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あの絵をモノクロにしてみたら…線が楽しい名画たち
西洋画といえばカラフルな色彩を思い浮かべる人も多いでしょう。
でも、いい絵はモノクロにしても魅力的!色だけじゃない名画の魅力に迫ります。
動きが伝わる、踊るような線
絵をモノクロにすると、画家のデッサン力があからさまになります。
素人の私でも「すごいデッサン!」と思えるのが、アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレックです。
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19世紀末のパリにあったキャバレー「ムーラン・ルージュ」の宣伝用ポスター
彼を一躍有名人にした作品です。誰もが一度は見たことあるのではないでしょうか。
これをモノクロにしてみると…
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色がなくても伝わってくる、この躍動感!肉体の動きを正確に描写しているのがよく分かります。
ロートレックはキャバレーやダンスホールに入り浸り、ダンサーや歌手をスケッチしていました。
彼女たちはパフォーマンスの間、絶え間なく動き続けます。描き終わるまでポーズを止めて待ったりはしてくれません。
その連続する動きの中の、どの瞬間を描くべきか。この見極めがロートレックは上手かった!
たとえば、ダンサーが足を高く上げた瞬間や、
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(右半分はモノクロに加工しています)
歌手がふとキメ顔をしたときなど、
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(彩色がほとんどないためこのまま載せました)
ここぞ!という瞬間を切り取っています。
激しいデフォルメにもかかわらず、今にも動き出しそうな臨場感です。
線が伝える画家の内面
印象に残る絵は線も個性的です。
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強烈な絵です。やせ細った肉体は病的で、傷もないのに痛々しく見えます。
作者のエゴン・シーレは、作品と同じくらい強烈な人生を送りました。その悪行は数知れず。
・実の妹と近親相姦疑惑。
・女性をナンパしてヌードモデルにするなどの行為により、近所の人に疎まれて地域を追い出される。
・14歳の少女と淫行した容疑で逮捕される。
・妻の姉と肉体関係を持つ。
そんなシーレはたくさんの自画像を残しています。激しく動く自身の心を描かずにはいられなかったのでしょう。
では、絵をモノクロにしてみましょう。
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(右半分はモノクロに加工しています)
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(同上)
モノクロにすると、線が細くてぐにゃぐにゃしているのがよく分かります。まっすぐな線はほとんどありません。利き手と反対の手で描いたみたいで安定感がなく、なんだか不安な気持ちにさせられます。
この不安定な線から伝わってくるのは、過剰な自意識や不安といった、内面の負のエネルギーです。画家自身の破滅的な性分が作品に表れているかのよう。弱々しい線なのにその引力は凄まじく、鑑賞者の心をざわつかせます。
ちょうどいいデフォルメ
色が目を引くカラフルな絵画も、モノクロにすると線の魅力がよく分かります。
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「色彩の魔術師」とよばれるアンリ・マティスの作品です。
見ているだけで元気が出てくるような、鮮やかな色が魅力的ですが、これをモノクロにしたらどうなるでしょうか。
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意外とシンプルですよね。単純な線なのに、形が明確に表現されてるのがすごいところ。
そして力強い!思い切りのいい線です。画面からはみ出さんばかりの勢いがあり、躍動感にあふれています。
ところで、線の役割は輪郭を縁どることだけではありません。
マティスの作品には装飾のような抽象的な線がよく出てきます。たとえばこちら。
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マティスの最高傑作です。名前のとおり赤が目を引く作品ですが、これをモノクロにすると…
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植物のツルの存在感がすごいですよね。こんな風に部屋中を植物が這いまわっている光景は現実的ではありません。でも、このうねうねの植物の線があることで、作品がぐっと印象深いものになっています。
この発想の自由さが、観る者の想像力を掻き立ててくるんです。
子どもの落書きのような大胆さ、なのに素人では絶対に出せないこなれ感。このデフォルメ具合が絶妙です。
ちなみにマティスは切り絵を手掛けていて、切り絵でも躍動感たっぷりの線を堪能できます!(現在、展覧会もやっています。)
切り絵についてはこちらの記事で少し紹介しています。
線の魅力も要チェック
今回は絵をあえてモノクロにすることで、線の魅力を探ってみました。
色ももちろんですが、線もまた画家たちの個性を鮮やかに映し出しています。その一筆一筆に、彼らの情熱とアイデンティティが息づいているようです。