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エンターテインメント・ロイヤーズネットワーク編
エンターテインメント法務Q&A〔第3版〕
株式会社 民事法研究会 発行

より許諾を得て抜粋
協力:エンターテインメント・ロイヤーズ・ネットワーク


Question

 日本舞踊の名取として、流派に名取の登録料や会費等を納めつつ、流派名を含む芸名を名乗り、舞踏を上演し、弟子に稽古をつけることで生計を立てていたが、家元から「お前は気に入らないから破門だ」と言われ、破門を言い渡されてしまった。どうすればよいか。

Point

① 流派に帰属する知的財産権と破門の効果
② 破門を裁判所で争える場合
③ 破門が無効とされる場合


Answer

1.流派に帰属する知的財産権と破門の効果

 ⑴ 舞踏の著作物
 舞踏の振り付けは「舞踊の著作物」(著作権法10条1項3号)に該当することがある。東京地判平成24・2・28裁判所ウェブサイト(平成20年(ワ)9300号)〔Shall We ダンス事件〕は、社交ダンスの振り付けが舞踏の著作物に該当するためには、それが単なる既存のステップの組合せにとどまらない顕著な特徴を有するといった独創性を備えることが必要であると解するのが相当であるところ、原告の振り付けは、ありふれたものにすぎないとして、著作物性を否定した。他方で、福岡高判平成14・12・26裁判所ウェブサイト(平成11年(ネ)358号)は、日本舞踏の振り付けにつき、流派のために作られた創作音曲に独自の振り付けがされたもので、当該流派を象徴する舞踊であることや、伝統芸能・民俗芸能として手本となる踊りがあったとしても、それとは離れて独自性のある振り付けがされたもので、コンクールで受賞する等、客観的にも芸術性が高いことを理由として、振付者の思想、感情を創作的に表現したものであるということができ、十分に著作物たりうる創作性を認めることができるとして、著作物性を肯定した。
 舞踏の著作物に関する裁判例は少ないが、日本舞踊の振り付けの中には、著作権登録されているものも見受けられる。
 流派で踊り継がれる舞踏の著作物は、流派の門弟等に限り利用が許諾されることが多く、門弟等による上演等に際しても許諾を得る手続を定めている流派もある。
  その他の知的財産権
 伝統芸能の流派では、家紋や流派名、代々引き継がれる家元の名前等(以下、「流派名等」という)につき、商標登録を行っていることがある。また第三者が、商品等表示として周知または著名である流派名等を使用することは、不正競争(不正競争防止法2条1項1号、同2号)に該当することもある。こうした流派名等については、流派の門弟等が、一定期間の修行を行い試験に合格する等流派で定められた条件を満たした場合に、使用を許諾されることが多い。
 ⑶ 破門の効果
 流派から破門(流派の門弟や名取等の資格・地位の剥奪、除名処分を、以下、「破門」という)された場合、芸の基盤たる知的財産権の利用・使用許諾が得られなくなる結果として、流派に著作権が帰属する舞踏を上演等することができなくなり、流派名等を含む芸名を名乗ることもできなくなることがある。

