ビル・トレイラーが筆を持ったのは、85歳からだ:感性に年齢はない。
ビル・トレイラー(Bill Traylor,1853-1949/US):いわゆるアウトサイダー・アート(アール・ブリュット)に分類される作家だ。しかし、その作品に着目されたい。感性は教育されるものでない、トレイラーが筆を持ったのは、85歳からだ。
Fig.Bill Traylor's work
Bill Traylor
概要を語るにも、正式な確実な、初期からの資料が実に少ない。
(ただ、概ねの流れを記述したい。)
アフリカ系アメリカとして、奴隷制の中でトレイラー生まれた訳だ。(Benton, Alabama)
そして、両親は、綿花栽培プランテーションのいわゆる奴隷だった。
1865年、トレイラーが、南軍が北軍に敗北したのを目撃している記述がある。
南北戦争の終結により法的な解放が保証されたが、トレイラーは南部のジム・クロウ法(人種分離の州法)の経済構造の中で生きざるを得ない状況だった。
奴隷解放宣言(Proclamation 95)された後も、トレイラーは、その人生を小作人として過ごした。
トレイラーが絵を描き始めたのは、アラバマ州モンゴメリーに引っ越してから1939年以降のことだと言われる。
と言うことは、概ね85歳の時に、ビル・トレイラーは、鉛筆や筆と、まずは段ボールの切れ端に、それまでの辛い思い出や、観た来た事象を記録した、いや、せざるを得なかった言ったらよいだろう。
モンゴメリーのアフリカ系アメリカ人コミュニティでの活動が、ビル・トレイラーが描き始めた時だろう。
1939-1942年までの間、ビル・トレイラーは、概ね1,500点の芸術作品を制作しのだ。
1940年には、トレイラーの最初の公開展を開催したが着目はなかったようだ、その当時の背景から、当然といえばそうなのかも知れないが、1970年代後半になって、アメリカの民俗芸術(フォークアート)と現代芸術の重要人物な1人として、トレイラーは、没後30年上経って受け入れられたと言うことだ。
これには、チャールズ・シャノン(Charles Haslewood Shannon RA,1863- 1937/UK-画家・美術誌等での評論)の学術的な視点と美術の世界での進化するプロセスに基づいてるのだろう。
このシャノンとの出会いの後、トレイラーにポスターカラー、ブラシ、画用紙等を供給されて、そこで、本格的に描き始めた訳だ。
その時期には、同州の新聞でレビューがあったが、トレイラーの作品は画廊で扱われる事はなかったようだ、販売されなかったと言う事だ。
私も、書いていて、なんだか、悲痛な思いだ、ビル・トレイラーは、その時も少額の公的扶助の給付金(日本で言う、生活保護だ)での生活だ。
付け加えると、1942年、トレイラーはニューヨークでデビューを果たしている。1月5日-1月19日まで、エシカル・カルチャー・フィールズトン・スクール (Ethical Culture Fieldston School)は、ビル・トレイラー:アメリカン・プリミティブ(American primitive)を主催された。それは、MoMAのディレクターの主催だったが、どこの美術館からもトレイラーの作品を購入する事にはならなかった。
残念だが、そう言う時代だ。ただ、MoMAのディレクター(Alfred H. Barr Jr.)は、作品ごとに1ドル、または、2ドルしか提供しなかった事で、その取引は即時に失敗した。
1942-1945年までは、トレイラーはデトロイト、シカゴ、ニューヨーク、フィラデルフィア、ワシントンDCで子供や他の親戚と暮した。
そして、壊疽(えそ)で足を失い、晩年は、モンゴメリーに戻り、娘と暮らしたと言われている。
決して、小作人から、生涯を通しての路上生活者だった訳ではないのだ、自身の思想もその絵画に表象されている事を見れば、その堅い意思を理解できるだろう。
1949年10月23日、オークストリート病院(モンゴメリー)で亡くなる、95歳だった。
まず、迫害の中を生き抜き独学で、その筆の先にあるのは、原始的な絵画である訳だ。アウトサイダー・アートを語るうえには、最適な人物像だろう。ただ、本来は、その人物像より、詳細に、作品を観てもらいたい。
Bill Traylor's work
「すごい絵を描いていようとも、誰もその絵を見ないとすれば、そんな天才はいないことになるでしょう」-マルセル・デュシャン
The Bill Traylor Painting Steven Spielberg Gave to Alice Walker | Christie's
(追記)人は生まれる年代や場所を選べない。そのうえ、次から、次にやって来る苦難は、その人をカタチ作る、という言葉のまさに典型のように感じるだ。確かに、晩年には、ビル・トレイラーの表情は、以前と変化しているように思えるのだ・・
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