったんだろう?

こんな感じに現在の社会問題を考える際の参考にすることができるのだ。

考古学で明らかにした事象は、
現代の社会問題を考える手がかりとなり得るんだ!

「縄文時代の○○(例えばジェンダー)を明らかにすることはジェンダー論が活発になっている現代社会において大変意義がある」

納得。

まぁ、そもそも研究対象が意味のあるものである必要があるのかどうかも分からないけれど。

考古学は、知的好奇心を満たしたり、観光業に寄与したり、他にもたくさん存在価値は考えられるけれど。

現代の社会問題を考える手がかりともなるんだね。


※注1
考古学は出土したモノから人間の歴史を復元する学問だから、恐竜は考古学ではありません!

※注2
土器がカレンダーの役割をするというのは、電話機で考えれば分かりやすいかも。例えば、黒電話とガラケーとスマホが出土したとする。一番大きくて機能もシンプルな黒電話が一番初期のものだと推定(この時点で 古:黒電話 新:ガラケー・スマホ)。そして、人類は軽量化を目指した結果ガラケーとスマホが誕生したのだろうなと考え、この2つを比べた場合、より多機能なスマホの方が新しいと考える(この時点で 古:ガラケー 新:スマホ)。よって、黒電話→ガラケー→スマホの順に誕生したと考えられる。さらに、それらの電話機が出土した層と同じ層から出土した炭化物を年代測定するなどして、その電話機の年代を推定していく。こうやって電話機カレンダーは誕生する。実際の考古学は、土器を使用して、このようなカレンダーを作成している。

#poolo #考古学 #ジェンダー

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