2.破門を裁判所で争える場合

 ⑴ 法律上の争訟
 破門された者としては、流派の門弟や名取等の地位にあることの確認、破門が無効であることの確認の訴えを提起することが考えられる。
 しかし、紛争が起きた場合、いつでも裁判所の司法判断を求められるのかというと、そうではない。裁判所の審判の対象となるのは、「法律上の争訟」(裁判所法3条1項)、すなわち、当事者の具体的な権利義務または法律関係の存否に関する紛争であり、法令の適用により終局的に解決することができるものに限られる(最判昭和41・2・8民集20巻2号196頁)。
 そして「法律上の争訟」とは、あらゆる法律上の係争を意味するものではなく、たとえば一般市民社会の中にあって、これとは別個に自律的な法規範を有する特殊な部分社会における法律上の係争のごときは、それが一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り、その自主的、自律的な解決に委ねるのが適当であり、裁判所の司法審査の対象にはならないとされている(いわゆる部分社会の法理。最大昭和35・10・19民集14巻12号2633頁)。
 ⑵ 破門が法律上の争訟にあたる場合
 破門の有効性が司法審査の対象になるか否かについては、下記の裁判例のように、流派の実体や争いになっている地位の性質等諸般の事情を総合考慮して決されることになる。
  🄐 破門が法律上の争訟にあたるとされた裁判例
 家元から破門された日本舞踏家が、名取の地位にあることの確認等を求めた事案において、東京地判平成28・5・25判タ1448号202頁は、当該流派の名取の地位は、著作権が取得されている当該流派の舞踊の振り付けを上演するための権利の基盤であり、日本舞踊家としての職業活動および事業活動の基盤であることに加え、当該流派の家元と名取を構成員たる会員とする団体の総会における議決権を伴う会員資格の基盤でもあるといえるとし、当該流派の名取は、著作権の対象演目の上演に係る権利や多大な事業上の権益に加えて、当該流派の組織の中核を成す該流派の家元と名取を構成員たる会員とする上記団体という事業上の重要な影響力を有する団体において議決権等を有するなど、その地位に基づいてさまざまな権利利益を付与され享受しているということができるため、これらの権利利益は、単なる事実上の利益にとどまらず、法的利益と評価されるものというべきであると判示した。そのうえで、当該除名処分は当該流派の「名取たる者が、当流規則に重大な違背あるとき、また当流を誹謗し、その他、著しい非行のある場合には、家元は実情調査の上、除名を申し渡すことがある」という規則を根拠として行われたものであり、裁量権の範囲の逸脱またはその濫用があったか否かという観点から除名処分の適否が争点となり、このような裁量処分の適否に係る判断は除名処分等の懲戒処分の適否全般について一般にとられている判断枠組みに基づく裁判所の審査に適する事項ということができるとして、当該確認の訴えは「法律上の争訟」にあたり、司法審査の対象になると判示した。
  🄑 破門が法律上の争訟にあたらないとされた裁判例
 小唄の流派の家元から破門された者が破門の無効の確認等を求めた事案において、東京地判平成17・11・16公刊物未登載(平成15年(ワ)27685号)は、当該流派は私的な任意団体にすぎず、当該流派に属するということは家元の弟子として、小唄の指導を受け、流派の一員として演奏会に参加し、家元から名取名を与えられた後はその名取名を名乗ることが許されること等を意味するものの、師弟関係を結びまたは解消するための要件や、師弟関係にあるということが双方にどのような効果をもたらすかは明らかではなく、小唄の指導への月謝等も、家元の弟子であること自体についての対価として支払われるものであるとは認められず、当該流派に属し、家元と師弟関係にあるということは、法律上の地位ではなく、事実上の関係にとどまるとして、司法審査の対象にはならないと判示した。
 また、家元から破門された華道家が、破門の無効の確認等を求めた事案において、東京地判平成21・1・13公刊物未登載(平成19年(ワ)21683号)は、当該流派においては、家元が個人的な意思で流派としての意思決定を行っており、定期的な会費の徴収はなく、各種免許を発行する際に弟子から支払われる一定の免許料は、家元の個人的な収入として処理されていること等からすれば、当該破門は、流派を個人的に営んでいる家元が個人としてしたものであり、このような個人の流派における師匠と弟子の関係をどうするかは結局家元の自由な判断に委ねられているとしたうえで、免許も当該流派の中で一定の技量等を有することを家元が認めたものにすぎず、流派内における師匠と弟子の関係を超えて、直ちに法律的な権利義務が生じるという関係ではなく、破門はこうした流派における師弟関係の解消を宣言するものにすぎないとして、司法審査の対象にならないと判示した。

3.破門が無効とされる場合

 破門の有効性が「法律上の争訟」の争いであるとされた場合でも、破門は一次的には家元の合理的な裁量に委ねられているものと解されることが多いであろう。しかし、そのような場合でも、その裁量権の行使としての破門が、全くの事実の基礎を欠くかまたは社会通念上著しく妥当性を欠き、裁量権の範囲を超えまたはこれを濫用してされたと認められる場合には、無効になる可能性があると考えられる(最判平成18・9・14裁判集民221号87頁、前掲東京地判平成28・5・25参照)。

執筆者:若松 牧


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