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「キュレーション」から考える、芸術と社会の関わり方を提案する「Curator Table」

はじめに:YAUというキュラトリアル実践

YAU内のプログラム「Curator Table」代表でYAU実行委員の丹原です。

社会と芸術の接点であるYAUでは、しばしば芸術をどう社会に見せるか、そして社会をどう芸術に持ち込むかを考える機会があります。これは毎週の実行委員会の定例会議や、交流会やイベントでの立ち話でも見られ、そういった話の重要性についてよく僕もYAUでうなずくことがあります。

そのような現場は意外かもしれないですが日本国内では非常に稀有で、一言でアートと言っても複雑に様々な役割やプレイヤーのいるクラスタ(集団)が、一つの場所に対してプロフェッショナルな熱量を持っているコミュニティがYAUにあることは、とても貴重であります。

社会と芸術の接点について考えることというのは、キュレーションを実践するキュレーターやアートディレクターといった役割の中で多くのきっかけがあります。というのも、キュレーションという発想の中に、「良い作家や作品を一番良い形で人々に見せる」という思想がある以上、そこには社会と芸術の間での“翻訳”のような手付きが求められるのです。

簡略化され限定的な捉え方ではありますが、YAUで社会と芸術の接続の議論が毎日のように起きているということは、YAUという企画自体が、一種のキュラトリアル(≒キュレーション的)な機能を備えている、とも言えると思っています。結果として、キュレーターが行う“翻訳”の役割は、必ずしも展示というアウトプットの場に限定されず、サロンや勉強会、トークイベントなどにも必要となっています。

つまり、YAUという場所がキュラトリアルな機能を持っているのだとしたら、その場所にいるキュレーターの役割とは。この考えからYAUの中で生まれたのが、僕がリードをしている「Curator Table(キュレーター・テーブル)」というプログラムです。


▼Curator Table(キュレーター・テーブル)とはなにか

Curator Table(キュレーター・テーブル、以下CT)は昨年末からYAUで行われている、キュレーターの交流・議論および育成・発信を目的とした、コミュニティプロジェクトです。

アートマネージャーやプロデューサーといった、アーティストを支える立場の人たちも広義的に「キュレーター」として含むCTは、美術展覧会企画やアートスペースの運営などの従来のプロジェクトのあり方に加え、キュレーターの視点をもって新たなプロジェクトの形などにも実験的に参加する試みでもあります。現在国内では、体系的にキュレーションという役割が社会に実装されていない、という課題に対してもまた、Curator Tableは育成プログラムや勉強会の実践もしています。

計画中のものも含め、CTは並行していくつものプロジェクトを現在企画しておりますが、今回はその中の一部を紹介できればと思います。この記事を通して、自分も参加したい、と思う方と出会うきっかけがあることを期待しています。

▼活動1:キュレーターが開催する勉強会、「切羽的なFace」

「切羽的なFace」(ロゴ、デザイン=李静文)

「切羽的なFace(きりはてきなフェイス)」はキュレーター・アーティストである李静文と丹原健翔による勉強会シリーズ。採石場の一番奥の掘削面である「切羽」のように、様々な文化領域の最先端を一つの”面”として捉える本企画では、昨今で話題のテーマなどをキュレーター視点から深掘りをしています。

切羽的なFace第一回は、今様々な業界で話題のChatGPTという技術の勉強会、及び美術の目線からどのような活用ができるかについて考えるワークショップを行いました。作家や研究者、経営者など様々な属性の10人ほどの参加者の方々と、ChatGPTがもたらす便利な世界とその危険性についてディスカッションを行ったあと、美術業界を中心に、クリエイティブの領域での業務のサポートに使える方法についてハッカソン方式でのワークショップを行いました。

第一回「切羽的なFace」: ChatGPTのイベント風景(撮影=李静文)
第一回資料より抜粋

ワークショップの最後には、「いちばんヤバい活用方法」を参加者の中で投票制で決め、選ばれた方にはChatGPT Plus(無料版ChatGPTの有料プレミア版)1ヶ月無料の権利が渡されました。今回の受賞者の方が紹介したのは、ChatGPTに美術史の未来予測を行ってもらう活用方法。

例えばカーボンニュートラルの加速化などによって2030年代に自然環境や気候変動をテーマにした作品が増える、など、言われてみたらそうかもしれない世界を見せてくれて、新たな議論を引き起こす力があることが評価されました。

美術史の未来予測の後日再現、勉強会当日の回答であるとは限らない

他にも展覧会タイトルを参加作品をリストアップすることで考えてもらったり、特定の作家のSNSアカウントを読み込み、その作家の評価をしてもらう、などのアイデアが実施されました。

今後不定期に開催される「切羽的なFace」ですが、第二回では主に西洋圏で人気なMeme(ミーム)のカルチャーについて考える勉強会を実施する予定です。

今では美術業界でも無視できないMemeという表現方法について、世界の美術・ファッション業界で大きな影響力をもつ『𝓕𝓻𝓮𝓮𝔃𝓮 𝓜𝓪𝓰𝓪𝔃𝓲𝓷𝓮』(@freeze_magazine)やHilde Lynn氏(@jerrygogosian)、Diet Prada(@diet_prada)のmemeの使い方とその社会的影響力について考えながら、参加者と実際にミームを作ってみることをワークショップを行います。こちらも、近日YAUのSNSなどで告知ができればと思います。

