認知症のシズ子さん
病院で看護師として働いていた頃、
ちょっと有名な患者さまがいました。
80歳くらいのおばあちゃんで、
名前はシズ子さん(仮)
シズ子さんは肺が悪くて、
鼻にカヌラをつけて
常に酸素を持ち歩いていました。
肺炎になり、
何度も入院しては
落ち着きがなくなって
一日中、大声で叫んだり
暴れたりするので
スタッフにとって
シズ子さんは
恐怖の患者さまでした (笑)
私が、バタバタと忙しい
4F急性期病棟から
ちょっと穏やかな
3F療養病棟に移動して、
数ヶ月たった頃。
「認知症のシズ子さん」が
私のいる3F療養病棟に
転棟してくることが決まりました。
3Fスタッフは大騒ぎ。ヽ(;゚;Д;゚;; )ギャァァァ
「あのシズ子さんが来るんだって!」
「えーやだ~!!」
「暴れたら困るから、睡眠薬多めに
注文しておこう!!」
「センサーの準備しといた方がいいよね?」
※センサーとは
…患者さまが触ると音が鳴って、スタッフに
知らせてくれるマットなどのこと。
それまで穏やかだった療養病棟は
一瞬で、
慌ただしい病棟に変わりました。
「シズ子さんてそんなにひどいの?」
シズ子さんのことを知らないスタッフに
みんなが興奮して話します。
「暴れてひどくて、仕事にならないよ!
これからどうしよう~!!!」
「覚悟しておいたらいいよ!」
そんなスタッフを
少し離れたところから見ていると
ふと、違和感を感じました。
まだシズ子さんが来てもいないのに、
みんなが慌てふためいている。 ?
もちろん、
急性期病棟に10年いた私は
シズ子さんのことは
よく知っていました。
でも、
なんて言うんでしょうか。
まだ、シズ子さんは
ここに来てもいないのに。
シズ子さんを「やっかい者」だと
みんなが決めつけている……。
たしかに
入院するたびに
落ち着かなくなって
暴れていたシズ子さん。
今回も、
慣れない病棟に移動したら
また暴れるかもしれない。
でも、違うかもしれない。
私たちが感じる、
「忙しさ」とか「大変さ」って
もしかして、
こんな風に創られるのかも知れません(笑)
シズ子さんへの対応について
スタッフで話し合いを行いました。
私は、
「シズ子さんは認知症のない、
しっかりした方だと思って、
特に、丁寧に接しましょう」
と、提案しました。
「睡眠薬は、必要なときだけ。
センサーも、あえてつけないで様子を見ましょう。」
当たり前のことを言っているようですが、
激務に追われる
看護師や、看護助手の中では
忘れられがちなことでした。
納得のいかない表情のスタッフも多く
否定的な意見も飛び交いました。
もちろん、認知症の症状によっては
ひどい妄想があったり、
異物を飲み込んでしまうような
危険な方もいるので
そういう方には適切な治療も
必要になるのですが
シズ子さんは
家では暴れたりしない方だったので
慣れない環境に不安になったり、
肺炎を起こして低酸素になることで
入院中は、一時的に認知面が低下している
可能性があると私は考えました。
そして、
この人は暴れるかもしれない。
ひどい認知症だから、
私たちの言うことなんて
わからないかもしれない……
スタッフのそういった思いは、
患者さまに
ダイレクトに伝わってしまいます。
私はなかなか頑固な看護師でしたので、(笑)
必死にスタッフを説得し
みんなもしぶしぶでしたが、
私の意見に了解してくれました。
ついにシズ子さんが
私たちの病棟に移動してきました。
「シズ子さん、これからどうぞ、
よろしくお願いしますね」
「シズ子さん、ホールでみなさんと一緒に
お茶でも飲みませんか?」
スタッフは
最初は警戒している様子もありましたが、
みんな、にこやかに対応してくれました。
その雰囲気につられてか、
シズ子さんまで丁寧な口調に変わり
(*´艸`*)
すぐに新しい病棟に慣れ、
一度も暴れることなく、
ホールで他の患者さまと話されたり、
ゲームをされたりして、
穏やかに過ごされました。
「認知症のシズ子さん」は
いつのまにか
「お上品なシズ子さん」に
変わっていました。(*^^*)
その後も、
たくさんの「ひどい認知症」の方が
移動してきましたが
3Fに移動してくると、
みんな、不思議と
穏やかになっていったんです。
.+:。 ヾ(◎´∀`◎)ノ 。:+.
認知症になる原因はたくさんあるし、
その人それぞれ対応は違うけれど
一番大切なのは
「その方を決めつけないこと」
なのかなって思います。
人と人との関わりって
難しいように見えるけれど
自分の認識の仕方で、
どのようにも変えられるんですよね。
自分と子供
自分とパートナー
友達、上司、お客様、
色んな関係性の中でも同じ。
相手をこちら目線で決めつけずに
疑わずに
こちらから心を開いて信じること。
どんなときでも、自分から開く。
そしたら、みんなと仲良くなれる。
どんな方にでも、心は伝わる。
たとえ言葉が分からなかったとしても。
読んでくださってありがとうございました(*^^*)