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Artist Note vol.7 山田 愛

「Art Squiggle Yokoyama 2024」では、「アーティスト・ノート」というコンセプトを掲げ、各参加作家に本フェスティバルの準備段階で、まだ頭のなかにしか存在していなかった展示についてのインタビューを行いました。作品に込める思い、悩みや葛藤、インスピレーション源についてなど、まさに「Squiggle」の最中にいたアーティストの声がここには綴られています。

ひとつとして同じものがない石が無数に連なる
瞑想空間のようなインスタレーションで自分と向き合う

《流転する世界で》(2024)制作風景

まずは、ご自身のルーツについて教えてください。
江戸時代に創業し、京都で約300年続く石材店に生まれました。現在、父で7代目。社寺建築石工事、石彫刻、墓石など幅広い石の仕事をしています。幼少期から石が身近にあり、両親の影響や京都という土地柄、神社仏閣に行くことも多く、自然とそうした文化が染み付いているのかもしれません。

生まれ育った環境は、 石を素材として選択したことに影響を与えましたか。
石屋だから石を使おうと思ったことは一度もないですが、なるべく嘘がないように心がけて制作していると、石に触れることが私にとって自然で、最も学びがあるんです。何時間も磨いたり、並べたりしていても飽きないどころか、 もっと石に近づきたいと感じます。自分でもその理由はわからないのですが、代々石と向き合い、神仏や魂などかたちのないものにかたちを与える仕事をしてきた先祖の血がそうさせているのかも……。その影響か、人知を超えた神仏の領域や、身体や意識から開放された、かたちのない聖域を感じる石に惹かれます。

《円相》(2022)

今回の展示作品は、2022年から制作している〈円相〉シリーズを発展させたインスタレーションと伺っています。
実際にお墓の聖地として使用されていた玉砂利をいただき、何度も洗って、 汚れを拭いて、本来の美しさを取り戻した石を無心で円形に据えていく、という作品です。〈円相〉とは、本来一筆で円を描いた禅の書画のことです。 始まりも終わりもない無限の世界や悟りの境地を表し、見た人の心を映し出すものともされています。〈円相〉で試みていることを大きなスケールのインスタレーションにするのは2年近く構想していたプランでした。無数の石が連なり凝縮された大きなひとつの世界を、その周りから俯諏して観る体験を作ります。

これまでの制作方法と違う点があれば教えてください。
これまではセメントを流した土台の上に石を置いて固定していましたが、今回は固定させずに、会場で砂を敷き、その瞬間の空気や自身のなかにあるものを感じながら石を並べていきます。この場所で、その瞬間に現れる景色だからこそ、最もリアリティがあると思います。6日間ほどかけて、すべて自分の手で一粒ずつ据えていきます。 その度に、選ぶ石にしても、石の間隔にしても、その瞬間の心と身体の微細な動きが石に反映され、時間の蓄積と共に石が連なり、円の模様となって現れます。どんな景色になるのか、これまでにない挑戦でとても楽しみです。

《流転する世界で》(2024)制作風景

本フェステイパルのテーマである「SQUIGGLE」は、今回の展示作品を決めるにあたって影害を与えましたか?
幅広い層の方に向けて、制作のプロセスも含め作品を提示するというコンセプトを受けて、この作品がぴったりだと思いました。また、主催がマイナビさんという、人生のさまざまなターニングポイントをサポートする企業なので、 そのような転機を迎える人にも観てもらいたい作品でもあります。大きな転機でなくても、誰しもが「この先どう生きていこうか」、「本当にしたいことってなんだろう」と考えること、あると思うんです。作品の鑑賞を通して、それぞれが現在の立ち位臨を見つめ直せるような、そういう体験を生み出したいと思いました。

《流転する世界で》(2024)制作風景

それはご自身もまだ見たことのない景色になりますが、どういった空間をイメージされていますか?
石にはひとつとして同じものはなく、どれが特別なわけでも劣っているわけでもありません。個性を持った石たちが、それぞれ最も輝く場所に立ち、ひとつの大きな景色を作り上げる――その景色は、人間や動植物、ありとあらゆる生命体がそれぞれの役割を担い共存している世界の縮図のように見えるのではないでしょうか? この作品は、ぐるりと空間を回って、それぞれが心地よいと 感じる場所から眺められます。同じ景色を共有していても、その人だから見える景色を見つけてほしい。心ゆくまでただぼ一っと目の前の景色を眺めて、少しでも自分の心の模様を感じるひとときになれば幸いです。

《流転する世界で》(2024) 制作風景

作品タイトル《流転する世界で》に込めた思いとは?
石は何万年、 何千万年も前から存在しています。石に触れていると、遥か遠くの、過去か未来なのか、忘れていたなにかを思い起こさせてくれます。ここに存在する石が見てきた永い時の中で、この世に生を受けたものが、絶えず変化を続け、 始まりと終わりを幾度も繰り返してきたのだとしたら……。 そうした大きな流れの中で、奇跡的にもたった一人の自分が存在している。 そんな ‘‘流転する世界で’'、今を生きる私たちはどのように命を刻むのでしょうか。 生まれる場所も時代も選べないし、思い通りに行かないことの方が多いかもしれない。ですが、それぞれの役割や輝く地点は必ずあります。それは他の誰かが押し付けることでもなければ、取って付けたようなものでもな く、きっとそれぞれに本来備わっているものだと思います。

Interview Date: 2024/06/19
Text by Naoko Higashi


PROFILE
1992年京都府生まれ。社寺建築や墓石を手がける石材店に生まれ育つ。2017年、東京藝術大学大学院美術研究科先端藝術表現専攻修了。石やドローイングを用いたインスタレーションを主な手法とし、根源的な地点へ誘う鑑賞体験を目指す。主な展示に、「瀬戸内国際芸術祭2019」(高見島、香川、2019)、「第26回岡本太郎現代芸術賞」(川崎市岡本太郎美術館、神奈川、2023)、「ARTISTS’ FAIR KYOTO」(京都新聞社ビル地下、京都、2024)など。


About "ARTIST NOTE"
会場では、それぞれの作家ごとに用意されたテーブルの上に普段制作に使用している道具やアトリエにあるもの、影響を受けた書籍などが並ぶほか、インタビューや制作プロセスが垣間見れる写真などが掲載された「アーティスト・ノート」が2枚置かれています。会場を巡りながらそれらを集め、最後にはご自身で綴じ、自分だけの一冊をお持ち帰りいただけます。

山田愛のアーティストテーブル


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