▼活動2:初めてのキュレーションをCTでサポートするFirst Curation(仮)

CTとしてファンディングを行ってYAUでの初めての展示企画をサポートするFirst Curation(仮)プロジェクトでは、現在コレクティブ「channel」の企画『nowhere project』のサポートをしています。

インデペンデント(野良)でのキュレーションという分野が体系的ではない形で国内では行われている現在、キュレーションを行う機会を与え、考え方などの面からサポートを行うプログラムがないことから始まった本プログラムでは、機会の提供の他、企画実現のサポートを、資金面や構想から設営までのプロセスの監修などで行っています。

後藤那月 + channel『nowhere “Where Do We Come From”』DM画像
展示イメージ(提供=後藤那月)

2023年6月28日から7月5日にかけて、First Curationとしてサポートさせていただいた、作家の後藤那月とchannelの展示『nowhere “Where Do We Come From”』が開催されました。

現役美術大学生 2 人が率いるコレクティブ channel(海沼 知里・武田 花)が企画する「nowhere project」シリーズの第一弾として行われる本展では、作家の後藤那月をお呼びし、YAU内にて大型のインスタレーションを展示し、パフォーマンスを行いました。

本展を皮切りに、6月から11月にかけて展示、公演、ワークショップといった様々な企画を通して "nowhere" という概念を省察する「nowhere project」がYAUにて開催されます。

「Where Do We Come From / 私たちはどこから来たのか」(6〜7月)
「What Are We / 私たちとは何か 」(9月)
「Where Are We Going / 私たちはどこに行くのか」(11月)

という、ゴーギャンの同名の作品タイトルを引用し、 33つの問いをテーマにキュレーションを行い、時を経て順に公開されていく「nowhere project」の最新動向やイベント詳細などはchannelのインスタグラム(@channel.3627)をご覧ください。

▼活動3:不定期企画の開催

Curator Tableでは、CT発の企画だけではなく、キュレーターやアートマネージャーの企画するプログラムのYAUでの実現のサポートも行っています。以下にイベントのいくつかを紹介できればと思います。

布施琳太郎による連続講義「ラブレターの書き方」

アーティストである布施琳太郎の自主企画連続講座「ラブレターの書き方」をYAUにて23年1月から4月にかけて全6回で会場提供・サポートを行いました。これまでの布施氏の作家活動のなかで育まれてきた「新しい孤独」や「死体」、「ラブレター」といった概念を整理して発展させながら体系化する試みとしての本企画は、数十名の参加があり、布施氏の活動の全貌を理解する重要な講座プログラムとなりました。

7月11日 Artist Talk with Lauren Quin

世界有数の現代アートギャラリーであるBlum & PoeとCTの共同企画として、Blum & Poe Tokyoで開催される『Lauren Quin: Salon Real』 を記念したアーティスト・トークを行いました。LA在住の作家Lauren QuinとCurator Tableの丹原健翔がQuin氏の作品について語りながら、社会と芸術の接点としての表現について考えていく趣旨の本企画にも、たくさんの作家が集まっていただき、従来のギャラリースペースでのトークイベントに比べ多くのアーティストも観に来ていただいている印象でした。近日配信もされているらしいので、またご報告します。

▼これから

まだ詳細が未定のものも多く、現時点で発表できることは限定的ですが、今後はCTとしては丸の内仲通りでの屋外ラジオ企画や、同じくYAUに在籍されるTokyo Photographic Researchとのポートフォリオレビュー企画なども並行して進めております。

今後世の中に文化芸術と社会の接点が増えていくなか、接続点を考えるキュレーターという役割がさらに必要になってくることは、キュレーターを名乗るプレイヤーが業界内で増えていることから明らかになっています。特定の施設やスペース専属ではない、いわゆるフリーランスで活動する「インデペンデント・キュレーター」という肩書の人がそれぞれ個人で活動を進めるなか、CTがそういった方たちにとっても新たな出会いや交流が生まれることを目標に、様々な企画を進めていければと考えています。

定期的にYAUのWebサイトやSNS、上述の企画たちのSNSをご覧いただけますと幸いです。


著者について

丹原 健翔|Kensho Tambara
作家、キュレーター。92年東京生まれ。ハーバード大学美術史学科卒業。現代におけるコミュニティの通過儀礼や儀式についてパフォーマンスを中心にボストンで作家活動をしたのち、17年に帰国、国内で作家・キュレーターとして活動。サイトスペシフィックな作品や展示をつくることを中心に、鑑賞者のまなざしの変化を誘発することを目的に制作。作家活動を行う傍ら、ギャラリーなどの展覧会のキュレーションをはじめ、アートスペース新大久保UGO共同創設者、一般社団法人オープン・アート・コンソーシアム代表理事など。 その他に「ソノアイダ#新有楽町」プログラムディレクター、「Yurakucho Art Urbanism」実行委員などを務める。主な展覧会に「未来と芸術」展(19年、森美術館、Another Farm名義)、「ENCOUNTERS」(20年、ANB Tokyo、キュレーション・作家)、「Dream Play Sequence」(21年、富山県美術館内レストラン「BiBiBi & JURULi」、企画・キュレーション)、Meta Fair #01 (22年、ソノアイダ#新有楽町、企画・運営・キュレーション)、「デバッグの情景」(22年、ANB Tokyo、キュレーション)、「無人のアーク」(Study: 大阪関西国際芸術祭 2023、キュレーション)など。


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