大胆で繊細で美しい!今も色褪せない琳派の魅力
今回紹介するのは、誰もが一度は見たことがある、江戸時代の画家、尾形光琳の傑作です。
尾形光琳といえば…「琳派」ですよね!
日本美術の代表ともいえる琳派。時代を超え国を超え、たくさんの人を魅了しつづけています。
みんな大好き琳派の魅力を、私にも語らせてください!
シンプルなのが、かっこいい
さて、琳派の絵ってすごくシンプルです。
さっそく作品を見てみましょう。
『伊勢物語』の主人公・在原業平たちが宇津山を越える場面を描いたものです。
ですが、肝心の在原業平が描かれていません。というか人物が1人もいませんよね。
のっぺりとした緑の野原に、あとはチョロチョロと蔦があるだけ。
心象風景というか、抽象画にも近い表現です。
ちなみに先ほどの『燕子花図屏風』も『伊勢物語』を題材としています。
作品のテーマは、『伊勢物語』に出てくる和歌「から衣きつつなれにし妻しあれば はるばる来ぬる旅をしぞおもふ 」。
この歌が詠まれた場所が八ツ橋、つまり燕子花の名所だったのです。それを燕子花「だけ」で表すのが粋ですよね。
分かりやすいエッセンスは提示するけど、あとは鑑賞者の想像に任せる、この余裕のある感じがかっこいい!!
また、こちらの『舞楽図屏風』も面白い作品です。
踊り手たちはぽつりぽつりと散らばっていて、一人ひとりの動きがよく見えます。彼らが立っているはずの舞台や地面は省略されており、踊り手たちは宙を舞っているかのようです。
画面に余計なものがないからこそ、舞の躍動感がダイレクトに伝わってきます。
一見バラバラな踊り手たちですが、衣装の色を見てみると、①向かって右端の面(右隻第一扇)に白、②右から2番目(右隻第二扇)に緑、③左から2番目(左隻第一扇)に赤、④左端(左隻第二扇)に青、と整理されています。このさりげない工夫が効いていて、鮮やかなのにスッキリとした画面となっています。
ちなみに、琳派の作品には金屏風のものが多いです。きらびやか&のっぺりとした金の背景に、シンプルな絵柄がぴったりです。
想像以上に大迫力
琳派の作品はシンプルなのにダイナミック!
その秘密は下地の華やかな金銀、そして何より大胆な構図にあります。
まずは、モチーフが対になっている構図を見てみましょう。
こういう対称な構図(対立構図)って、よく考えると不自然です。現実にはキレイに左右対称なものとか、鏡のように何かが対峙していることってあんまりないですよね。
そのため対立構図には、画家の下に全てがコントロールされてるような緊張感が漂っています。
それと同時に、左右に同じようなモチーフが配されることで、それぞれの存在感が二重に強調され、力強い印象です。
一方こちらは、モチーフが画面全体に散らばっているものです。
朝顔がなんと150輪!一つのモチーフをコピー&ペーストのように登場させる技法は、琳派が最初に用いたものです。
同じようものがたくさんあるというだけで迫力が出ますよね。
しかもその配置が絶妙!朝顔が地面から生えているのではなく、宙に浮かんでぐわんぐわん回転しているようです。ツルに沿って視線が大きく動き、ダイナミックなリズムが感じられます。
同じく其一の作品で、かなり大胆なものがあります。
画面の端から中央に向かって水が迫ってきます。その流れの激しいこと!画面を飛び出してこちらに溢れてきそうです。
木々がまっすぐな分、水流の斜めの勢いが強調され余計に激しく見えます。
ド派手な色も相まって、インパクトのある見た目です。
細かいところも抜かりなし
大胆で思い切った琳派の作品ですが、細かい部分も見逃せません!
改めて先ほどの『風神雷神図屏風』を見てみましょう。
ここで注目して欲しいのは雲の部分です。
輪郭のないもやもやとした墨。この形がない感じは本物の雲のようです。
絵の具が乾かない内に別の絵の具を重ねることで、にじむような筆致になっています。これは「たらしこみ」という技法で、琳派を中心に用いられました。
「たらしこみ」はいろいろなところで使われています。たとえば、尾形光琳のこちらの作品にも。
独特な水紋に目がいきがちですが、左右の梅に注目です。
たらしこみが使われているのは木の幹のところ。抽象的な花弁に対し、こちらは意外と写実的。
ゴツゴツした木肌に苔むした様子が、たらしこみでリアルに表現されています。
そして、琳派の繊細な描写を楽しめるのがこちらです。
屏風いっぱいに花があり、さながらオシャレな壁紙のよう!
ですがよく見ると、葉脈や花びらの一枚一枚まで丁寧に描かれていて、絵師の技が光っています。
華やかで綺麗で繊細な花々たち。装飾的に美しいだけでなく、生きた植物としても魅力的です。
余談ですが
箱根の岡田美術館には、ある琳派の作品をモチーフにしたチョコレートが売られています。
めちゃくちゃお洒落じゃないですか!?
元になったのは、神坂雪佳の『燕子花図屏風』。もちろん、尾形光琳の『燕子花図屏風』からインスピレーションを受けた作品です。
この絵を知らなくても、お店にこんなチョコがあったら目を引きますよね!
今見ても斬新で、かっこよくて、美しい…!
琳派の美意識そのものは、今でも決して色褪せません。