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Q18 書籍掲載の写真や絵画等の接写

エンターテインメント・ロイヤーズネットワーク編
エンターテインメント法務Q&A〔第3版〕
株式会社 民事法研究会 発行

より許諾を得て抜粋
協力:エンターテインメント・ロイヤーズ・ネットワーク


Question 

 テレビの旅番組で、その地域の歴史を紹介したいと考えている。その際に、①その地域の昔の絵図や、②その地域のお寺の本堂にある著名な仏像の写真を利用したい。これらは、書籍に掲載されているもので、それを接写する予定である(絵図や写真の部分のみ接写する)。出版社に許可をとらなければならないと考えて調べたが、この書籍はすでに絶版で、出版社の連絡先も判明しなかった。このまま番組に利用して問題ないか。

Point

① 昔の絵図や仏像の著作権存続(保護)期間
② 絵図の権利関係
③ 仏像の権利関係
④ 権利者不明の場合の措置


Answer

1.本問の趣旨

 本問の趣旨は、テレビ局の制作担当者が、番組内で絵図と仏像の映像を使いたいと考えており、そのための手段として、現物を直接撮影するのではなく、すでにある写真を使用することを検討しており、その写真も、すでに刊行されている書籍に掲載されているものを使いたいというものである。まとめると、絵図・仏像の現物は、Ⓐ書籍掲載のための撮影→Ⓑ書籍に写真を掲載→Ⓒその写真を放送のために接写→Ⓓ放送という4つの作業を経て放送されることになる。
 実際の場面では、「引用」(著作権法32条1項)や、ニュース番組等であれば、「時事の事件の報道のための利用」(同法41条)で許諾なく利用できる場合も多いと解されるが、ここでは、許諾が必要となる場合の権利関係について検討してみたい。

2.著作権の存続期間

 現行著作権法では、著作権の存続期間は著作者の死後70年(同法51条)とすることが原則とされているが、無名または変名の著作物、団体名義の著作物、映画の著作物など、いくつかの例外がある。また、旧著作権法との関係や、戦時加算(著作権法58条)との関係にも留意する必要がある。
 このように、著作権の存続期間を考えるにあたっては、専門的な判断を必要とする場合もあるが、本問のような昔の絵図や著名な仏像の場合、江戸時代やそれ以前のものなど、制作されてからかなりの年数が経過し、著作権(絵図も仏像も、ともに美術の著作物)を観念できたとしても、著作権存続期間が満了している場合も多いと思われる。このような場合は、著作物自体は許諾なく利用できる。
 それでは、本問のように複数の段階を経ている場合でも同様に考えてよいだろうか。前記のように、本問の場合、元の著作物について、撮影→書籍に掲載→接写→放送という4つの段階を経ている。このような場合、それぞれの段階で新たな創作性が付加されれば、その部分に著作物性が認められ、元の著作物の著作権存続期間が満了していたとしても、別途許諾が必要になる可能性があるのではないだろうか。

3.絵図の権利関係

 本問①の絵図について、元の絵図の著作権が存続していれば、原則として、その著作権者からの許諾が必要であることはいうまでもない。
 次に、その絵図を撮影した写真については、元の絵図の著作権者から書籍に掲載する場合、多くは、その絵図が極力「そのまま」再現されるように撮影することを求められることが多いと考えられる(これは放送のための接写でも同様であるが、放送の場合は、特定の部分にフォーカスするためのライティング(照明)をしたり、最終的に映像自体を加工することもあるので、一概にはいえない)。この場合、基本的には元の絵図に新たな表現が付加されるなど、撮影の段階で新たに創作性が付加されることは考えにくい。そうすると、絵図を撮影した写真を放送のためにさらに接写し、さらに放送したとしても、絵図の写真に関する著作権侵害が問題になることは少ないと解される。
 もちろん、絵図を「そのまま」再現するためには、機材の選択や照明のあて方など、相応の知識と労力が必要になるが、そのこと自体は著作物性の有無とは別個の問題である。
 したがって、本問に対する回答としては、元の絵図の著作権が存続していれば、その絵図の著作権者から許諾を得る必要があり、著作権が存続していないのであれば、許諾は不要ということになる。

4.仏像の権利関係

 これに対して、本問②の仏像のような立体物の場合、元の仏像の著作権が存続している場合に著作権者の許諾が必要になることは絵図の場合と同じであるが、それを撮影する際に創作性が生まれる可能性があり、そのような場合には、書籍用の写真の著作権者からの許諾が必要となる。
 本問に沿って、仏像を書籍に掲載する写真を撮影する場合を考えてみると、立体物である仏像をそのまま二次元の写真で再現することは不可能であるから、撮影の場所・時間の選択から始まり、撮影角度、照明の当て方、背景の選択など、その仏像の美術性を写真という平面に表現するために撮影者の創意工夫が必要となる。このことは、その写真自体の美術性を追求する場合でも、書籍掲載用に、どちらかといえばノーマルな写し方(本問における絵図でいえば「そのまま」再現する方向性での撮影)をする場合でも、その内容に異同はあっても、創意工夫が必要である点では変わらないと思われる。
 いかなる写真であっても、立体物を撮影すれば常に創作性が生まれるとまでは断定できないが、本問の仏像の場合は、写真撮影の段階で新たに創作性が生じ、その写真の著作権者からも許諾が必要となると考えておくほうが無難であろう。
 したがって、本問の回答としては、元の仏像の著作権が存続していれば、仏像の著作権者からの許諾が必要となることに加え、書籍用の写真の著作権者からの許諾が必要となる。
 なお、本問と異なり、屋外に恒常的に設置されている仏像の場合は、著作物としての元の仏像の利用は一定の場合を除き自由であるから(著作権法46条)、仏像の著作権の存続期間が満了しているか否かにかかわらず、放送に利用することができるので、許諾が必要であるのは著作物性が認められる場合の写真の著作権者のみである。
 また、著作権の問題ではないが、仏像の撮影に際し、敷地立入り等の許可が必要となる場合があることはもちろんであるし、それに伴って金銭負担が発生することもあり得る。

5.権利者不明の場合の措置

 書籍に掲載された写真を使用する場合、その写真の撮影者(著作権者)が表示されていないこともあり、また、表示されていても連絡先がわからないことも少なくない。こうした場合、その書籍を出版した出版社に問い合わせることが実務上多いようであるが、古い書籍の場合は、本問のように、当時の出版社が廃業していたり、連絡先が不明であるといった場合もある。引用等が成立する場合はよいが、許諾が必要となる場合は悩ましい問題である。
 著作権法上は、こうした場合のために文化庁長官による裁定制度(著作権法67条以下)が用意されている。放送の場合、時間的な制約で利用が困難な場合もあると思われるが、なるべく早期に権利処理の要否を見極め、裁定制度を活用することも検討してよいのではないかと考える。

執筆者:上村 剛


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